最初に申し上げておきます。
剣菱酒造 は一般向けの蔵見学はやってないんです。
「大手の酒蔵だから工場化してるんでしょ?人手余ってるんでしょ?大手だから見学ツアーくらいやってんでしょ?」
なんて思われがちだけど、その真逆です。
まず、工場化…してない、ぜんっぜん。
そりゃある程度、重いものを持ち上げたりの機械は一般企業並みに使うけど、酒造りの要のところは人の手のみ。
そして、人手?
白樫社長いわく「うちには営業マンはいません。営業にお金をかけるより、良い酒造りに金をかけたい。なので、こうやって皆さんをご案内できるのは私(社長)だけです」。
そんなわけで、剣菱の蔵見学ができるなんて、滅多にない機会なわけで。
じゃあ、なんで私、今回で2度目の蔵見学できるのかといえば、それはもう日本酒で繋がった酒友の縁、ほんっと人徳でもなんでもなく、縁なのです。
4年前の前回 は、酒商熊澤の初代女将のおかげ。
今回は、飲み手だけどただの飲み手ではない、この業界に精通している先輩のおかげです。
この日は、また格別に良い天気!
屋上のモニュメントが空に映えますね〜。
まずは、屋上のこちらの部屋でお話タイム。
話の内容は、主に 前回 と変わらず、剣菱は実は今は5社目であること。
そして、お江戸への下り酒であったこと、だから西の食にも東の食にも合うような味をずっと造り続けている、などなど。(前回のblog日記をご参照まで〜)
でも、今回聞けた話で面白かったのは、アル添(醸造アルコール添加)って、戦時下の米不足でアルコール添加したよろしくないお酒ってイメージがあるけど、醸造アルコールって江戸時代から使ってたんだって。
まぁ、それはそれで予想しなくはなかったけど、じゃあどうやって醸造アルコールが生まれたのか。
まだ明確ではないけど、一説によると、鎖国以前は海外からいっぱい人も物資も日本に入ってきていて、その中でポルトガルから来たのではなかろうか、だそう。
そんでもって、粗悪で頭が痛くなるようなアル添酒が出回ったのは、ズバリ、満州。
さてさて。
お話をいっぱい聞いた後は、蔵見学。
靴を脱ぎ履きしなくてもいいように、靴カバーをくださいます。
用意周到!
見学の内容も、前回 と大きくは変わらないので、ちょい足しする感じの備忘録。
(とか言いつつ、blog書いた後に見直したら、だいぶ色々書いてるな、わたしw)
上原先生の言葉にも「一に蒸し、二に蒸し、三に蒸し、四、五がなくて、次に麹」とあるくらい、お米の蒸しは酒造りの要。
その蒸しに使う「甑(こしき)」は、今のご時世、ステンレスが多くなってきているけど、剣菱では杉の木で、自分とこで作っている。
この甑で4年目だそう。
ステンレスより木製の方が断然質は上がる。
ただ、綺麗に掃除したり、時間がかかったり、とにかく手間暇コストがかかる。
でも、剣菱は「酒の味の為のコストは惜しまず使え」という家訓の元、こういうところにお金をかける。
酒母のお部屋。
名前の通り、お酒のお母さまでございます〜。
一般的には、酒母って30日前後で出来上がるのだけど、剣菱ではその3倍かかる。
というのも、造り方…に名前はないけど、言い方としては 生もとの前の造り=ほんとにほんとの最初の造りを継承してるから。
最新が速醸、その前が山廃、その前が生もとでお米をぐわしぐわしと蔵人がすり潰す重労働によってできる。
で、はい、その前!
蔵人が重労働をする生もと造り以前の造り方をしているんです。
だから、そりゃまぁ発酵するのに時間はかかります。
「時間がかかって酒母が造れねぇ!」ってんで、じゃあ、ぐわしぐわしと米をすり潰したらええやんって生もと造りができた、そんでそれをもっと省略するべく山廃、さらにもっと省略して速醸…てな感じ。
麹造りの部屋にくると、蔵人さんが、放冷中。
白樫社長が「食べてみてください」っていうので、遠慮なく。
ほんのり栗のような味がしたらいい感じ。
ちなみに、こんな大手なのに…超大量のお酒を毎日仕込んでいるのに…
使っている道具は、箱麹(でっかいやつ)ではなく、麹蓋(ちっこいやつ)でーす!
まじか!!って最初思ってたけど、そういう手間暇かけて手造りにこだわってるから、お酒の味に自信が持てるんだろうなぁ。
しかも、麹室にヒーターみたいな温める装置ははない。
麹がはぜる時の自然の熱に任せてる、そっちの方が菌たちも居心地いいから、と。
白樫社長の言葉がわかりやすかった!
「暖房の効いた部屋と、自分の体温で温まった布団でぬくぬくしてるのと、どっちが居心地いいか」って話。
仕込みタンクの部屋。
櫂を入れる作業も一人一人、人の手で確かめる。
貯蔵庫がまたすごい!
この光景は、「THE 大手!!」って言えるかも(笑)
ちなみに、タンクに書いてある日付は、このタンクを製造&設置して、このタンクに何リットル入るか確認して稼働した日だそう。
っていうのもね、税務署に申請しないといけないことの1つ、タンクそれぞれ何リットル入るか明記しないといけないから。
そのために最初に水を入れて測量するとのこと。
で、その日、宮水はほとんど、この浜蔵に使われたので、周囲の酒蔵から苦情が来たとか(笑)。
精米。
これもまたでかい!しかもいっぱいある!精米パターンは20パターンほど設定できるそう。
これまでも、自社精米してる酒蔵さんは色々見て来たけど、この規模はスゴ〜イ。
ちなみにお米は、契約農家さんのはもちろん、高齢化などなどで継続不可能な農家さんの田んぼを買い取って、そこで育てた酒米も使っている。
蔵見学ラストは 木工房 。
甑のところでも書いたけど、酒造りに必要な木製の道具は、すべて、自社で造っているというからすごい!
なが〜〜〜い、これ。
職人さんが作業中でした。
編んで縄にする元になる竹をひたすら削る。
この竹も、安定して収穫できるように、自社生産なんだそう。
酒造りに必要な木製の道具を造っている会社も、高齢化に伴って年々減ってきている。
だから、そんな職人さんを剣菱が雇って、ここで働いてその技術を活かしているんだそう。
ちなみに、自社の木製道具はもちろん、他の酒蔵さんからも発注を受けているそうですよー!
すごーい!
ここは 菰(こも)= 縄 を作るためだけの工房。
樽酒を括る菰は、今は安いし汚れないしってことで、見た目にはほとんど変わらないビニールが使われているのだけど、「神前に捧げる樽酒にビニールでいいのか?」っていう疑問から、「ちゃんと本当の菰を使おう」と。
とは言っても、今は菰を作る工場は、もう無いんです。
だから、廃業した菰工場から、壊れた機械を買い取って、幸いなことに、工場を経営していた方がたった1人!まだ存命だったので、壊れたところを聞いて、使い方を聞いて、それを元に何台か複製して、ここまで来たんだとか。
今では、酒に関わることだけではなく、神事に関わる菰を色々造っている。
お正月に欠かせないしめ縄とかね。
白樫社長「一体、我々は何屋さんなんだ、と」(笑)
これにて蔵見学は終了。
この後は、試飲タイムでーす
常温とお燗、両方出してくださいました。
常温…と言っても、この日も寒くて、すでに冷たいお酒でした(笑)。
だから、お燗が美味しいこと美味しいこと!
前回も書いたし、剣菱に関してはもう有名な話だとは思うけど、基本的に全て熟成酒のブレンド。
なぜなら、剣菱の原点が、
「剣菱の味は変わらない」
だから。
やっぱり、その年の気候、米の出来具合などなどによって、どんなに同じように造っても味が変わってくる。
だから、数多くある熟成酒をあれこれブレンドして「剣菱の味はこれだ」ってとこに落ち着ける。
そのブレンダーが1人というからびっくり。
超責任重大だけど、心配するなかれ、ブレンダーのお酒は、社長含めて4人のチェッカーでちゃんと判断しているそうです。
私は今でも、「その年、その時、一期一会だからこそ、日本酒は面白いもんだ。」って思ってるけど、剣菱では「変わらないこと」をとても大切にしている。
逆に、それができること…っていうのかな、徹底して継承していることがすごいと思う。
さてさて。
ここでしか飲めないお酒もあります。
鬼菱 男山!!!
こりゃああ、うまーーーい!!!
(って、前回も飲んでるけど)
これ、買えません。
なぜなら売って無いから。
ここで働いている蔵人さんのための剣菱なのであります!
っていうのもネ。
剣菱は大手だから、スーパーとかいろんなとこに売るわけだけど、やっぱ返品って付きものじゃーないですか。
大手なだけに、その量もまあまあすごい、と。
でも、どんな状態で保存されてたかもわからないし、そんなものを再販するわけにはいかない。
だからって廃棄する・・・?
いやいや、そんなんもったいない!!!
じゃあ返品されたものは、蔵人で飲んじゃえー!
で、ただそのまま飲むだけではありません。
返品されたもの、いろいろブレンドしてみようぜー!
当然、その時々で味が変わってくるため、剣菱の方針「変わらない味」に反する。
だから剣菱として売るわけにはいかないです😊
でもねぇ、これがほんっとに、うまい。
しみじみ、うまい。
今回は、造り真っ只中ということもあって、たくさんの働く蔵人さんを目にすることができました。
食堂のセッティングとかも。
やっぱり、その場で働いている人を見ると、ググッとくるものがある。
みなさま、体を張る仕事でほんっとに大変だと思う。
剣菱に限らないけど、こうやって体を張る仕事人がいるおかげで、私は美味しいものにありつけるわけで。
本当に感謝です。
美味しい鬼菱をいっぱい飲んで、頑張ってください!
そして、今回も白樫社長に、お出迎えから見送りまで、本当にお世話になりました。
本当にありがとうございます。
幹事やってくれた先輩にも大感謝!
この日は、幹事以外の方とは、みんな初めましてだったから、新しい輪も広がりましたよ〜。
楽しいひと時をありがとうございました😊
すんごい小さな島なのですね〜。
「酒精強化ワイン」っていうのも初めて知りました。
改めて思うのは…
人類は意地でも美味しい酒を飲もう!って色々考えて色々やってきたんですねー(笑)
そいえばblogに上がることはなかなかないですね😅
なんやかんやで、やっぱ純米酒が好きなもので。
ポルトガルからのって話、突き詰めて行ったらなんだか面白そうですよね。
日本酒に限らず、ビールとかも、腐造しない対策、昔の人も色々苦労した話いっぱい聞きます。
今の政孝社長、実は相方と同い年(笑)!!
1977年生まれなので、46歳かな?
庄助さんの記憶、素晴らしい!
6年前の2017に社長に就任されております。
先代の達也さんが社長に就任したのが1994年、その次の年に阪神淡路大震災があって、ほんっと色々大変だったと思います。
東農大醸造出身かどうかは聞いたことはないです。
久しぶりに剣菱飲んでみてください。
きっと「あーやっぱこの味かぁ」って思うんじゃないでしょうか(笑)。
それが剣菱の家訓「止まった時計で居ろ」、味を変えない、それを続けてるってことだと思います。
>ポルトガルから来たのではなかろうか
可能性はありそうですね。ポートワインは14世紀くらいから作られていたみたいで、アル添(ブランデー)酒ですし、江戸時代の日本酒は良く腐っていたみたいなので、技術が伝わって、日本流になったのかもしれんね。
社長さんは45歳、先代の社長さんは70歳ぐらいでいらっさhるのかな。記憶(最近かなり怪しいのですが)が違ってなければ先代は東農大の醸造を出られた方だったような気がします。
数十年ぶりに剣菱飲んでみたくなりました。^^
愛山に関しては、まさにそうです。
兵庫(に限ったことじゃないのかな?)は、村米制度ってのがかつてあって、今でいう契約栽培ってやつですね。
「ここの田んぼはうちの酒蔵が使います」っていう。
そうやって山田錦が盛んになって、愛山も育ててたそうです。
が!
あまりいい話ではないから本文には書かなかったけど、、、盗む人がいるんですよねーーー。
愛山の種籾が盗まれたと。
本文の、山田錦の酒米の袋の前で、社長が大らかに笑ってらっしゃる写真。
この時は「中国のシャインマスカット事件と同じような感じですわー、あっはっはー」ってまさにその時の話をしてた時でした。
まさか剣菱がこのブログに登場するとは、夢にも思いませんでした(苦笑)❗
剣菱の酒に対する姿勢には、頭が下がります❗
ほとんど飲まない剣菱ですが(笑)、このブログを読んで剣菱が好きになりました❗
ところで愛山は元々剣菱の酒米だった、という噂がありますが、ご存知ですか❓