これ!どう思います?

マスコミがあまり報道しない様な問題を、私なりに考えてみます。

ファーウェイの問題 (その8)

2019-03-02 12:03:28 | 中国
 今回は中国の国有企業についてです。中国は、ファーウェイを支援して第5世代移動通信システム(5G)の市場を支配しようとしている様です。 さらに、国有企業を巨大化して、他の分野の席捲も目論んでいる様に思います。

【毛沢東時代の国有企業】
 毛沢東は民間企業を国有化し、その後”雨後の竹の子”の様に種々の分野で国営企業が設立されました。共産主義国ですから、民営企業は認めなかったのです。
 企業経験が殆ど無い共産党員が、それらの国有企業のトップになり、製造分野の企業では旧式の設備を使用せざるを得ない状況でしたから極めて生産性の低い企業でした。

【鄧小平の改革開放】 1978年12月~
 『低迷している経済を発展させて豊かになる』と言う課題を解決する手段として、共産主義者で有れば、国有企業を改革しようとするはずです。鄧小平は、”ひとまず”は国有企業はほっといて、民営企業の設立を許可し、外資を導入して新たな産業を興し/発展させることにしたのです。

 「建国後、既に30年ほど経過しており各国有企業には共産党員の既得権が定着して、改革に抵抗する」と鄧小平は考えたのだと思います。

(余談) (日本もそうでしたが)資本主義の後進国では、国が税金を投入して工場を作り、民間に払い下げて民営化しました。 中国には”三井家”の様な豪商は育っていなかったので、民間の受け皿が無かったのです。

 鄧小平の考え方を私なりに整理しておきます。 『共産党の存続が最優先課題であり、共産主義と言うイデオロギーには固守しない。社会主義の根本である”平等主義”も固守しないで、出来る事からやる。その結果、富/所得格差が拡大しても、遠いい将来には是正されるだろう!』
 鄧小平は、『他国に侵略されないためには、”富国強兵”が必要だ!』とも考えていたと思われます。経済の発展に注力し、”金”が沢山得られる様になってから、軍隊の近代化(”強兵化”)を進めることにしたのです。この考え方は、鄧小平以後も引き継がれています。

(余談:孔子学院) 中国政府は2004年から、中国語と中国文化を広める目的で外国の大学に”孔子学院”を開設しています。儒教は教えていない様です。”毛沢東学院”では外国に受け入れられ無いと考えたのでしょう。中国共産党が儒教を否定していない事は明らかです。”かちかち”の共産主義者で無いことも明らかです。

【改革前の国有企業】
 地方政府が企業を設立し、その企業が子会社を設立して・・・2010年頃には、国有企業は10万社もあった様です。数があまりにも多くて、実態を把握するのが難しいですが、日本にも中国の国有企業を研究されている方がおられ、インターネットに沢山論文が公開されています。もっとも詳しく知りたい方は『中国 国有企業 論文』で検索して下さい。

 国民に仕事を提供し、貴重な外貨を節約する事が国有企業の使命だったと推察します。採算性や需要予想などは無視して、工場を建設していったのです。典型例はセメントと鉄鋼の分野です。セメントの国有企業は1,000社も出来てしまい、その総生産能力(50億トン)は日本の100倍程にもなります。鉄鋼の国営企業が20社ほどあり、近年の粗鋼生産量は7~8億トン(日本は約1億トン)です。セメントも鉄も中国は多量に輸出しています。

 企業に国家が補助金を出して、製品価格を安く設定して輸出するのは国際ルール違反ですが、「中国政府がどれだけの補助金を出しているのか?」を、情報機関を持っているアメリカでも算出出来ないと思われます。中国のある国営企業が、新工場を建設したとします。用地は国有地ですから、多分ただ(=補助金)、工場の建物を国が建てて無償で貸す事にしたら、これも実質的には補助金です。

 「赤字の国営企業を何時までも存続させられない」と言う人がいましたが、少しずつ改善している企業もあります。鉄鋼の分野では近年収益性が改善され、さらに12億トンもあった設備能力を1億トン以上破棄してスリム化する計画を進めている様です。補助金無しでも国際競争力のある価格で製造出来る様になったら、日本も欧米諸国も、国際ルールに反する高い関税を掛ける様になると予想されます。

【国有企業の改革】
 2013年に習近平が国家主席になりましたが、その頃から国有企業の改革を検討し始めた様です。建国から60年以上経過して、国有企業は利権の温床で、巨額の賄賂が横行していました。然し、利権で潤っている国有企業の上層部は共産党員ですから、改革に抵抗するのは明らかです。

 習近平は、鄧小平のやり方をまねて、出来る所から改革する事にしたのだと思います。敵対派閥の人間がトップに座っている企業で、汚職の摘発をしてトップを据え替える作戦を始めました。敵側の力を削いで見方を増やし、企業を改革すると言う”一石二鳥”を狙っているわけです。

(余談) 汚職摘発のニュースは、敵対派閥を潰すために行っている様に報道されていますが、私は、①国有企業の経営改善と、②半独立国の様な存在だった巨大国有企業を中央政府がコントロール出来る様にするのが主目的だったと見ています。

 2016年からは、国有企業の株を民間企業に買わせる制度(混合所有制)を導入しました。明治時代の日本の様に、国有企業を豪商に払い下げる方式では有りません。企業のトップは共産党員であり、経営権は共産党が握ったままです。

 習近平は、一部の分野の国有企業では単に赤字を減らすのが目標では無く、その分野で世界的な企業に成長させると言う遠大な目標を掲げて、金と人材を集中的/戦略的に投入していると私は見ています。そして、成功している様にも思えます。

【現在の国有企業】
 中国では民間企業が急激に成長していますが、現在でも中国の大企業は殆ど国有企業です。アメリカの雑誌・フォーチュンの2018年版では、第2位から第4位は中国の国有企業でした。

★世界第2位:国家電網(ステートグリッド) ;売り上げ=38兆円
 2002年に発電と送電事業を分割し、国家電網は送電を担当しています。イタリア、ポルトガル等の電力会社に投資しています。(発電は4社?に分割されています。)

★世界第3位:中国石油化工集団(シノペック) ;売り上げ=36兆円
★世界第4位:中国石油天然気集団公司(CNPC) ;売り上げ=36兆円
◎世界第5位:ロイヤル・ダッチ・シェル;売り上げ=34兆円(セブンシスターズの1社)
◎世界第6位:トヨタ自動車 ;売り上げ=29兆円

 セブンシスターズ(国際石油資本7社)に関する記事が昔は時々報じられましたが、近年は死語の様になってしまいました。その間に、中国の石油企業の2社は、セブンシスターズよりも大きくなったのです。

 2009年から、国外の石油や天然ガスの採掘権を持つ企業を買収したり、投資したりしています。中国には石油も天然ガスも埋蔵されていますが、国策として海外の資源を支配しようとしているのです。(逆に日本には、殆ど埋蔵されていないのに、民族系石油会社は出光興産だけになっています。政府は不測の事態を全く考えていない様に思えます!車を持っておられる方は出光で給油して下さい‼)

 近年、内政混乱が伝えられるベネズエラの国営石油会社(ペトロレオス PDVSA)に中国が資本参加している様です。政情不安になった石油産出国は、中国の餌食になる可能性があります。 なお、ベネズエラは石油の確認埋蔵量が世界一です。中国の石油戦略を放置していたら、石油輸出国機構(OPEC)では無く、中国が石油の産出量を決める様になる恐れがあります。

【私が注目している国有企業】
① 中国鉄路総公司
 鉄道の総路線距離の長さでは、一位がアメリカで、中国が2位です。アメリカは民間企業8社と公営のアムトラック1社で運営されています。中国は地下鉄などの都市交通を除いて、国有企業の中国鉄路総公司が全て運営しています。

 中国でも鉄道は貨物の輸送がメインでしたが、2008年に北京市と天津市間に高速鉄道(高鉄)が敷設された後、高速鉄道網の整備に毎年巨額の予算を投入して来ました。2018年末の高速鉄道の総延長は2.9万kmにも達しています。(日本の新幹線は3,130kmですから、既に10倍ほどになっています。) 高速鉄道は建設費が高く、運転/維持費も高いため大幅な赤字が毎年発生している様です。

 中国では経済の発展につれ貨物の輸送量が急激に増加していますが、高速鉄道では客車しか走りません。従って、トラックによる輸送に頼る事になりますが、廃棄ガスや交通渋滞等の問題が大きくなって行くと思われます。習近平が、中国鉄路総公司をどんなに改革するのか?私は注目しています。

② 国家電力投資公司(国電投 SPI)
 2015年に、原子力発電分野の国有企業であった国家核電技術公司(国家核電)と中国電力集団公司(中電投)を合併させて、国家電力投資公司が誕生しました。(総資産=12.8兆円、売上=3.2兆円・・・2015年)

 2007年に国家核電技術公司は、ウェスティングハウスの最新技術の原子力発電所”AP1000”を発注し、2018年に発電を開始しました。(三門1号機=AP1000の1号機)

 企業規模を拡大して、国内だけでなく外国にも原子力発電所を建設するのが中国政府の狙いの様です。原子力発電の分野では、他にも中国核工業集団公司と中国広核集団公司が有り、3社体制になっています。

③ 国家能源投資集団有限責任公司
 2017年に中国国電集団公司と神華集団有限責任公司が合併し、世界一の電力会社”国家能源投資集団有限責任公司”が誕生しました。 総発電能力=2.26億kW、総資産=30兆円(東京電力の総発電能力≒0.6億kW)

④ 中糧集団有限公司
 穀物の輸入は中糧集団有限公司が担当している様です。この会社はフォーチュン500に登場する大企業です。国外で中規模の穀物会社を買収し始めています。

(余談) 日本の商社は、国内だけで無く中国にも穀物を売っています。特に丸紅は2013年に米国のガビロン社を買収して、”穀物メジャー”と呼んで良いほど多量に穀物を扱っています。”JA全農”は海外に多数穀物の貯蔵/出荷設備を保有して、商社と同じ役割をしています。