これ!どう思います?

マスコミがあまり報道しない様な問題を、私なりに考えてみます。

紙の話し (その1)

2019-08-10 11:41:39 | 工業技術
 今まで、余り技術屋らしい記事は書いて来ませんでしたが、私は一応、端くれの技術屋です。今回から、皆さんに身近な紙について書きます。

【紙はプラスチックの代替品になる!?】
 近年、プラスチックゴミを減らす運動が世界的になって来ています。その象徴がプラスチック製のストローの廃止です。紙製のストローの目途がついたので、出来る所から始めようと言う運動です。

 ヨーロッパ諸国では30年以上前(1990年頃)から、プラスチック製品を減らす取り組みが始まっていました。日本では、少し大型の家庭電器製品を買うと、製品を固定するために成形した発泡スチロールが用いられ、それを段ボール箱に入れています。ヨーロッパでは、発泡スチロールを使用すると、メーカーが持ち帰る事になっている様でした。某大手企業から、私に「発泡スチロールで無い緩衝材を共同開発しませんか?」と言う話が来ました。

 「日本では何故発泡スチロールの緩衝材が許容されるのか?」疑問に思い調べてみました。中小企業の多いい、発泡スチロール製緩衝材のメーカーを潰せないと言う、政治的判断が主な理由の様でした。それ以来、プラスチック・ゴミについて情報を集めています。

 緩衝材は、古紙を原料とするパルプモールドで作る事が出来ます。パルプモールド業界は、現在元気が無くなっている様に見えますが、プラゴミを減らす運動が盛んになると、活気を取り戻せると私は考えています。

【紙の分野では、日本はガラパゴスです】
 紙の分野では、日本はガラパゴス諸島の様な、貴重な存在です。紙はISO(国際標準化機構)とJIS(日本工業規格)の規格が有りますが、日本では規格に無い特殊な紙が種々市販されています。

 製紙会社から、製紙機械メーカーに「こんな紙を作りたい!」と言うと、外国のメーカーだと「開発費用は?、需要は?、価格は?、利潤は?」と考えてから始めます。日本では、「何とかして顧客の要望に応えたい」と考えて、取り敢えず開発を始めてみます。

(例 :新聞用紙) 薄くて強度の高い新聞用紙! 日本経済新聞は、他の大手全国紙よりページ数が多い様です。配達員の負担を軽減する為には、ページ数が増えても重くならない→紙を薄くしたい。 一方、日本の大手全国紙は発行部数が多いい→三菱重工が輪転印刷機の高速化を進めた→紙の強度を高める必要が有った。(大昔、私は2回、新聞社の輪転機を見学しましたが、現在の輪転機は全く別物だそうです。新聞社は見学会をやっていますから、是非とも参加して見て下さい。見られたらビックリされると思います!)

(余談) 新聞の印刷は配達時間厳守の為に、印刷中のトラブルを極力抑える必要が有ります。紙の強度不足で印刷中に紙が破断したら、輪転機を一旦止める必要が有ります。紙の破断原因として想定されるのは、紙の強度だけでは有りません。昔、私が出向していた製紙機械のメーカーは、独自の優れたアイディアの装置を、新聞紙を製造する製紙メーカの殆どに納入していました。

(例 :新聞用紙) 2000年頃に聞いた話ですが、元旦の一面(第1ページ)は白い特別な新聞用紙を使用するそうです。昔から、各社とも一面に天皇陛下の写真を掲載するからだそうです。

(例 :紙のサイズ) 紙のサイズには色々有りますが、私達の身近に有るのはA列とB列の2種類です。B列はISOにも規格が有りますが、日本のB列は少し(6%ほど)広いです。(昔は、何故か官庁に提出する書類はB列の用紙が要求されました。図面はA列でも許容されましたが、A列とB列の紙を製本する事になりましたから苦労しました。)

【製紙設備の見学をお勧めします!】
 製紙会社も工場見学会を開催しています。一般に製紙工場は暑くて綺麗な環境で無いので少し覚悟して参加する必要があります。苫小牧に行かれたら王子製紙の新聞用紙の製造ラインを、是非とも見学して下さい。幅8メートルの紙が、一分間に1.7キロメートルの速さ(時速100キロメートル)で流れています。(四直三交代で24時間操業していますから、)一台の機械で、一日に8m×2,400kmの紙を製造している事になります。

 私が知っている超大型の製紙機械(抄紙機)は、日本製紙の石巻工場とレンゴーの八潮工場にも有ります。最新鋭の抄紙機はいわき大王製紙に有ります。残念ながら、3工場とも公開していません。子供達に工場見学をさせるのは、良い思い出作りになると思いますよ! 「全国社会科見学施設一覧」で検索すると、種々の分野の工場見学会が紹介されています。

【洋紙の原料】
 洋紙の(元の)原料は木の幹です。現在市販されている紙の多くには、古紙が使用されていますから、古紙も原料と言えます。古紙が100%の紙も有ります。

 日本は雨が多いいので木が良く育ちます。国土の大半は山林ですから、紙の原料は自給出来そうに思いますが、現在は大半を輸入しています。木材チップかバージンパルプとして輸入しているのです。詳しく知りたい方は、「日本製紙連合会」のホームページを開いて見て下さい。

 木材から得た”繊維”をパルプと呼びます。細かい話を省略すると、パルプには、機械パルプ、化学パルプと漂白パルプの3種類があります。これらのパルプを乾燥して、板状かロール状に成形したものが”バージンパルプ”です。

機械パルプ(MP) :①木を伐採→②木材を破砕→③木材チップ→④水中で砕いて繊維にする→⑤機械パルプ

化学パルプ(CP) : ③木材チップ→④釜にチップと薬品を入れ高温/高圧で煮る(蒸解工程)→⑤化学パルプ

漂白パルプ :⑤蒸解工程のあと→⑥薬品で漂白する→⑦漂白パルプ

 元の木材が100%だったとすると、機械パルプの歩留まりは80%、化学パルプは50%になります。化学パルプは蒸解工程で、繊維のリグニンを除去しています。機械パルプで作った紙よりも格段に強い紙(クラフト紙)が得られます。クラフト紙は薄い茶褐色で、セメントの袋や、(身近では、)クラフトテープに使用されています。

 機械パルプは最初は白色ですが、リグニンが残っていますから、時間が経つと色が付いてきます。機械パルプは新聞用紙が代表例ですが、現在の新聞用紙は古紙が混入されていますから、純粋な機械パルプ紙では有りません。

【繊維の構造】
 植物の繊維は三層になっています。真中の円を大きく、三重丸を書いて見て下さい。一番外の層がリグニン、真中がヘミセルロース、一番内側をセルロースと呼びます。綿の繊維は、ほぼセルロースです。セルロースは水には溶けません。人が食べても無害で、体内の菌が分解するので少し吸収してエネルギー原になる様です。

 私が見た工業用セルロースは、真っ白い、サラサラした紛体でした。セルロースは種々の分野で使用されています。セルロースは、ニトロセルロースにして樟脳を添加して、熱を加えるとプラスチックの様に成形出来ます。(これが、セルロイドです。)昔は、映画のフィルムや、キューピー人形等にも使用されていましたが、非常に燃えやすいので現在は、身近な製品には殆ど使用されていません。(セルロースは入手可能ですが、自然発火する恐れが有りますから、素人には危険物です!)

【繊維が絡まって紙になります】
 1993年頃、キーエンス社から顕微鏡を借りて、種々の紙の表面を観察した事が有ります。残念ながら映像の記録は残せませんでした。普通の光学顕微鏡では無理ですが、キーエンス製では繊維の太さ、長さ、絡まり状態がはっきりと確認出来ました。繊維の太さも種々で、長さもマチマチな事が分かりました。

 紙は、接着剤で繊維をくっ付けている分けではありません。無数の繊維が複雑に絡まり合っているだけです。

【着色した紙】
 2000年頃の話ですが、大手製紙会社の某工場で数人の女性達が、1メートル四方程に裁断され、着色された紙を、高さ1メートル程に積んで、一枚一枚目視検査していました。気の遠くなる様な作業です。

 着色した和紙が市販されていますが、完成した紙を染めている様です。洋紙は漉く前に繊維を染めていました。色ムラが出易いいので、検査が必要とのことでした。

【塗工紙】
 紙の表面がツルツルで光沢が有る紙を見掛けますが、炭酸カルシウムやカオリンの粉を糊(や接着剤)に混ぜた塗料を紙に塗布してたもので、塗工紙と呼ばれます。塗工紙に印刷すると綺麗に仕上がりますが、古紙の再利用と言う点では、好ましく無い紙です。

 某大企業では、事務所で出るゴミの回収箱が、塗工紙用と他の紙用が別になっていました。然し、一般家庭で塗工紙を分けるのは難しいですから、なるべく塗工紙を使用しない社会になる事を期待しています。

【カレンダー(calender)】
 二本のロールを強く押し付けて、その間に紙を通すと紙の表面は平坦になり、光沢が出てきます。より平坦に、より光沢を出したかったら、何組ものロールの間を通します。この装置をカレンダーと呼びます。

 専門用語では、1回圧力を加える事を『1ニップ』と呼びます。印刷用の紙は、8ニップ~12ニップです。塗工紙ほどの光沢は出ませんが、私にとっては十分過ぎる光沢のある紙の様に思います。

(余談) 製紙の分野の人でも、英文の資料を書く時、歴のカレンダー(calendar)のスペルを使用される方がいますが、製紙のカレンダーは”calender”です。