時事解説「ディストピア」

ロシア、イラン、中国等の海外ニュースサイトの記事を紹介します。国内政治、メディア批判の記事もあります。

日本の上映の自由について

2015-01-31 23:57:33 | マスコミ批判
「あなたはシャルリーか?」

表現の自由を盾にレイシズムを正当化してはいないか?
言論の自由を掲げながら、自国の弾圧を看過してはいないか?

あなたは差別者と被差別者、どちらに味方するのか?

このような意味を込め、私は上のフレーズを使っている。


さて、先日、サウジアラビアの建国を批判的に描く映画「砂の王」が
なぜか無視される一方で、反イスラム映画として批判を受けている
「アメリカン・スナイパー」が映画不況の今、わざわざ公開することを述べた。


これに関連して、日本ではある映画が公開禁止になっていることを指摘しよう。


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アンジェリーナ・ジョリー監督の映画「アンブロークン」の日本公開が禁止




アンジェリーナ・ジョリー監督による、
旧日本軍の捕虜となった米国人を描いた映画「アンブロークン」の日本での公開が禁止されました。


この映画は、アメリカで昨年12月25日から公開され、
4730万ドルの興行収入を挙げていますが、日本では公開が見送りとなる見込みです。


アメリカの大手映画会社・ユニバーサルピクチャーズが制作した、
この映画の日本公開は、日本の配給会社・東宝東和が請け負うことになっていましたが、
東宝東和は今回の日本公開中止の理由については発表していません。


インターネットによる日本の独立系右翼は、
様々なブログやサイト上で、大々的にこの映画への反対を示しています。



この映画は、第二次世界大戦中に日本軍の捕虜となり虐待を受けた元五輪選手で、
アメリカ軍のパイロットだった、ルイス・ザンペリーニ氏の生涯を描いた映画です。


外国の配給元企業はおそらく、日本における映画館での
この映画の公開権や家庭用映画としての販売権を買い取ることになると思われますが、
これまでに日本国内でこの映画の公開に名乗りを上げた企業はありません。


これ以前にも、複数の映画が日本の右翼の怒りを煽り、
日本での公開に際して問題に直面しています。



例えば、2009年に公開されたアメリカのドキュメンタリー映画
「The Cove」(ザ・コーヴ、入り江の意)は、
和歌山県で行われているイルカの追い込み漁について描いていますが、
これは日本の右翼の大規模な抗議を招きました。



日本の映画作家の想田和弘氏も、
『上映禁止が懸念されるドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」を論じる』
という討論会を行っており、日本国民から批判され、
左翼、韓国と中国の諜報員として非難されています。

こうした過激な反応により、
日本では映画産業における自己検閲という現象が生じています。


http://japanese.irib.ir/news/latest-news/item/
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「ザ・コーヴ」について一言、付け加えるならば、
この映画のDVD盤には捕鯨を擁護する東海大の教授の「解説」が特典として付いている。


これは、アンネの日記の巻末にホロコースト否定説が添えられているようなもので、
このような「両論併記」がない限り、日本では販売すら危ういことを物語っている。




このような露骨な社会的抑圧に対して怒りを露わにする現象が日本では見られない。

一部の左翼が抗議しているだけで、むしろコーヴに関して言えば、
このような言論抑圧をどのメディアも文化を盾に推し進めていた。



吉田松陰の妹が主役の低視聴率大河ドラマや
特攻隊を美化して描く極右作家の小説が映画化・ドラマ化する今、
その反対の立場で描く映画は、徹底的に阻害されているのが今の映画界だ。


このような抑圧は国家ではなく、社会の手によって、
誰かに強制されるのではなく、各人が空気を読み自粛することによって成り立っている。


では、この空気を作り上げたのは誰なのか?

もちろん、NHK、朝日、文春、新潮などのメディアの言論と、
それを支持し拡散する大衆によって築かれたものである。


そこで、改めて冒頭の質問を反芻することになる。

「あなたはシャルリーか?」

『アメリカン・スナイパー』と『砂の王』

2015-01-31 00:37:40 | リビア・ウクライナ・南米・中東
反イスラム映画『アメリカン・スナイパー』が来月の21日に日本で上映される。

アカデミー賞最有力!『アメリカン・スナイパー』がカッコよすぎて全米が泣いた
(http://news.aol.jp/2015/01/28/americansniper/)


アメリカ・アラブ反差別委員会の報告によると、
この映画が一般公開されてから同委員会やムスリムへの脅迫が3倍になった。



同委員会はクリント・イーストウッドらに書簡を送り、異議を申し立てている。


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ADC・アラブ系アメリカ人反差別委員会が、アメリカで、
新たに反イスラム映画が制作されたことを非難しました。


ADCの委員長は、プレスTVのインタビューで、
ハリウッドはこのような映画の制作によって収益を手にしているとし、

「アメリカの映画産業は、このような映画の制作により、
 イスラム教徒を悪者にしようとしている」と述べました。


同委員長は、クリント・イーストウッド監督の最新作
「アメリカン・スナイパー」の公開に懸念を示し、
「この映画の公開により、イスラム教徒に対する嫌悪が高まるだろう」と語りました。


ADCは、この映画のクリント・イーストウッド監督と
主演のブラッドリー・クーパー氏に書簡を送り、
この映画は、反イスラム、反アラブの拡大に大きな影響を及ぼしている」としました。


これまで、この書簡に対する反応は示されていません。

http://japanese.irib.ir/news/latest-news/item/
51731-%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%
81%A7%E5%8F%8D%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83
%A0%E6%98%A0%E7%94%BB%E3%81%AE%E5%88%B6%E4%BD%9
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いくらアカデミー賞で6部門もノミネートされているとはいえ、
ムスリムに抗議を受けている映画を公開するのはいかがなものだろうか?



仮にこの行為に立腹した過激派が事件を起こしたら、
また「テロには屈しない(キリッ)」という態度を取るのだろうか。


まぁ、それはともかく、この映画とは全く逆の立ち位置にある映画がある。


『砂の王』(King of the sands)と言う。


この映画は、サウジアラビアの建国秘話を批判的に描いたもので、
イギリスの植民地主義に深く反省を迫る内容となっている。


とりあえず、次の記事を読んでもらいたい。

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映画「砂の王」は、
アラビア半島のナジュド地方のある王子の一生を物語ると共に、
この王子の冷酷さと流血を描いています。


ナジュド地方の族長アブドルアズィ―ズ・イブン・サウードは、
イスラム教の改革運動・ワッハーブ派の創始者・アブドルワッハーブに従う、
イフワーンと呼ばれる集団の助けにより、
人々を殺害し、町や村、さらには墓地を破壊することで、王朝を存続させます。


彼は、イギリス人のスパイ・ハムファーと示し合わせた後、
イギリス政府の支援により、メッカとメディナを攻撃し、
それによりこの2つの聖地では、大規模な流血が起こりました。


アブドルアズィーズは、ナジュド地方とヒジャーズ地方を統一した後、
この地方に一族の名前をつけ、サウード家のアラビア、
即ちサウジアラビアと命名することになります。



彼はこの勝利の後、公然と宗教から逸脱し、
イギリス政府の政策に追随すると共に、
自分の仲間の一部とも対決し、多くの人々を殺害します。


イフワーンとの闘いの後、イブン・サウードは
ワッハーブ派のイスラム教徒たちと、勢力の分割をめぐり合意に達し、
彼らを宗教上の番人として組織化します。



しかし、この映画が取り扱っているのは、明らかにこの歴史的な時期のみではありません。


~中略~


「100年前の事件と現代の情勢が類似していることから、
 私は映画「砂の王」の制作を手がけた。
 今から100年前のアラブ世界は、
 意志も権力もない小国により分割されていた。

 現在も、一部の有力な国やアラブ諸国が、
 この役割を演じようとしている。

 このため、私は世界のトップスターを起用し、
 英語での映画を制作しようと決意したのである。

 私は、この映画は世界で上映される
 多くの機会があると考えている」




映画「砂の王」は間接的に、現在の中東地域におけるテロリズムの原因を、
アラビア半島でのサウード一族の権力の掌握、そしてサウード一族が
ワッハーブ派と同盟関係を結んだことと関連付けており、
その結果サウード一族が反対派を滅ぼし、現在に至るまで
国内外の反対派に対してこのやり方を続けているとしています。



アンゾウル監督は、サウード政権の政策に反対する、
イラクやシリアといった国々にテロリストを送り込むことは、
現代におけるこのような措置の一部であると考えています。



~中略~


この映画は、イギリスの首脳とサウジアラビアのアブドルアズィーズ国王による合意、
オスマン帝国に支援された宿敵ラシード家による支配を終わらせ、
オスマン帝国の支配から解放するために、
イギリスがアブドルアズィーズに対して
資金援助や武器提供を行った経緯についても描いており、
この合意の結果、地域に西側諸国が影響力を拡大することになりました。



さらに、この映画はイギリスとサウード家の
アブドルアズィーズの密接な関係の詳細の一部を暴露しています。



そして、サウード一族とワッハーブ派の間での勢力分割や立法権、
行政権に関する協定や合意の一部、サウード政権の武力による支配、
そしてワッハーブ派のコーランによる支配などの合意を描いているのです。


また、こうした同盟関係が現在も続いており、
それが地域に悪い結果をもたらしたことが述べられています。
 


~中略~

映画「砂の王」は、昨年9月11日に初公開されました。


アンゾウル監督は、この映画が上映された期日と場所について、次のように述べています。


「私は、この映画の上映期日を、
 過激派思想を支援する結果となった9月11日の、
 アメリカ同時多発テロが発生した日に設定した。

 上映場所にはロンドンを選んだが、
 これは、サウード政権の発足と、
 この政権による陰謀を手助けする上で
 最も大きな役割を果たしているのは、
 イギリスだからである。

 我々は、シリア政府の
 いずれの部門からも支援を受けておらず、
 この映画の制作は、完全にプライベートなものである、

 我々は、一切の政治的なプロパガンダから
 離れるつもりだったのであり、
 これを西側諸国の人々のために英語で制作したのである」


http://japanese.irib.ir/2011-02-19-09-52-07/%E
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とても面白いことに、『砂の王』は今のところ日本で公開されていない。


イスラモフォビアのネタになる映画は頼んでもいないのに公開し、
サウジアラビアの建国史を批判的に描いた映画は総スルー。



反捕鯨映画『ザ・コーヴ』や靖国神社を題材にした『YASUKUNI』が
上映が次々と自粛されたように、日本では問題がある映画は
あらかじめ観客の目に映らないようになっている。


政府の圧力があったわけでもない。あくまで、空気を読んだ結果だ。

『表現の自由』は裏返せば『表現しない自由』にもなる。