オミクロンは「変異株」であって「変異種」ではない
新型コロナ問題はオミクロン株の登場で、新たなステージに突入してしまいました。
そのようななか、日本感染症学会が2021年1月、少し変わった声明を発表しました。
<日本感染症学会の声明のタイトル>
【重要】変異「種」の誤用について(報道機関各位)
新聞社やテレビ局などの報道機関に対して、重要なお知らせをしています。
「変異種」という言い方は誤っているので、注意して欲しいと、かなり強い調子で訴えています。
オミクロン株は変異株であり、変異種ではないのだそうです。
この間違いが、なぜそれほど重要なのでしょうか。
両者はまったく違う
日本感染症学会は、報道機関のなかに、オミクロン株のことを変異種と呼んでいる会社があり、それは間違っているので、今後は変異株と正しく表記して欲しいと訴えています。
同学会の主張に耳を傾けると、変異株と変異種はまったく違うもので、確かにこれは正す必要がある、と感じるはずです。
同学会の説明を要約するとこのようになります。
・変異株は、新しい性質を持った子孫のことで、生物の種類は変わらない
・変異種は、遺伝子の組み換えによって生まれた、新しい生物
それではさらに詳しくみていきます。
そもそも変異とは
変異株も変異種も、変異していることには変わりありません。
変異とは、正しくは突然変異のことで、遺伝子が複製される過程で、一部に読み違いや組み換えが発生する現象です。
遺伝情報が一部変化すると、変異または突然変異といわれます。
遺伝情報とは、子が持っている、親に似た形と性質、と理解してください。
細胞のなかにDNAが入っていて、その一部に遺伝情報が書かれています。遺伝情報が書かれたDNAの部分を遺伝子といいます。
遺伝子は複製されて、「普通は」まったく同じ遺伝子がつくられます。
しかしまれに、複製の過程で「少し」異なる遺伝子ができます。それを、読み違いや組み換えと呼びます。
この、変異という現象は、変異株でも変異種でも起きています。
変異株(新しい性質を持った子孫、生物の種類は変わらない)とは
変異株は、遺伝子に変異が認められるが、生物の種類が変わるほどの変化は起きていない状態です。
遺伝子は、生物の形と性質を決めます。そのため、変異が起きると、同じ生物であっても形と性質が変わることがあります。
ただし、猫が犬になるような大きな変化は滅多に起きません。
つまり、大抵の変異は小さな変化にとどまります。
それがウイルスに起きると、変異株が生まれるわけです。
日本感染症学会は変異株のことを「同じウイルスの複製バリエーションにすぎない」「ウイルスの名称は変化しない」と説明しています。
したがってオミクロン株は、「オミクロン」という株としての新しい名前が与えられていますが、依然として新型コロナウイルスのままです。
変異種(遺伝子の組み換えによって生まれた、新しい生物)とは
変異種は、近縁の2つの生物の間で多くの遺伝子の交換や組み換えが起きると発生します。
変異種は、2つの生物の特徴を併せ持った、新しい生物です。
日本感染症学会は、もし新型コロナウイルスの変異種が誕生したら、それは「新型のウイルス」になり「新しいウイルスの名前が与えられる」と説明しています。
もちろんそのような大事件は、今のところ起きていません。
もし新型コロナウイルスが別のウイルスとの間で遺伝子の組み換えが起きて変異種が生まれたら、それは「新型コロナウイルス」以外の別の名前が与えられます。
オミクロン株の正式名は「SARS-CoV-2 B.1.1.529系統」
オミクロン株は新型コロナウイルスの変異株なので、新型コロナウイルスであることは変わらず、しかし「新しい株」としての名称として、オミクロンという名前が与えられています。
オミクロン株の正式名称は「SARS-CoV-2 B.1.1.529系統」となります(*2)。
この長い名称は2つにわかれていて、新型コロナウイルスに該当する部分は「SARS-CoV-2」で、これが新型コロナウイルスの正式名称です。
オミクロン株に該当する部分が「B.1.1.529系統」です。
オリジナルの新型コロナウイルスのことを、国立感染症研究所などの公的機関は基準株と呼んでいます。変異する前の基準の株という意味です。
オミクロン株は、基準株と比較すると、スパイクタンパク質という部分に30カ所の変異が認められます。
まとめ~日本感染症学会がいいたいこと
日本感染症学会の声明はとても「熱い」内容になっています。読み応えがありますし、含蓄があるので、その一部を引用します(*1)。
「【重要】変異「種」の誤用について(報道機関 各位)」より抜粋
誤った知識は、些細なものであってもしばしば誤解を生じ、差別や偏見につながっていくものもあります。ましてや科学的専門用語については、たとえ1文字の違いであっても、大きく意味が異なることがあり、より一層の注意が必要です。 今回の新型コロナウイルス感染症では、これまでにも感染者や医療従事者に対するさまざまな差別が起きており、新型ウイルスが発生したかのような用語を用いることは、今後に新しい差別を引き起こす可能性もあります。 このような場合には、単なる誤「用」ではなく、誤「報」と同じ意味を持ちかねません。 以上のことから、国民の科学リテラシーを正しく引き上げるためにも、正しく用語を用いていただければと存じます。 |
報道機関に対して、オミクロン株を変異種と呼んでしまうことは、「誤報である」と厳しく指摘しています。誤用なら単なる間違いで済みますが、誤報となると社会を混乱させます。
もし、本当に新型コロナウイルスの変異種が誕生していたら、それは再び世界を揺るがす一大事になります。
そのため日本感染症学会は、今回の間違いを看過できなかったのです。それで報道機関に宛てて、わざわざ「重要」と書いて強いメッセージを発したわけです。