(自宅の庭先に咲く・今年は暑さで当分先かなー)
二度とあってはならない悲しい出来事・・・・
故・林大貴くんに捧げる 「彼岸花」 林有加
ある年の七月、十才の少年の灯が消え、ひとつの魂が生まれました。
短い命から生まれた小さな小さな魂でした。
その小さな魂は、母が恋しくて、神に、もう一度だけ母に会わせてほしいと頼みました。
神は、その純真無垢な魂を不憫に思い、願いを聞き入れてくれました。そして、神は、こう言いました。
「1日だけ、おまえを人間界にもどしてあげよう。ただし、人間の姿ではもどれない。
母が、おまえの姿を見つけ、母の声を聞くことが出来たなら、いつか再び、
親子として人間界に生まれかわることを許そう。しかし、母の声を聞くことが出来なかった時には、
魂は、消えてなくなってしまうが、それでもよいか?」
小さな魂は、九月の半ば、母との思い出深い彼岸花の姿をかりて、母の住む家の近くの
土手にひっそりと咲きました。
なつかしい家の窓には、悲しげに外を眺める母の姿がありました。
精一杯、健気に咲く一本の赤い彼岸花に目がとまったのでしょう。しばらくすると、
母は、引き寄せられるかのように、ゆっくりと土手の方に近づいていきました。
そして、母は、彼岸花に顔を近づけ、語りかけました。
「もう、彼岸花の季節になったのね・・・。ひろくんは、いつも、お母さんのために、このお花を
摘んできてくれたよね。ありがとう。」 母の目から涙がこぼれ落ち、声にならない声をふりしぼって
言いました「ひろくん、おかえりなさい。」そう言って、花をやさしく手で包み込みました。
やさしい、母の声とぬくもりでした。その母のやさしい声を聞くことが出来た瞬間、
「お母さん、ただいま!いつかまた、きっと、お母さんのこどもに生まれてくるからね。
ありがとう、おかあさん!」 彼岸花は、母の言葉と、いく粒もの涙を花びらで受けとめ、
ひとすじの光となり、空に昇っていきました。母は、空を見上げ、いつまでも祈りつづけました。