盗人宿

いまは、わかる方だけ、おいでいただければ。

駕籠賃

2019-05-14 11:10:53 | にゃんころ
駕籠屋がふたり、芝の高輪で客待ちをしておりますと、そこに侍が通りかかります。

 「えー、旦那様、お供つかまつりましょうか」
 「お、駕籠屋か。ちょうどよい、身共はこれより品川の遊郭に参ろうと思う。土蔵相模(有名な妓楼)まで急いでくれるか」
 「へえ、ありがとうございます」
 「酒代はやらんが、駕籠賃は充分にとらせるぞ」
 「どれくらいいただけますでしょうか」
 「拙者の『前のもの』の長さだけとらせるが、どうだ?」

駕籠屋がおそるおそる握ってみて驚いた。相当な長さのものがすでに硬くなっている。
喜んで客にして目的地まで運んで、貰った銭が四文銭で百と五十。六百文だからこりゃいい稼ぎでございます。


さて翌日、今度は土蔵相模の前で駕籠屋が待っておりますと、きのうの侍が出てまいります。

 「旦那様、きのうはありがとうございました。きょうもお供を願いたいもので……」
 「そうか、芝高輪まで参る。駕籠賃はきのうの通りでよいか」
 「へえ、結構でございます」
 「そうか、急げよ」

駕籠屋は喜んで、えっさほいさの韋駄天走り。

 「へい、旦那、着きましてございます」
 「いやご苦労じゃった。さ、遣わすぞ」

と、パラッと投げ出した銭が、四文銭で五十枚。

 「あれっ、旦那、きょうはずいぶん少のうございますが?」
 「使った後は、短くなるものじゃ」