盗人宿

いまは、わかる方だけ、おいでいただければ。

八兵衛

2019-05-22 13:08:20 | にゃんころ
下総(いまの千葉)の成田といいますと成田のお不動さんで知られたもので、交通不便の昔は江戸から成田まで参詣に行ってくるとなりますと、どうしても往復に三日はかかったものだそうです。

途中の泊まりは大概が船橋ですが、浮気男たちは普通の宿屋でなく女郎屋に泊まります。
そのため船橋の女郎のことを「八兵衛」と呼んだそうで、これは「行きにしべえか、帰りにしべえか」と悩むところから「しべえ」がふたつで八兵衛になったとか。

 「おう、明日は早立ちだ、今夜は早寝するとしよう」
 「そうだねえ……お前さん、成田詣ではいいけれど、船橋で八兵衛なんぞ買っちゃぁ駄目だよ」
 「なあに、たかが三日の旅じゃねえか、そんなことするもんか」
 「そんならいいけどさあ……」
 「それより短くても旅ぁ旅だ。ひとつお暇乞いをしようじゃねえか」
 「およしよ、まだ金坊が起きてるよ。それにお前さん、むこうへ行く前に垢離を取って体ぁ浄めなきゃいけないんだろ」
 「なぁに、成田に着いてから浄めりゃ、かまやしねえよ。なあ、おい……」

てんで、その晩はお暇乞いをいつもより入念に済ませまして、さて翌日、いよいよ出立という時に、金坊が、

 「お父っちゃん」
 「なんでえ」
 「うちの鶏も、一緒に行くのかい?」
 「鶏なんぞ行きゃしねえよ、なぜだ?」
 「だってほら、ご覧よ、あそこでお暇乞いをしてらあ」
コメント
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