羽鳥操の日々あれこれ

「からだはいちばん身近な自然」ほんとうにそうなの?自然さと文化のはざ間で何が起こっているのか、語り合ってみたい。

『驚きの生命史』を読んで……。

2012年10月16日 11時03分27秒 | Weblog
 iPS細胞研究の山中教授がノーベル賞を受賞したことは、閉塞感ただよう日本にとっては明るいニュースだった。
 しかし、その後、同じ日本人が人への応用をすでにはじめている、云々、というせっかくのよきニュースに泥を塗りかねない話が数日間取沙汰されいるのは、残念の極みだ。

 さて、『太古のDNAが明かす 驚きの生命史!』更科功著 講談社現代新書2166 を読んで思ったことがある。副題に「ネアンデルタール人の謎からジュラシックパークまで」とあるように、化石に残された遺伝子を研究する分子古生物学の入門書である。
 
 ざっと一読しただけでは理解がついていかない。何度か繰り返して読まなければならない、と思っている。
 ただ、以前読んだ「全球凍結」ー地球の表面すべてが凍りつく時代がカンブリア紀以前に何回かおこり、六億年前にマリノアン氷河期が終わったあとに、カンブリア紀の爆発的な生物の出現が起こった。
 エディアカラ化石群の発掘によっても、生きものの歴史がより豊かになっていったが、生命の歴史というのは地球規模の空間・時間からみたとき、想像を超えた出来事に彩られていることを知った。
 
 それはそのまま遺伝子進化の歴史であることが、この『驚きの生命史』によって解き明かされる。
 何処までが事実なのか、定かではないとしてもまったくのでたらめの歴史ではないと思う。

 なかでも第七章「カンブリア紀の爆発」のなかから「失楽園」は、現代のバイブルとなる発想だった。
 つまり、私たちのからだの大部分はタンパク質などの有機物でできた柔らかい組織だが、骨や歯は少し変わった組織だ。このような鉱物でできた硬い組織を、いろいろな動物の仲間がカンブリア紀の爆発で、一斉に発明した、という。このように硬組織の発明によって地球上の世界は一変したと著者は言う。
《それまでの平和なのんびりした世界から、残酷なシーンがしょっちゅう見られる激しい食う食われる関係が成立し、地球上は騒がしくなった。そうなると、もう二度と、平和なエデンの園に戻れない。カンブリア紀の爆発は、そして硬組織の発明は、生物にとっての失楽園であった》
 原罪があるとすれば、この時代まで遡ることになる!?わけだ。

 この大変化、硬組織をどのようにつくっていったのか、どんな遺伝子がはたらいたのかを知ることが生物の本質を解き明かす第一歩となるに違いないと考えられる。
 この遺伝子進化の出来事は、自然が自然のままに成り行きからそうなったこと。
 そこで、最初の話に戻ると、iPS細胞の人への臨床応用は、慎重であって慎重でありすぎることはない、と思う。
 それを安易に動物実験を飛ばして、人に移植して治療に役立てた、という言が事実であるならば、あまりにも危険だと小学生でも理解するだろう。
 新しい治療法や新薬の開発に関して、アメリカでは国家の威信をかけて行っている大きな事業らしい。
 そして臨床でいかされることを一日もはやく望む方々の思いは理解できる。
 しかし、遺伝子を人工的に操作する技術というのは、「遺伝子進化の時計」を狂わせる大きなリスクを伴っていることを知らなければならない、とこの本を読みながら思った。
 生命の操作は相当な覚悟のうえで「神の領域を冒す行為」だと心得ておきたい。
 日本人医療従事者が、何のためか真意のほどはまだ分からないが、嘘の報告をしたとすれば、(きちんと報告できない形で実際に一例でもおこなったとすれば)許し難い。日本の医学教育のいちばん根本のところで、いちばん大切な何かが、ザックリ抜け落ちている恐さを感じている。
コメント
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