「うずのしゅげを知っていますか。
うずのしゅげは、
植物学ではおきなぐさと呼ばれますが、
おきなぐさという名はなんだかあのやさしい若い花をあらわさないようにおもいます。」
「まっ赤なアネモネの花の従兄、
きみかげそうやかたくりの花のともだち、
このうずのしゅげの花をきらいなものはありません。」
宮沢賢治の童話
「おきなぐさ」の冒頭です
「私」は蟻にうずのしゅげが好きかと尋ねます
「大好きです」
「けれどもあの花は真っ黒だよ」
「いいえ 黒く見える時もありますが
けれどもまるで燃え上がって真っ赤な時もあります」
ふたつの
うずのしゅげたちは
雲の動きを夢中になって見つめます
ある日やって来たひばりに
「僕たちもいっぺん飛んでみたいなぁ」と言うと
「もう二ヶ月お待ちなさい。
嫌でも飛ばなくちゃなりません。」
それから二ヶ月め
「どうです。もう飛ぶばかりでしょう。」
「こわかあないですか」
とひばりに言われたうずのしゅげは
「なんともありません。
僕たちの仕事はもう済んだんです。」と
「ちょうど星が砕けて散るときのように
からだがばらばらになって
一本ずつの銀毛はまっしろに光り
羽虫のように北の方へ飛んで行ったのです」
「私」は考えます
小さな魂はどうなったのか
「それは二つの小さな変光星になったと思います。
なぜなら変光星はあるときは黒くて天文台からも見えず、
あるときは蟻が言ったように赤く光って見えるからです。」
空へ飛んでいく自由への憧れや
新しい命を産むための切ない旅立ち
じーんと後味が残る
科学者であり宗教者であった
宮沢賢治の短編の童話です