すばるに恋して∞に堕ちて

新たに。また1から始めてみようかと。

湯けむりにかすむ星 STORY.番外編 

2011-01-15 10:07:33 | レンジャー

レンジャーへの、返信代わりに。
下書きなしの、カケラをひとつ。

いつものような練り直しもなく、浮かんだままの原石です。
ありきたりの妄想ですが、

レンジャーを温泉へ連れて行ってあげようかな、と(笑)

お付き合いください。



愛しい人へ。



切り取られた濃い群青をかすませて、湯気がのぼる。
かすかに淡い、たよりない星の光が、見え隠れする。

竹の樋から、間断なく流れ落ちる湯の音だけが、二人の間に横たわる。

都会の喧騒から離れた温泉宿の、ひっそりとした露天の家族風呂。

彼と、彼女に、
それは、久しぶりに訪れたささやかな温もり。

言葉もなく、ただ見上げた空が、あるだけの夜。

「なんか、こんなゆっくりすんの、久しぶりやわ」

すくった湯で顔を濡らしたあと、彼が言った。

「年々、忙しなってくもんなぁ」

「そうだね」

彼の横顔を見つめながら、彼女はこの一年を振り返る。
こうして、二人で温泉に来れるなんて、思ってもなかったほどの忙しさの中に、彼はいたのだ。

「もうちょい、こっち、きたら」

「いいよ、別に」

「何恥ずかしがってんねん。ええやん、ほかに人がおるわけちゃうし」

確かに、ここの露天風呂は家族風呂だから、鍵をかけて使用中の札をかけたら、
他人が入って来る心配も、時間を気にする心配もない。

そっと、彼女は湯面を揺らしながら、彼の隣りに移動する。

ぴたん。

しずくが天井から落ちて、彼女の肩に落ちた。

「イヤッ」

彼女は身をすくめて、「冷たいッ」と小声で叫び、
湯の辺りだけを覆う簡素な板葺きの屋根を、見上げた。

その横顔が、ほんのり上気して、
透明な薄紅に染まっているのを、彼は、ぼんやりと見つめていた。

「なに?なにか、ついてる?」

気付いた彼女が彼に問いかける。

「綺麗やなぁ、思うて」

「やだ、何言ってるの」

「いや、ほんまやて」

彼は彼女の頬に手を伸ばした。

「こんなに綺麗なピンク、見たことあらへん」

「ちょっと・・・」

彼の手を遮りながら、彼女がはにかんだ。

「触るなんて、反則」

きょとん、と彼。

「なんでなん。ええやん、ほっぺた触るぐらい」

「恥ずかしいでしょ」

「俺らしか、おらへんぞ」

「だから、恥ずかしいんでしょ」

ふいっと背を向けた彼女。

「・・・・・・・・・だから

「何?声、小さくて聞こえへんぞ」

ざばッと湯を散らして、彼が彼女の顔をのぞきこむ。

「言いたいことは、はっきり言いや」

「ん、もう! ばか」

「誰がばかやねん。てか、あかん、ばかって言われると傷つくわ」

「ごめん」

「いやいや、そんな真剣に受け止めんでもええけど」

彼は、苦笑った。

「で?なんて言うたん?」

「・・・二人きりだから」

「ん?」

「あなたと二人きりだから!恥ずかしいの!!」

くしゃっと表情を崩した彼女。

「ばぁか、今さら」

彼は、彼女の額に、口づけた。

「こんなんで恥ずかしがっててどないするん。今から・・・」

「え?」

「本番・・・」

「馬鹿!」

ビシャッと、手で湯を払って、彼の顔にかける。

「うわッ」
「もうッ!」

一瞬の、静寂。

「あかん~~~~。傷ついたー。立ちなおれん~~~」

彼は、そのまま湯の中へ仰向けに身体を沈めていく。

「あ、イヤ、ウソ・・・」

慌てた彼女が咄嗟に彼の手をつかむ。
掴んだのと同時にバランスを崩して、彼女自身も湯の中に倒れ込んだ。

激しい湯音が、狭い空間から夜空へと響きわたる。

「ぶはッ」
「いやーん」

顔を見合わせて、笑いだす二人。

「あはは、何してんねん、俺ら」
「あん、髪、濡れちゃったぁ・・・」

「おんなじ濡れるんやったら、もっと」

「もっと、なに?」

「言わせる? 聞きたい?」

「言わなくてもいい」

「なんでぇ?」

「考えてること、一緒だから」

彼の目じりに、やさしい皺が寄った。

「やった!」

こぶしを握って喜ぶ彼の姿は、まるで、

「子供みたい・・・」

他愛のない、戯れの時間。

彼が欲しかったのは、こんな何気ない「普通」だったのかもしれない。



絶え間なく上る湯気にかすんで、
遠く、濃い空の彼方で、星がひとつ、流れた。



Fin.

実をいうと。
書き始めたのが夜中になったので、途中、オトナなシーンに突入しそうになって、
いかんいかんと、慌てて筆を置きました(笑)
オトナなシーンは、そのまま夢の中に持ち込んで。
朝になって、曇ってるけど明るいお外の風景を見ながら、軌道修正(笑)
彼に届けたい「普通」にしてみました。

おそまつ。



4 コメント

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Unknown (菜々)
2011-01-15 12:46:52
わぁ~すごいですねぇ~。
読みいっちゃいましたよ。
お風呂で、夜、だと・・・ですねぇ(笑)

また来ますね♪
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Unknown (ひろこ)
2011-01-15 17:39:00
のゆさんこんばんは。
素敵なお話をありがとうございます。
新しいお話が読めてとっても嬉しいです!

私事ですが、心にポッカリと穴が空いてしまった時、決まっていつも、のゆさんの小説を読ませて頂いています。
どの小説も本当に良くて大好きで…。
特に舞音ちゃんのお話は、読んだあと気持ちが満たされて心が優しくなれます。

のゆさんの小説で今日も幸せな気持ちで過ごせそうです!
いつも本当にありがとうございます。
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Unknown (のゆから、菜々さんへ)
2011-01-16 21:19:24
読んでくれて、ありがとう。

いつもはもっと時間をかけて、細かいところを練り直したりするんですけど、
今回は、まったく浮かんだままだったので、
途中、自己規制をかけなきゃいけないことにもなりました(笑)

次は、きちんと時間をかけたものをお送り出来たらと思います。
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Unknown (のゆから、ひろこさんへ)
2011-01-16 21:21:30
ありがとうございます。
嬉しいです。
今回は、まったく飾りのない、浮かんだままを言葉にしたので、
少し恥ずかしい気もしますが、
待っていてくださる方がいてくださるのは、とても励みになります。
これからも、よろしくお付き合いください。
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