やっとのことで、小説の更新ができます。
お待たせ致しました。
改めて、いささかの注意事項を。
ここから始まる小説には、個人名は出てきません。
作者の妄想がもととなっておりますので、
モデルとなった人物は実在しますが、
あくまでもフィクションであり、
ただの小説ととらえていただくよう、お願いをします。
お気に召しましたら、
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小説を書く張り合いにもなります。
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では、続きから、本編です。
STORY. 28 BIRTHDAY DREAM
俺は、その年の誕生日を、舞台の上で迎えようとしてた。
当日は2回公演。
せやから、前日の夜は、出来るもんなら、
夜更かしもせんと、身体を休めときたいんが本音やった。
部屋に戻って、日付が変わった頃から、
ぽつりぽつりと届き始めた「おめでとう」メール。
友達が少なくて、
滅多にメールなんかせえへん俺でも、
こんな時のメールくらいは、届くもんで。
いっちゃん最初やったんが、おかんからのメールやったのには、苦笑ったわ。
相変わらず、
どんだけ息子が好きやねん。
ま、ええけど。
届いたメールを読んでるうち、
ふと、肝心なとこからメールが来てないことに気付いた。
「今日はもう、遅いしな。寝てもうてるんやろ」
俺は携帯のアラームをセットして、枕もとに置くと、
ベッドにもぐりこむ。
ひんやりとしたシーツ。
秋の気配は、こんなとこにも忍び込んでる。
今やってる舞台が始まった頃は、まだ、寝苦しい夜もあったのに、
今日なんかは、もう、涼しいを通り越してるわ。
頭になじんだ枕は、
俺を心地よい眠りに誘う。
緊張がほぐれ、身体を縛っていた糸が、次第に解かれていく。
かたい結び目、
緩い結び目、
ごつごつと身体にあたっていたそれらを感じなくなった頃、
俺は、深い闇に包まれていった。
夢の中で、俺は誰かとすれ違った。
ふわりと、薄い香りを嗅いだ気がした。
見たことない女やと思うたのに、
変に懐かしいカンジがした。
知ってる。
俺は、この女を、知ってるわ。
かわいくて、愛しくて、
どんなことをしたって、俺が守ってやらなアカン女や。
このカンジ、
なんや、どっかで前に・・・
そう思って、
このカンジを確かめよう思うて、振り向いた時には、
女の姿は、もう、消えていた。
代わりに、まばゆいばかりの光がそこにあって、
まぶしくてまぶしくて、俺は、手でそれを遮った・・・
カーテンから漏れた朝の光が、俺の顔に当たっていた。
眩しかったんは、そのせいや。
携帯を手に取り、時間を確かめる。
まだ、いつも起きる時間よりは、うんと早い。
しばらく、ベッドの中で、
もう一度眠気が来るのを待ったが、
一旦醒めた頭は、もう睡魔を連れてくることはなかった。
諦めて、ベッドを出る。
カーテンを一気に開ける。
窓の外は、見慣れた都会の喧騒。
動き出してる朝の風景。
遠くを行き交う車と、歩道には小さなシルエット。
祝日やのに、仕事へ向かってるサラリーマンやOL。
荷物を運ぶ業者。
人の流れに逆らうように、ゆっくりと動くのは、たぶん、年配の婦人。
ここは、静か、やな。
俺は、部屋を振り返った。
よそよそしい顔をしたホテルの一室。
舞台の間、
俺は日常から離れて、ここで過ごすことを決めたんやった。
俺の日常に溢れてる、舞音の音を遮断することで、
俺は舞台に集中しようと思った。
自らを生かす道と、
愛する者を救う道との交差点に立った「オレ」の決断を表現しきるための、
それは、
俺に出来るたったひとつの、方法やったと思うから。
せやけど。
こんだけ離れて暮らしてると、
無性に舞音のたてる音が恋しくなるんも事実やな。
普段は、うっとうしいくらいに煩くて、
どないかして、静かな環境に身を置きたいと思うのに、
今は、あの甲高い泣き声や、派手なおもちゃの音や、
何度も繰り返されて、耳についてもうたキャラクターのセリフなんかが、
懐かしくなってきてるわ。
決まった時間に、楽屋に入る。
見知った顔のいくつかが、楽屋を訪れてくれることもあるけど、
共演者のそこに比べたら、
俺のとこは、結構、静かなもんや。
扉を開けて、まず、目についたんは、
でっかい花束やった。
「お誕生日、おめでとう」のメッセージとともに、
旧知の奴らから、届いてた花束。
それとは対照的に、
1本の赤いバラだけが薄いセロファンに包まれて、
メイク用の鏡の前に置かれてた。
「これ、なに?」
カードもなんもなく、無造作に置かれてた花を手にとって、
近くにいたスタッフに尋ねる。
あ。
この香り、
夢ん中で嗅いだ匂い・・・に、似てる・・・
ああ、
でもちょっと違うか?
「それ、さっき小っちゃい女の子が、持ってて・・・」
「小っさい女の子?」
「はい」
俺の脳裏には、真っ先に舞音の姿が浮かんだ。
「それ、こんくらいの、ちまちまっとした細こい・・・」
俺は舞音の背格好を説明する。
「ああ、はい」
頼りない返事やな。
「ほんで? どこ、行ってん」
俺は、きょろきょろっと、あたりを見回した。
どっかに、舞音が隠れてるんちゃうかと、思って。
「帰られました」
なん? 帰った?
「ふう・・・ん」
俺は極力、動揺を見せんように、と思ったんやけど、
あかんわ、
あからさまに気分が落ちてくわ。
自分で思ってたよりも、
俺、
舞音に会いたかってんな。
今夜あたり、
一回、顔見に、帰ろかな。
ああ、でも、帰る頃には、もう、寝てたりするかな。
寝顔だけでも、見てこうかな。
いやいや、
そんなんしたら、なんのためにホテル取ったか、わからんようになるわ。
せっかく、ここまで、ええ調子で来ててんから、
これ、崩したらアカンよなあ。
いろんなことが頭ん中を、ぐるぐる駆け巡る。
と、
携帯が着信を告げた。
誰や、こんな時に。
ポケットに入ったままのそれを取り出して、
相手も確かめずに、出る。
「もしもし」
「ぱーぱッ!!」
聞こえてきたのは、片言の言葉。
舌っ足らずの、かわいい、高いトーン。
一瞬で、それが誰の声か、判断がつく。
「まのん、まのん!? なんで?」
「ぱーぱッ!! おちゃんび、めれと」
はい? なんて?
「ぷえしぇんと、しゅき?」
待て待て、待て、舞音。
意味がわからん。
普段、絶対に触らせてもらえん携帯を、
使わせてもらえて、
半ば、興奮状態の舞音が、容易に想像できた。
「まのん、ママは? そこに、ママ、いてるか?」
舞音に通じるように、ゆっくりと、問いかける。
「まま?」
「そうやで、いてるか?」
「まま、しゅき。おはな。ひとぉつ、あげゆかやね」
あー、
通じんかァ。
「ぱぱ、いいこでしゅね、だいしゅちよ」
あはは。
最後のんは、わかるわ。
いっつも、舞音が彼女に言われてる褒め言葉やわ。
『舞音、大好きよ、いい子ね』
言いながら、舞音のほっぺにキスしてる彼女の姿が、ふいに目に浮かぶ。
にこにこの笑顔で応えてる舞音の顔も。
自分が言われてうれしい言葉やから、
俺にも言うてんやろな。
この年になって言われても、なにげ、うれしいわ、やっぱ。
あ。
もしかして。
「まのん、もういっかい、言うてみて。おちゃ・・・なに?」
「おちゃんび、めれと、ぱぱ」
『お誕生日、おめでとう』や。
やっとわかったわ。
くすくす、くすくす。
舞音の後ろで、小さく笑う声がする。
やっぱ、そばにいてるやないか。
早よ、代わったれや。
「もしもし?」
笑いを含んだままの、彼女の声。
「なんやねん、おまえ」
「おちゃんび、めれと。ぱぱ」
「やめろや。恥ずかしいわ」
「舞音の言葉、通じたのね」
「ああ、わかった。『おちゃんび』も、『めれと』も、『ぷえしぇんと』もな」
「まだ、あるのよ? 聞きたい?」
「なに?」
「目を閉じて、ちょっと待ってて」
「目、閉じんの?」
「そのほうが、舞音の顔が浮かぶでしょ?」
そりゃまあ、そう言われたら、そうせんでもないけど。
俺は、素直に目を閉じた。
「・・・まのん、ほら、歌って・・・」
促されて、また、舞音の声がする。
「はっぴばちゅでい、ちゅうゆ、はっぴばちゅでい、ちゅゆ・・・」
かわええ。
言葉はちっとばっかし難ありやけど、
音は、外れてないわ。
一生懸命、覚えたんやろなあ。
それにしても、この声、やたらめったら、近くで聞こえてんねんけど。
うん?
足元に何かが抱きつく感触がして、
俺は目を開けた。
「うそやん、なんで?」
そこには、俺を見上げて、にっこにこの舞音がおった。
「ぱーぱッ! まのん、はっぴば?」
俺は携帯を置いて、舞音を抱き上げる。
「ちゃうやん、はっぴば、は、パパやで」
抱き上げた舞音から、ふわりと、薄い香りがたつ。
あ。
これや、
この香りや。
あの、夢の中の香りは、こっちや。
え、
ほんなら、あれ、
あの、夢の中の女って、舞音やったんか?
成長した、舞音・・・?
まじまじと、舞音の顔を見る。
いたずらな笑顔で立ってる彼女の顔と、
鏡に映ってる、舞音を抱いた俺の顔を交互に見比べる。
なんや、そうやったんや。
見知らぬ顔やのに、
どうしても守ってやらなアカン気がしたんも、
こういうことやってんな。
へえ、舞音。
大っきくなったら、べっぴんさん、になるねんな。
楽しみやな。
惚れてまうわ。
「ごめんね、舞台の前なのに、こんなこと」
彼女が、申し訳なさそうな顔をしてる。
「何、謝ってんねん。俺、うれしいんやから」
「でも・・・舞台・・・」
彼女には、家庭という日常を遮断したい理由を、説明してある。
せやから、ここまで、舞台も見に来てへんし、
電話の1本、メールの1通やって、よこさへんかったんやもんな。
「ほんまに嬉しいって」
「ほんまに?」
「ああ。舞音に会いとうて、しゃあない頃やってんから。
さっきやって、舞音が帰ってもうたって聞かされて、
めっちゃ気分、落ちてたんやで」
これは、ほんまのほんまや。
「会いに来てくれて、元気が出たわ。ありがとうな。これも」
俺は舞音を抱っこしたまま、
1本だけラッピングされた赤いバラを手に取った。
「これ、お前自身やもんな」
彼女が、じっと俺を見つめた。
「覚えてるの?」
「当たり前やろ」
赤いバラ。
俺が、初めて彼女のために買った花や。
あの時、俺、彼女に何をあげたら喜んでくれるか、
めっちゃ考えて考えて、
ベタなことやって、
今考えたら、恥ずかしいくらいやけど、
彼女の誕生花で、
俺の気持ちを代弁してくれるこれに決めたんやもん。
「おはな、まま。これ、しゅきって。まのんも、しゅき。ぱぱ、しゅき?」
「ああ、好きやで。大好きや」
俺は、舞音のほっぺにキスをする。
「まのん、ダイスキやで、ええ子やな」
俺は、彼女に手招きをする。
「もうちっと、こっち、おいで」
彼女の頬にも、軽くキスをする。
「やー、ぱぱ。まのんもー」
乞われるまま、俺は、舞音にも、もう一回キスをする。
「舞台、見てくか?」
「ううん、舞音がぐずるといけないから、帰る。
もともとは、お花、置きに来ただけだし」
「そうか?」
「顔が見れて、嬉しかった。邪魔やって、怒られると思ったから」
「ん?」
「ここは、あなたの場所だから」
「あほぅ、気、使いすぎや」
彼女は、いっつもそうや。
あっちにもこっちにも、気を回し過ぎてるわ。
じれったいくらいに、な。
もっと、わがままでも、ええのに。
でも、そのおかげで、
俺は、俺の場所で、息が出来てる。
それは、最高のプレゼントなんやろな。
「俺ら、みんなからのプレゼントですからね」
声のする方を見れば、
今回の共演者や手の空いたスタッフらが、入り口付近にかたまって、
こっちを覗いてた。
「お前ら、いつから」
俺は、なんや恥ずかしなって、舞音を下に降ろした。
「最初から、です」
座長でもある共演者が、まじめに答える。
「そんな優しい顔、僕にも見せてくださいよ」
後輩の共演者が、ニヤニヤ笑う。
「帰るっていうの、引きとめたの、僕らですからね」
彼女が、小さくうなづいた。
「HAPPY BIRTHDAY!!!」
あちらからもこちらからも、俺の誕生日を祝う声がする。
照れくさい、な。
「ありがとう」
ひとこと言うんが、精一杯やわ。
「これからも精一杯、舞台を務めますんで、よろしくお願いします」
深々とお辞儀をする俺を見て、
舞音も、
「おねあいちあちゅ」
真似して、お辞儀をする。
それを見た共演者やスタッフから、拍手が起きた。
「小さなマネージャーさんの誕生ですね」
誰かが、ふと、つぶやいた。
なあ、舞音。
今日は俺の誕生日やけど、
小さなお前の、ちっちゃな社会デビューの日でもあるんやな。
「ぱーぱ? まのん、まのんね」
背伸びをして、俺に何か伝えたそうな舞音。
口元に耳を寄せた俺に、
「まのん、ぱぱと、ぱちぱち、もっと、ほちい」
そうやな、
いつか、あの、きれいに成長した舞音と舞台に立って、
親子で拍手がもらえたら、ええな。
「ああ、もらえるで、きっとな」
おれは、舞音の頭を、優しく撫でた。
こいつの中にも、俺の血が、流れてる。
どんな形でかは、わからんけど、
そんな日が来たって、おかしくないよな。
誕生日って、ただ、自分が生まれた日やと思ってたけど、
ちゃうねんな。
命がつながって、
夢が広がった記念日でも、あるんやな。
これからも、
小さな舞音の、夢の目標であり続けれるよう、
俺は、俺の場所で、がんばっていかなアカンねんな。
舞音の夢の先で、
風に向かって立ち続ける案内人の役が、
俺に与えられたってことか。
この舞台は、一生、降りるわけには、いかんな。
人見知りをしない舞音が、
共演者らにあやされて、ケラケラと、笑い声をたてた。
そばで、彼女が、ひっそりと立っていた。
きっと彼女は、これからも、ああして、傍にい続けるんだろう。
俺を見守り、
舞音を見守り、
ただ、ゆっくりと、微笑うんだろう。
FIN.