すばるに恋して∞に堕ちて

新たに。また1から始めてみようかと。

STORY.47 最高の贅沢

2014-12-15 22:41:34 | 小説

関ジャニズム東京三日間。

一日目の夜は、買ったツアーバッグにあれこれ改良加えて、お針ごとチクチク。
ファスナーつけて、赤色の綿テープ付けて、コラボキティを飾り付けて。

二日目の夜は。
どうしても、彼の一言が心から抜けなくて。

たったひとこと。

それを昇華させたくて短い短い妄想ひとつ。

続きから。

おつきあいくだされば幸いです。





STORY.47  最高の贅沢




ひとつふたつ、みっつ。

暗い中に光る星を数えて、空を仰ぐ。

静かに眠り始めた駅の階段。
普段着の彼が、足早に降りてくる。

肩をすくめて車に乗り込んできた彼が、

「なんて表情しとんねん」

言いながら、私の顔を覗き込んだ。

「そんな顔見たくて、最終に飛び乗ったんちゃうで?」


仕事終わり。
時間に間に合うようなら逢える。
一歩でも遅れたら、次がいつになるか分からない。
そんな綱渡りの、二人の時間。

「無理したら、あかん。続かへん」
「一緒におるばっかりが恋人ちゃうし。距離感、大事」

いつもそう言ってる彼が、
それでも無理して最終に飛び乗って。
乗り継いで、時間かけて、ここまで来た理由。

「なんでなんか。分かってんのか?こら」

言葉のないまま彼を見つめる私の頭に手をおいて。

「今日が、なんの日か。忘れたんちゃうやろな?」

まっすぐに。
彼の瞳が私に向かってくる。

『誕生日・・・』

口にした言葉は、声にならなかった。

彼に逢えた嬉しさと。
夜が明けたら、また離れなきゃいけない寂しさとが。

ぐるぐる、ぐるぐる。
渦巻いて私を呑み込みはじめてる。

せつなくて。
やるせなくて。

どこの誰より恋しくて、いとしくて。

「ぁあ?」

少し伸びた無精ひげ。
先の揃ってない短髪。
ちょっとすごんでみせる瞳は、
だけど、言葉とうらはら。

「愛してる」

私の口から、ほろり。
無意識のうちにこぼれだした言の葉に。

間髪入れず。

「そんなん、知ってる」

と応えた口の端が、照れて。

「あほォ、ちゃうやん。そんなん、ちゃうやん、卑怯やぞ」

私の髪をくしゃくしゃっと撫でた。

「言わへんのやったら、帰るぞ」

「嫌ッ!」

「嫌ッ!ってな、おまえ。ほんなら、言えや」

彼の顔が、少しずつ近づく。

「・・・・・・お誕生日、おめでとう」

焦らしたわけじゃなくて。
言いたくなかったわけでもなくて。

それを言ったら。
逢いたかった理由がなくなるような気がして。

「おん、ありがとう」

満足そうに笑った彼の唇が、重なってくる。

夏の終わり。
秋の初め。
冷えつつある空気の中で。
そこだけが温かくて。
そこだけが、次第に熱くなる。

ほんのり強く。
だけどやさしく。

少しだけ深く。
少しだけ長く。

身体の奥で、何かが解けて柔らかくなる。

「ここに来るまでに日付け変わってもうて。メールは次から次に来るし」
「どないしよかな、思うたわ」

「誕生日の。一番初めの『おめでとう』と『ありがとう』はお前としたかったからな」

耳元で、彼がささやく。

「プレゼントに欲しいもん、言うてええか?」

私が小さくうなづくのを待って。

「朝まで。俺の腕の中にいてくれるか?」
「お前の声、聴かせて。忘れんように」


無理を通してでも、彼が欲しがったもの。

与え合う温もりと、交し合う声、刻む音。

朝陽がのぼるまでの。
ほんのひととき許された、
それは、

最高の贅沢。





FIN.



STORY.46 あのこと。

2014-09-08 22:36:18 | 小説

えっと。

とにかく、自分で自分を思い切り慰めてみました。

それだけのための、お話です。

先回は深夜に置き逃げしましたが。
今回は、開き直りました(笑)

イタかろうがなんだろうが、かまっちゃいられません。

とりあえず。
「愛されたかった」わけで(笑)

きょうから始まった、例のメール申し込みに向き合うためにも。

ここは、やっぱし。
決着つけとかないと( • ̀ω•́ )キリッ✧

ということで。

なんのこっちゃ?と思われるかもしれませんが。

おつきあいくださる方は続きから。

もうええわ。というかたはこれにて。
ごめんくださいませ。




STORY. あのこと。




「オトナでいるって、難しいわね・・・」

うつむいた彼女の口から。
こぼれだした言葉。

俺は、その背中からそっと腕をまわして、彼女を抱きしめた。

俺よりも。
比べ物にならないくらい、人生ってやつを知ってる彼女に。
かける言葉なんか、もってなくて。

「気にしてんの?」

なに言うてんねやろ。
愚問、や。

「あほやな」

いや、違う。
ほんまにあほなんは、俺や。

「わかってるやろ」

彼女の髪の香りと、首筋から立ち上る彼女自身のにおいが、
俺にまとわりついてくる。

何も『今』分かったってわけでもなくて。

それは最初から『分かってて』始まったことで。

お互い、承知の上やったはずやのに。

せやのに。

あのこと以来。

時折、こんなふうに寂しげな彼女を見せつけられると、
どことなく、なんとなく、棘が刺さったような痛みが走る。

俺かて、もうちゃんとした男やし。

どうにもならんときには、他に気を回すことかてあるし。

ちょっとのつもりが、結構、気に入るときやって。
正直、ないとはいわへんし。

大体。
それを言い始めたら。
彼女の方にだって抜き差しならん現実はあるわけで。
もともとは、
それが問題やったともいえるんやし。

しゃあないやん。

どうにもならんもん、
あれこれ言うてみたところで。

しゃあないやんか。

・・・・・・せやろ?

ほんでも。
これは、絶対に口に出したらアカンやつやんな?

彼女を。
追い詰めるだけやもんな。

「俺のこと、信じてへんの?」

ずるいな、俺は。

「貴女を好きって気持ちは、変わらへんよ?」

責められんように、
責めにくいように、

彼女の身体の、
彼女が好きな場所を。

彼女が好きな速度で、
彼女が好きな強さで、

言葉が足りない分を、ごまかそうとしてる。

未来のない『今』を、二人が選んでる以上。

俺にも。
彼女にも、それぞれ。

捨てるに捨てられない、
逃げるに逃げられない、
現実があって。

彼女は俺を、
俺は彼女を、
唯一、と選びきれない『今』がある。

愛し合うために、時間をやり繰りして。
この一瞬を得る。

ただ、お互いを求め合う刹那を。
感じあうために。

そのために。
引き換えにせんならんもんかて、ある、よな?

「ねえ、まだ私を、愛してる?」

「そんなあたりまえのこと、聞かんとわからへんか?」

そんなせつないセリフ、言わせたいんとちゃうのにな。

「聞きたいときだって、あるわ。確かめたいの」

消えていく言葉に、
形のないものに縋り付きたがる彼女が、
たまらなく可愛くて、愛おしくて。

「まだ、なんて言うな。ずっと、や」

「ずっと?」

「せや。どんな女も貴女の替わりでしかない」

「うそつき、ね」

「嘘、ちゃうよ。俺が本当に欲しいのは、貴女だけなんやから」

そう。
嘘なんかやあらへん。
嘘なんかであるものか。

「貴女だから、俺はいま、俺でいられるのに」

この腕の中に、しだいに寄りかかってくる重みのぬくもり。

「愛してる」

彼女が望むだけ、いくらだって打ち込んでやる。

だから、なぁ。

欲しがっても、ええか?

のぼりつめてゆく快感が、解き放たれる瞬間の、

「愛してるわ」を。

俺はただ無性に貴方の「愛してるわ」に救われたいんだ。

あのことで、あなたを傷つけた自分を嫌いになりそうやったから。

許されたいんだ。

せやから、なぁ。
言うてや。





FIN.


STORY.45 やさしいKISSをして

2014-09-06 03:00:22 | 小説

ある日つぶやきさんで拾った妄想シーンをモチーフに、
膨らませた妄想小説。

もともとは、もっと違う方向のお話だったのに。
何度も書き直し書き直している間に、
ちっとも前に進まず、季節が変わり。
冬のお話が、春になっても夏が来ても完成せずに。

夏の終わりの、こんな時期に。
まさかリアルで、彼のうわさが落ちてこようとは思ってもみなくて。

しかも。

考え考えたどり着いていたラストシーンのキーワードに、
それは見事にハマってしまっていて。

落ち込んだ、というか。
自爆した(笑)

自爆しすぎて。
そのキーワードを出さずにいこうと自縛して。
なんとか。
それらしく仕上げたものの。

気に入らない(笑)
けど、もうこれ以上、このお話は続けられない気分(笑)

繋がらない部分もあります。
解決してない部分もあります。

なので深夜に置き逃げします←

おつきあいくださる方は、続きからどうぞ。

ちなみに。
いつものことですが。

モデルとなる人物は実在しますが、
物語はフィクションです。

そのつもりで、どうぞ。

あ。
元となった妄想モチーフをつぶやいていた方には、
当時それを使って小説にすることをご許可いただきました。
ただ。
若干。というか、
かなり意図したところと変わっておりますことをお詫びいたします。

STORY.45  やさしいKISSをして




薄墨を流したような空が広がる。

グレーの濃淡がゆらめき、形を変え、
時折吹く冷たい風に交じって。
風花がひとひら、ひたひら。
舗道に舞ってゆく。

肩を寄せ、手をつなぎあい、温めあい、
並んで歩く影を。
ぼんやりとみつめながら。

俺は、ただ立ち尽くしていた。

どこ、や。
どこへ行った?
こんなとき、どこを探したらええ?


スケジュールの空きを見つけて、時間作って。
会えるんも久しぶりやったから。
とにかく二人きりになりたくて。
部屋取って。

せやのに。

なんでや。

なんで、こうなるん?



きっかけは、なんやったんやろう。

そんなことも覚えてない、
わからへん。

「思い出の中に君がいる・・・」

車の中、つけたラジオから流れ出る音楽。

運転してた俺には馴染んだ曲のひとつ。

彼女にしたかて。
初めて聞くってわけでもないはずやのに。

それまで楽しそうやった彼女から、少しずつ言葉が消えた。

「止めて」

少し間をおいて、彼女がぽつり。
消え入りそうな声で、
絞り出すように発した。

「は?なんで?もうすぐ着くよ」

事実。
目的のホテルまでは目と鼻の先やったし。
それに。
車の流れは順調で。
脇に寄ろうにも、寄られへん。

「どこでもいいわ、止めて」

いつになく。
語気の荒い彼女の横顔。

俺は仕方なく、隙間をぬって車を歩道わきに寄せた。



ドアを開け、彼女が下りてゆく。

「ちょ、どこ行くん!?」

「ごめん、一人になりたい」

言うが早いか、
彼女はドアを閉めた。

ドアガラスの向こう側。

怒ったような、
泣いたような表情を見せたかと思うと。
彼女はそのまま俺に背を向けた。

「は?ちょい待て・・・」

俺の声が、ハザードランプの無機質な音とともに、
狭い車内に残される。

「なんやねんて!」

追いかけて車を出ようとしたものの、
そこは駐車スペースですらなく。

「あああああ、もうッ!あかんやん!」

クリスマス前の。
どことなくせわしい人の流れに、彼女の姿が紛れていく。

なにがどうなって、
一人になりたい、に繋がっていったんかが、さっぱりわからん。

わからんけども。

いや、あかん。
一人にしたら、あかん。

それだけはわかる!

舞い始めた雪が、フロントガラスに当たっては消える。

車を動かし、少し先に駐車スペースを見つけた頃には。
それはかなり風に舞い始め。

痛みにも似た冷たさの中で。
俺はただ。
舗道に立ち尽くした。

彼女がどこへ行ったのかなんて。
わかるはずもなく。

だけど。

探さな。
とにかく、探さな。

今、彼女の手を放したら、あかん。





こんなはずじゃなかった・・・
戻らなくちゃ。
今日の時間を作るのに、彼がどれだけ無理をしたか。

知ってるのに。
わかってるのに。

ばかみたい。
ひとりで。
勝手に。
せつなくなってるなんて。

こんなわがまま。
わかってもらえるはず、ないのに。

そばにいたい。
それだけでいい。
思い出なんかいらない。
涙なんか忘れてしまいたい。
そばにいたい。
ただ、それだけでいい。

なのに。

「今日」が去ったら。
「次」がいつかを待つ日々が来る。

「次」があるのかどうかすら。
不安で仕方なくて。

消えてしまう言葉も。
ひとときのぬくもりも。

彼が私に用意してくれるものを、
与えてくれるものを。

信じきれない自分が。

悔しくて。
情けなくて。

好きなのに。
こんなに。
大事な。
「好き」なのに。

逢うたび、逢えるたび、
それを持て余してる。

どうしようもないくらいの、その戸惑いが。

彼に伝わってしまう気がして。

そばにいたいのに。
いられない。
もどかしい。





彼女は空を見上げ。
降る雪を掌に受け止め。
かすかな冷たさを残して姿を変えるそれを見つめた。





イルミネーションがきらめく中を歩き回り。
彼が彼女をようやく見つけたのは。
誰も気にも留めないくらいの。
小さな小さな公園。
街灯の光すら危ういようなベンチに、彼女はいた。

「やっと見つけた」

近寄った彼に気づきもしない彼女に、彼は声をかけた。

「風邪、ひくで?」

彼を見上げた彼女の頬に。
うっすら残る涙のあとを見つけて、彼は少しうろたえた。

たよりなさげな彼女の頬に指を這わせ。

「氷みたいやぞ?」

小一時間ほども探し回っていた彼の指だって、ずいぶん冷え切っていたのだが。
少しでも彼女を温めてやりたかった。

ただ、素直に。

彼は、彼女の隣に腰を下ろし。
身体を寄せ、肩を抱いた。

「あのね、私ね・・・」

何かを言い淀んだ彼女の口を、
彼はその唇でふさいだ。

言葉がこぼれだしてしまう前に。

自らの言葉で、彼女が壊れてしまう前に。

やわらかく。
優しいKISSを。

あたたかく、
優しいKISSを。

彼から彼女への、精一杯の、やさしいKISSを。


固く冷えた彼女の体が、
少しだけ緩んだのを感じとって、
彼は唇を離し。

「一人になるな、言うたはずやで」

と、言った。

「さびしいのも、つらいのも、しんどいのも、全部ぶつけてこいって言うたやろ」

「受けとめたるから、届くところにいろ。そう、言うたはずやんな?」

「一人で泣いたりすんな」

彼女の顔をそのまま首筋に寄せ、髪を撫でた。

ふわり。
かすかな香りが立ち上って消えた。

「なあ。一緒に、なろか」

身を任せていた彼女が、驚いたように顔をあげた。

「永遠、なんて・・・先のこと約束したってしゃあないとも思うてる」
「だから、紙切れ一つの約束はまだ、よう出来ん」
「でも一つ部屋におることで、お前が、それで安心できるんやったら」
「それくらいのことやったら」

彼を見つめる彼女の瞳が、みるみるうるんでいく。

「・・・・・・ばか」

「は?待てや、なんて言うた?」

思ってた反応と違う答えが返ってきて、彼は聞き返した。

「バカ・・・ね」


笑顔で、泣きながら。
彼女が言った。

「待て、バカはあかん、傷つく」

彼はおおげさに顔を歪めてみせた。

「一世一代の、勝負に出てんぞ?それ、くじくようなこと言うなや」

彼女は、もう一度、彼に体を預けて言った。

「大丈夫。そういってくれただけで、大丈夫」

彼女にとっては。
「次」の約束をもらうよりも、なによりも。
彼がそれを口にしてくれたことがうれしかった。

「次」がいつか、ということよりも。
いつか「次」が来ると思うことの方が、前を見ていられる気がした。

「あほ。二人で暮らしたら、いつだってこんなんしてあっためてやれるやん」

彼女の体を思い切り抱きしめて、彼は微笑った。

少しだけいたずら好きな、子供のような顔で。





Fin.






STORY.44 青春・のすたるじー

2013-12-10 18:40:50 | 小説

えーっと。
やっと書き終わりました。

お話自体は短いのに。
書き終わるまで、長かった(笑)

2012夏、本文の書き出しだけ降りてきて、
なおかつ、すばるの買っただけで見てないDVDの話をつなげたあたりで。
ずーーーーっと止まってました。

最初は。
登場人物は女性のはずでしたが。

いつのまにやら、あのコに変わって。

そしたらちょっとずつ、動き始めて。

The Coversで膨らませて。


いつもどおり。
ここに登場する人物のモデルは実在しますが、
ストーリーはフィクションもいいとこ、妄想です。

作者は根っからの生粋の三河人なので、
関西弁の使い方がわかっていません。

そのあたりは、ニュアンスで汲み取っていただきますよう。

決して添削などいたさぬように、お願いいたします(笑)

興味のある方だけ、続きからお読み下さいませ。



STORY.44 青春・のすたるじー



ガラス窓の向こう側で、街路樹が揺れる。

ひとつふたつみっつ、
染みが濃くなるほどに、匂い立つアスファルトに落ちる雨の匂い。

吹き渡ってゆく風の音に、思いだす表情。
おびえたように、不安げな。
淋しげな。

かすかな雷鳴が遠くで響くと。

顔をゆがませ、耳をふさぎ、目をきつく閉じて。
うずくまってしまうのだろうか、
今も、
あの頃のように。


「ねえ、これ。なに?」

テーブルに放り出された小さな段ボール箱を手にとって、奴が尋ねる。

「んん?・・・あぁ、DVD」

「オトナの?」

「アホ、なんでやねん、そんなんちゃうわ」

「なんだ」

なに、がっかりしてんねん。

「昔の、外国の映画のや。仕事で、見といたらええかな思うて」

「見ないの?」

「あー・・・もう仕事終わってもうたから、必要なくなったわ」

「は?無駄じゃん」

奴が笑った。

「ねえ、これ、僕も一緒にみれるやつ?」

「は?見れるよ、そりゃ」

「じゃあ今から見ようよ」

「今からぁ?」

「いいじゃん、外、雨だし、ゲームも飽きたし」

他人の家に来て、飽きるほどゲームしてんのもどうかと思うで。

「ま、好きにしたらええんちゃう」

「じゃあ決まり」

奴はそう言って、その小箱を俺に差し出す。

「なんや?」

「開けてよ」

俺はそれを受け取って。

「自分でやったらええやん」

「僕のじゃないもん」

ま、それもそやな。

俺はその箱を開け、パッケージを破りデッキにセットする。

「喉、乾いたんだけど。なんかある?」

自分でやれることくらい自分でやれ、いうのが主義やけど。
どうも、こいつ相手やと調子狂うな。
動いてまうわ。

「炭酸はないぞ、ミネラルかアイスコーヒーか・・・」

「あ、じゃあミネラルでいいや」

冷蔵庫からペットボトルを出し手渡すのと同時に。
オープニングの映像が画面に映し出される。

TVの前のソファに陣取った奴の隣で、俺は床に座り。
ぼんやりと画面を見つめる。

この映画も、彼女の目に触れただろうか。
気になる映画は必ず劇場で観るんだと言った彼女は、
劇場まで足を運んだのだろうか。

俺と彼女が出会ったとき。

もう十分に彼女は大人で。
でも、俺はまだ絵に書いたような子供で。

でも。
屈託なく笑う彼女は、子供よりも子供っぽくて可愛くて。

普段は強気で弱さのカケラも見せない人やったのに。
こんなふうに。
雷が鳴るような夜には、人一倍怖がって。

音が通り過ぎてしまうまで。

肩抱き寄せて。
手を握りしめて。

あるいは胸に抱きしめて。
背中を撫でて。

そばにいて、と俺を見上げる彼女の顔を。
俺はまだ覚えてるし。
思い出してるやなんて。

笑われるんかな。

笑うやんな。

きっと。


「なに?今のとこ、面白い?」

奴が上から俺の顔をわざわざ覗き込む。

「ん?・・・ああ、ちゃうちゃう。ほかのこと考えとった」

「ふぅぅん。何思い出したの?」

「ええやん、なんでも。ほら、ちゃんと見ぃひんなら消すぞ」

「あ、見る見る」

カンフー映画なんて興味もなかったし。
こんなことでもなけりゃ、手に取ることもなかったんやろうけど。

『この世界で出会えるものは限られてるわ。出会えたら、奇跡なのよ』

耳の奥で、彼女がつぶやく。

『君に出会えたのは、とても幸せな奇跡』
『いつか消えてなくなるものでも、今、ここにあるだけでいいわ』

逢うたび、俺の腕の中で彼女の口からこぼれ出してた言葉。

「哀しいこと、言うなや。消えたりせぇへんよ」

そのたび、俺はムキになって。
揺らぐ彼女を抱きしめた。

柔らかな彼女の感触の中に。
ごつごつとした塊が残ることがあって。
どれほど懸命に溶かそうとしても、
それは固くてほどけなくて。

そのたび。
俺ではアカンのやって、思い知らされた。

気づかんふりしたんは、俺の弱さや。

わかってた。

どうにもならん現実があるって。
頑張っても乗り越えられんものがあるって。

彼女に頼られるには、俺は子供過ぎて。
俺に頼るほど、彼女は子供じゃなかった。

ただ、それだけのことや。

最後、と彼女が決めた日。

長い時間うつむいてた彼女は。

絞り出すような声で。
『思い出を、ありがとう』と言った。

二人でどこかへ行ったわけやない。
二人で何かをしたわけやない。
写真1枚、
指輪の一つ、
そんなものすら残っていない。
形に残るものなんて、タブーだった二人や。

ただ少し。
ぬくもりを与えあう時間を重ねた。

それだけやったのに。

それを「思い出」と呼ぶ彼女がせつないほど愛しすぎて。

もう一度だけ、この腕に抱き締めて。

最後のキスをした。

いつもより深く、
少しだけ長く。

俺は。
思い出になんか、するつもりあらへんかったのに。

思い出なんか、
なんの役にも立たん、欲しくない。

あそこから続く時間だけを共有したかったんだ、俺は。

彼女を愛していられる時間が続くなら。
なんでも出来る、なんだってする。

夢を諦める以外は。



「酔っ払うだけなら得意なのにね」

「は?」

なんの話や分からへんぞ。

「また演るんでしょ?」

ああ、そっちか。

「んー、らしいな」

「らしいな、って。他人ごとみたいに」

「せやってまだ何も分かってへんし」

「僕、あの映画好きだよ。ああいうの、いいよね」

「ああいうのって」

「自分たちがやってきたことが認められたわけじゃん?
 形になって評価されて、みんなが喜んでくれて。そういうの、いいなぁ」

「お前らやって、これからやろが」

「うん」

「用意された道、進むんは自分次第やからな」



『立ち止まってうずくまってもいいのよ、振り返って引き返してもいいの。
 急ぐ必要なんて、どこにもないの。
 ただね。
 あなたを見ている人がいること、忘れないで』

彼女は俺の頬に手を当てる。
それから包み込むように、俺の頭を胸に抱き。

『ひとりじゃないの。
 周りを見なさい。感じなさい、思いを馳せなさい。
 あなたの夢に重なる夢を見ている人もいるのよ。
 あなたが選ぼうとしてるのは、そういう道なの。
 男なら覚悟を決めなさい』

ああ、そうや。
彼女が俺にくれたんやった。

歯車が噛み合ってない、
どこかでズレてる、
けど、
それがどこなのか、
なんでズレてんのか分からへん、もどかしさの中にいた頃に。

だから「夢を諦めない」俺を認めて許して。

自分から離れて行ったんや。



いつのまにか、映画はエンドロールになってた。

ふと見れば。
ソファでうたた寝してるやん。

大きな口叩いてても、まだ二十歳になるかならへんかや。
順調そうにみえてても。
こいつの道も始まったばっかりやからな。
今はシンドイさなかやろ。

風邪ひくで。

俺はそばにあった上着をかけてやる。

あの映画も。
彼女の目に止まったかな。
諦めなかった夢の一片を、認めてくれたやろか。

あのとき離れたのが無駄じゃなかった、間違ってなかったと。
思ってくれたら。

それだけでいい。


いつしか雷鳴は遠くなり、雨音も静かになった。

代わりに、蘇ってくる。

地鳴りのように、なだれ込んでくるような歓声と。
包まれた闇の中に浮かび上がる、
赤、青、黄、橙、緑、紫、白・・・
変わりゆく色のきらめき。

あの光に隠れて、彼女がいるような気がして。
俺はいつも遠くまで見つめる。
探してしまう。

願った場所に自らの意志で立っている俺が、
彼女には見えているだろうか。

届け。

俺はここにいる。
今、ここにいる。

そう叫んでる。
声を限りに。

あなたへ。

届け。

愛してる。

今も、
ずっと、
これからも。

ここに立つ俺が、二人でいた証。


FIN.


STORY.42 他人の関係

2013-07-03 02:05:17 | 小説

えっと。

今現在、深夜なので。

深夜のお話をひとつ、こっそりと。



書き始めたのはいいけど。
決着点が見つからなくて、放置してました(笑)

ただ無条件に夢を見たかっただけなんですけど。
思ってたところとは、違う場所に行ってしまった。

やはり。
深夜に書くもんじゃありません。の見本です(笑)
←毎回言ってる気がするけどな

よろしければ。

毎度毎度の妄想にお付き合いください。

赤い人を対象にはしてますが。
個人名は一切出てきません。

関西人ではありませんので。
おかしな言い回しや方言等がありましたらご容赦ください。
ニュアンスで、汲み取って(笑)


誤字脱字には気をつけてはおりますが。
もしもあったら、ゆるしてくださいませ。


背中に猫にゃをのっけつつ。
ソファでPCに向かっているダメ主婦です。

明日(いや、今日か)も5時半起きなんですがね(笑)

よろしければ、続きから。
お付き合いの程を。








STORY.42 他人の関係




カラン・・・

微かな音が、ルームライトに溶けた。

「なんで・・・」

手にしたグラスの中で、氷が揺れた。

琥珀の液体を、喉に流し込んで。
俺は、彼女の横顔に問いかける。

聞こえたのか、聞こえなかったのか。

彼女は、黙ったまま。
その手の中にあるグラスを見つめたまま。

その横顔は。

俺が知ってる、その顔は。
いつもなら泣いたり笑ったり。
とても温かい。

けれど、今は。

誰も寄せ付けない。
誰も知らない。

初めての、顔。

今まで。
どこに、この表情を隠してたんやろ。

この顔が本物なら。
俺が知ってんのは、偽りの顔か?

「なんで、出会ったんやろな」

口からこぼれそうになる言葉を、
俺はグラスで閉じた。

そんなこと。
言うたかて、誰にも答えられん。

俺にも。
彼女にも。

「ねえ?」

「んー。なん?」

甘えたような声でこっちを向いた彼女が、
俺の手に、ぬくもりを重ねた。

「今夜は、あとどれくらい?」

「あー。時間か?」

俺は手首に目をやる。

「あのな・・・」

彼女の手が、時計を隠すように俺の腕に絡んでいる。

いたずらを見つかった子供のように。
彼女が笑う。


それは。

いつもの。
俺が知ってる、表情。

「いやよ。時計は見ないで」

「自分から言い出したんやん」

「それでも、よ」

そう言った瞳の奥に。
彼女は、何かを押し殺してる。

俺と彼女の逢瀬に。
足りないもの。

どれほど互いを求めていても。
求めすぎてはいけないもの。

「明日」という名の未来。

俺と彼女にとって。
ここにいる。
この時間だけがすべて。

好きになって。
止められなくて。
感情のまま走り出して。

子供のように。
欲しいものを、欲しいままに手に入れたかったわけじゃない。

自分の力で。
自分の足で立って。
前を見ている彼女に惹かれた。

彼女に、ちゃんとした居場所があるのを知っても。

もう、やめられへんかった。
止まらへんかった。

ぶつけた想いを。
彼女が受け止めたときから。

俺は未来のない「明日」に囚われ続けてる。

彼女は。
どうしたいんやろ。

どこへたどり着きたいんやろ。

俺は、どこへ。
このまま、何処かへ。


「また、怖い顔してる」

「してへんよ」

「ここ・・・」

彼女の指が、俺の眉間に触れる。

「消えなくなっちゃうわよ」

言いながら、俺を覗き込んだ彼女。

「それがええって言うてくれる人だっておるし」

言い返す俺に。

声にならない声で、彼女が笑った。

彼女の指先が。
額から頬をつたい。
首筋へと落ちてゆく。


「やめろや、くすぐったいって・・・」

爪の先が少し止まった。
何かを確かめるように、またなぞるように滑り堕ちていく。

伝わるかすかなぬくもりが、俺の血をかき回す。

どうしようもない衝動。

抑えるか、解き放つか。

彼女は、どっちを待ってんねやろ。


この腕で彼女を抱きしめられる時間は、そう多くはない。

俺と彼女に許された時間は。
増えてんのか?
減ってんのか?

それすら、ようわからんわ。


考えたないわ。

もう、どうでもええ。


彼女の息が、俺にかかる。

柔らかく、温かい。

それだけで分かり合える瞬間。


それが過ぎたら、また他人に戻る。


分かり合えないもの同士になる。


分かり合えないから。
また、この時間を求めるんやんな。

俺たちは、それを繰り返して。

男と、
女であり続ける。

そんな関係も、ありなんかな。

「そんなんでも。ええか?」

どこからも繋がらない言葉の意味を。
彼女は、どう呑み込んだのか。

「ためらうなら、終わりにするわ」

「それは、あかん。・・・あかんよ」

「いつでも戻れるのよ」

「なにに?他人に?」

「そうよ。そして、また出会うの。求め合うの。それじゃダメなの?」

俺は静かに首を横に振った。

「いいや、そんでええわ」


傍からどう見えてようと。

それがたとえ。
許されへん関係であっても。

ここにある時間。
それだけで、ええわ。


俺に傾いてくる彼女の匂いが、
強く、儚く、揺れる。


それを抱きしめて。

解き放つ。


刹那。


狂おしいほど。

「今」が愛しい。



Fin.