曖昧批評

調べないで書く適当な感想など

映画「この世界の片隅に」の感想

2017-10-01 01:15:29 | テレビ・映画
「君の名は。」に続いて周回遅れの感想。

この映画は、リアル知り合いやTwitterのタイムラインで絶賛する人が多い。気持ち悪いほど絶賛する人が多くて、「君の名は。」同様に反発してしまい、劇場には行かなかった。

萌える絵ではない。「火垂るの墓」のふわっとした版。声がのんではなく広瀬すずだったらお前ら称賛しないだろ。軍事的な描写は細かい。

というのが、見る前の僕の勝手な印象だった。

...まあ、見終わった後も、そのへんはあんまり変わってないんだけど。

絵柄は原作マンガのを踏襲しているんだろうから仕方ないとしても、なんつーか、こう、いまどきのアニメとしては色気がないというか。具体的に言うと、女性の胸がない。スミちゃんの入浴シーンだけじゃないかな。その割りに、すずと周作の初夜のやりとりとかはきちんと見せる。僕は長女(小6)と見てたのだが、彼女は「生々しいな!」とか言って引いてたし、僕も反応に困った。

見ないと批判もできない、という動機で見ているので、どうしても粗探し的になってしまうのだが、全体を見ても、これはどうかと思うのは、ダイジェスト感だ。

テンポよく、という表現では足りないほどのスピード感で、次々に短いシーンが連続して流れる。これ、物語全体の中でどういう意味なのかな、とか、オチの意味を考える暇もなく「昭和19年●月」という字幕が表示されて次のシーンが始まる。この細切れ感は、まるでNHK朝ドラの総集編のようだった。長女と一緒に見てたので、聞き取れなかったり意味が分からなかった台詞をいちいち巻き戻して見るのも何だなと思い、後で一人でじっくり考えながら見直しましたよ。

例えば僕は、すずはずっと妊娠していると思っていた。妊娠してるのに納屋で水原氏と二人きりにされ、夫に母屋の鍵をかけられて、「は?」って感じだった。あれ、結局妊娠してないんだね、そういう描写あったっけ?と長女と首をかしげながら見終わった。巻き戻して見たら、やはりちゃんとした説明はなく、病院に行き、夕食が「一人分」に戻っていただけだった。あのシーン、すごくさらっとしてるし、説明不足だよね? 「まあ気を落とさずに」くらい誰かに言わせてもいいのでは? 僕と長女が鈍いだけなんだろうか。

いまだに分からないのが、径子さんが晴美を連れて来た時の会話。風呂敷包みをすずに押し付けて「さえん!」と言う。すずは「お米も最近では高いですよ」的なことを返す。

すずには「三円」と聞こえたのだろうか? 三円は、当時のあの量の米の相場として安いのか?

その後、径子に「広島から来た子だから垢抜けてるかと思ったのに、つぎはぎだらけの服を着ている」といわれる。ということは、「さえん」はすずの服装をけなす言葉だ。「冴えん」か? けなすにしても、ピンとこない台詞だ。広島弁では「だっさw」と言う代わりに「冴えん!」と言うのか? ツタヤに返す前に字幕で確認すればよかった。

久生がどうなったのかも謎のまま宙ぶらりん。終戦の日、径子が号泣してたけど、まだもう一人いる、という感じじゃなかったんだよな。あの背中は、全てを失った雰囲気だった。戦後になっても久生出てこないし。

「反戦映画ではない」とか「残酷なだけではない戦時中の庶民を描いた映画」的に言われているが、僕には十分残酷に見えたし、戦争は嫌だと真剣に思った。6割くらいまで話がふわっとしてて、スパイ扱いされても爆笑してたのに、突然時限爆弾で右手と晴美を失ってしまう。あまりにも唐突でショック倍増だった。戦争の悲劇は唐突にやってくるものなのだろう。右手が使えないことで家事が今までのようにできなくなる不自由さが、まるで自分のことのように歯がゆく、悲しかった。健康が一番だよ、五体満足なのは幸せだよ、ということを子供たちに教えるためには最適な映画だ。また、何の罪もない人間の手足を奪う戦争はやってはいけないとも思った。今割りと本当に戦争が起きる可能性が出てきてるので、余計に。

誉エンジンの薀蓄(2000馬力云々のやつ)とかはミリタリー系にアピールしようとしているあざとさを感じるので不要だった。

人物の絵については前述の通りだが、背景の絵はいいね。そのまま絵葉書にしてもらいたいくらい。精密さはないが、適度にゆるいというか、すずが描く絵のようなタッチだ。すず視点のイメージなのかも。すずの絵と現実が切り替わったりするメタ描写があるし。

のんの演技が絶賛されているが、あの子のしゃべり方とすずのキャラクターが合っていただけで、演技力ではないと思う。のんのしゃべり方は、音と音の間で空気が抜け気味。プロの声優ならもっと聞き取りやすく、分かりやすかっただろう。広島弁は文句なし。僕は広島県民じゃないので断言する資格はないかもだが、きっとネイティブが聞いても違和感ないだろう流暢さだった。

まとめ。ネットでの評判で上がりすぎたハードルを超えるほど僕には刺さらなかったが、いい映画であることは間違いない。制作開始したという長尺版なら、総集編的なダイジェスト感も、少しは薄れるだろう。

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