また例によって情報を一切入れずに、さきほど見終わったので感想を書く。
映画としての完成度が上がっている。設定の矛盾、人物の行動動機の不自然さなどがほとんどない。僕は「君の名は。」の感想で、完成度が低いので次の伸びしろがある的なことを書いたが、その通りになった。「君の名は。」の完成度が70だとしたら、「天気の子」は85以上はあると思う。
テンポがいい。音楽と共にダイジェスト映像で処理するところはもちろん、なくてもいい説明は徹底的にしないのが良い。例えば、帆高が初めて陽菜の部屋に入ったとき。凪が帰ってきてしまうが、次のシーンではもうじゃれあっていた。仲良くなる過程は描かれなかったが、特に強引だとは感じなかった。ああ、そうなったのねと、こちらでフォローしただけだ。そういう、説明不足にならないギリギリの省略が多かった。
おかげでエピソードを多数詰め込めている。普通のテンポなら三時間はかかる話が、二時間に収まっている。なかなか残り時間が減らなくて、まだ?…え?まだ?って感じだった。それがいいことかは分からんが、スカスカな映画ではないことは確かだ。
だが、天気の巫女が空と繋がっているとか、悪天候と引き換えに消されるといった超常設定の説得力はいまいちだった。ムーの取材シーンとかで説明したつもりだろうが、ムーだと「この作品はこういう世界」と認識させる説得力がない。母親の病気からの廃ビル屋上神社での祈りで陽菜が巫女になるのも説明不足というか、新海誠だから超常設定なんだろう、みたいな甘えで進めちゃった感がある。もっと周到に、この世界ではちょっと不思議なことが起こるという雰囲気を出しておくべき。
名前がね、また変なのが先に連想されるんだよな。「君の名は。」はピエール瀧。今回は埼玉西武ライオンズの山川穂高。なんで毎回そういう名前を付けるかね。
「君の名は。」に続いてキャラデザが田中将賀。「あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない」や「ダーリン・イン・ザ・フランキス」なんかで見慣れた顔である。今回は「君の名は。」以上に絵の癖が田中将賀っぽい、というか「あの花」「ダリフラ」っぽく、ストーリーの大枠もそれらに似てるんで、新海誠が背景を描いた田中将賀作品みたいだと思った。
宮崎駿みたいに、監督がキャラデザまでやれとは言わないが、他の作品で絵柄が売れてる人を起用し続けるのはいかがなものかと。庵野秀明もキャラを描かないが、貞本義行はほぼエヴァ専門みたいなところがあるし。
アクションが売りの作家じゃないからいいんだけど、活劇的なシーンは平凡。走る姿に躍動感がない。夏美のカブが水没するところなんかは、目の前の道路が沈んでる、やばい、いける?(水溜まり大写し)いける!みたいなタメを作ってから突っ込めばいいのに、緩急も抑揚もなく進んでストップ。
帆高が風俗のスカウトを撃ったシーンと、帆高が警官の股をくぐって逃げるシーンはスリリングだった。短めのアクションシーンは結構上手かったと思う。
各シーンで各人物の目的と動機、行動が新海誠にしては自然で、スムーズに話が進んでいたのに、廃ビルで須賀さんに止められるのが違和感あった。彼はその前に平泉成と話して泣いてるので、帆高の陽菜探しを応援する方向かと思ってた。殴ってから結局帆高を後押ししてて支離滅裂。
それでも屋上の神社から超常現象で空に上り、やっと陽菜と再会。互いの気持ちを確認し、そのまま消えて二人がどうなったのかは想像に任せるか、現実に戻ってきて、僕たちが選択をした世界でまたやり直そう的な話かと思った。
しかし、まだ15分ほども残っていた。
ここからが問題だった。
あれだけの大立回りをして陽菜を取り戻したのに、現実での再会のやり取りが描かれず、陽菜の身体がどうなったのかも説明もなく、東京に雨が降り続けるという強引な状況のままナレーションで三年が過ぎた。ここまで帆高の家族の存在が薄かったので、島に帰った以上、その辺を少しやるかと思えばそれもなく、告白されるかと思ったら違かったという無意味なシーンがあるのみ。家出してまで出たかった東京に、進学であっさり出てきて、普通に道端で再会。
公務執行妨害しまくってでも彼女に会いたかったあの感情はどうした? なんか歌ってるけど、愛がやれることってこの程度なの? ラスト15分の製作意図がわからん。テンポ良すぎて早めに脚本を消化してしまって、上映の尺の関係で無理に伸ばしたとか?
最後のは「君の名は。」のラストみたいなのの追加を強制されたように思える。プロデューサーの仕業か?
梶裕貴や花澤香菜、悠木碧など、ギャラの高い声優を脇役で使っている。さすがに上手い。主演の二人はオーディションで2000人から選ばれた若手タレントらしいが、棒読みだった。重要人物の須賀さんが小栗旬で棒読み且つ聞き取りにくかった。夏美の本田翼も安定の棒読み。
おかしくない?
これから人気出そうな若手を使うのは分かる。宣伝にもなるので安いギャラで使える。棒読みなのに何故1999人に勝てたのかは分からんけど。
そこで余った制作費で棒読みな俳優を二人使う。さらに、ギャラの高い声優を脇役で使う。意味わからん。梶裕貴は彼でなくてもいい役を、いつもの彼とは違う声色で見事に演じていた。梶裕貴の本来の声が帆高役の声にタイプが近いので、いや主演は梶で良かったじゃん、どうせ高いギャラ払うなら、と思った。
中盤以降、散々貶したが、「君の名は。」よりは好きかな。
新海誠は現実社会との繋がりを描くのが極めて苦手で、避けていると僕は見ている。特に両親との関係性を描くのを避けている。どの作品も、親が画面に出てくることはほとんどない。今作もだ。
しかし、今回は警察やバイト先、児童相談所?など、社会との関係性には、かつてなくきちんと向き合っている。家出物語は、一人では生きていけない未成年の主人公が、いかにして社会で生き延びていくかを描くものだから、その辺はしっかりやらないといけないわけだが、今作はちゃんとしていた。だから。蛇足なラストやキャスティングに問題がありながら、まあまあ好きな作品かなと。