
学生アリスシリーズの再読も、ついに第4作、「女王国の城」である。
第3作「双頭の悪魔」が発表されたのが1992年で、本作は2007年。なんと15年も間隔が空いた。作品の舞台は変わらず1990年頃なので、携帯電話やインターネットは存在しない。例によって舞台はクローズドサークルで、電話を外部にかける、かけないで揉めるシーンが多く、2007年当時でも、これ携帯電話で解決するのに、ともどかしかった記憶がある。
今回の舞台は長野の山奥にある新興宗教の町。宇宙人が啓示を授けにやって来るのを待つ団体「人類協会」の本部にEMC(英都大推理研)のメンバーが軟禁され、中で連続殺人事件が起こる。
登場メンバーの構成が目まぐるしく変わる。まず江神さんが行方不明になり、残りの四人で探しにいく。江神さんと一時的に合流した後、信長とマリアという意外なコンビ、モチとアリスのコンビに別れる。その後、江神・アリス、モチ・信長・マリアに別れる。
今までなかったマリア、モチ、信長というのが新鮮。長編ではマリアはモチ、信長と一緒にいたことがほとんどないのだ。孤島パズルで置いてきぼりを食らったモチ・信長への埋め合わせと、新味を出すためにそうなったんだろうか。
アリスがいない場面はマリアが語り手になる。マリアパートは白抜き項番でそれとわかるようになっている。いろんなメンバーと組むので、マリアが他のメンバーをどう思っているのかが、今まで以上に分かる。
アリスと再会したときは身体が震えていた。ついでに無くしたイヤリングも見つかり、最後の再会シーンはちょっと感動した。
アリスに「俺に命を預けてくれるか」と訊かれて、最初は「少しだけなら」と言い、背後でモチと信長が歓声を上げる。最後に「全部」と言う。
これは車の運転のことを言ってるのだが、僕は邪推している。アリスとマリアは最終的にくっつくのではないかと。それを匂わせているのではないかと。本作が世に出てからそろそろ15年経つ。あの二人の関係に決着を付けるためにも、とっとと第5作を書いて頂きたい。
事件の方は、凶器の拳銃を取りに行くための時間帯を絞り込んで犯人確定。その他の推理もシンプルで、上下巻合わせて850ページの大作にしては謎解きの重みが足りなかったかも。300ページの長編くらいの謎解きなんだよな。イメージとして。
ダメではないんです。「このミス」3位は、前作の6位より上。論理はちゃんとしてる。犯人だけを相手に謎解きをする江神さんが、珍しく一同を集めてやるのも良い。でも謎に重苦しさや怖さはなかったかな。横溝正史「病院坂の首縊りの家」や、笠井潔「哲学者の密室」など、その作者の最大の長編には、それにふさわしい壮大な謎解きがあるもんだが、それはない。
その代わり、冒険フェーズあるいはアクションシーンが多くて長い。信長が盗んだバイクで走り出し、マリアが後ろに乗って背中にしがみついて大脱走とか、追ってくる協会員と「逃走中」ばりのかくれんぼとか。ほぼ本筋とは関係ない少年少女探偵団の冒険活劇が頻繁に挟まるため、ページが増え、ミステリーとしては薄くなったきらいはある。
でも冒険シーンも面白いから許す。威勢のいい言葉は何かという会話で、「バッケンレコード」「新幹線大爆破」と並んで挙げられた「暴れ太鼓」がポイントだった。なぜか外に出してくれない協会と対峙して、そろそろ暴れ太鼓か?みたいなやり取りが面白い。暴れ太鼓は、前作の雨中の合戦から始まってるので、どれから読んでも大丈夫といわれている学生アリスシリーズだが、やはり順番に読んだ方が笑えると思う。