池田純一はトランプ選挙について良記事を書いている。この選挙自体がビジネスイノベーションの坩堝であると捉える。確かに現代のビジネスは変化の先頭にいてこそ意味がある。
『トランピズムとイノヴェイション
とはいえ、トランピズムにはもう一つ、誘蛾灯のような魅力もある。それは現代のマネジメントの潮流とも関わることだ。
インターネットの登場以後、当たり前になったことに、「世界は常に変化するものであり、その変化は想像以上に速い」という世界観の浸透がある。そこから、変化の流れに飲み込まれることを待つよりも、自ら流れを生み出す方に関わることで、変化に対する制御権を確保する方が賢明だ、という行動方針がデフォルト化する。個々のゲームではなく、ゲーム盤そのものの開発競争であり、プラットフォーム構築競争もこの観点から正当化される。今回の大統領選も、そのような時代性の下で展開されている。
このように加速と流転を良しとするビジネス風潮の下では、仮説をもって状況に臨み、情報不足でも何らかの対処をし、間違ったらそれを踏まえて修正していけばよい、というプラグマティックな対応が、ビジネスに関わる人たちの間で、標準的な考え方、望ましい実践態度として推奨される。そもそもトランプを有名にした「アプレンティス」からして、そうしたビジネスセンスや行動力の有無や程度を、ホスト役のトランプによって判断される番組であった。彼は、そうしたビジネス・プラクティスの師範代として崇められていた。トランプは自己啓発本のベストセラー作家でもあり、その点で世俗的なカリスマでもある。』
池田純一|JUNICHI IKEDA|コンサルタント、Design Thinker。コロンビア大学大学院公共政策・経営学修了(MPA)、早稲田大学大学院理工学研究科修了(情報数理工学)。電通総研、電通を経て、メディアコミュニケーション分野を専門とする FERMAT Inc.を設立。『ウェブ×ソーシャル×アメリカ』『デザインするテクノロジー』『ウェブ文明論』『〈未来〉のつくり方 シリコンバレーの航海する精神』など著作多数。
他方でクリントン民主党政権で財務長官を務めたハーバード大学のローレンス・サマーズ教授が米紙ワシントン・ポスト(5月24日付電子版)に寄稿した記事には、トランプをファシストと言い切っている。しかしトランプの人気は税制改革にある「「単身で年収2万5000ドル(300万円)以下、既婚カップルで5万ドル(600万円)以下の場合は連邦所得税はゼロ」、「単身で年収15万ドル(1800万円)、夫婦で30万ドル(3600万円)」以上の最高税率も40%から25%に下げる」と発表している。
追補 ちなみにサマーズメモと言われる内部研究文書には
- 環境汚染によるコストは、健康被害による死亡や傷害によって発生する逸失利益の額に依存する。したがって、最貧国であれば低コストで済む。
- 環境汚染によるコストは、環境汚染が増大することによって、当然上昇する。したがって、環境汚染が、すでに汚染されている国からまだ汚染されていない国に移れば、コストは低下する。
- 所得水準が上昇すると、環境に対する意識が高まるので、汚染物質の処分に一層のコストがかかる。したがって、環境汚染が経済先進地域から貧困地域へ移れば、コストは低下する。
と書かれている。ローレンス・サマーズのほうが人種平等をコストの名のもとに否定するファシストだろう。
前にも述べたが、資源有限な世界で無限成長を前提とする金融スキームは強奪を前提とするファシズムを迎えざるを得ない。これまで有利に働いた地勢的、人口移動的政策が逆梃子になるから、トップダウンの改革を繰り返し周期的に国民に対して求める。トランプ登場は自分たち民主党が蒔いた種に過ぎない。サマーズは変化の後ろから同じものを見ているからファシストに見えるのだ、米国民は変化の先頭に立とうとしている。