公開メモ DXM 1977 ヒストリエ

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書評 「おそめ」石井妙子 著

2015-02-28 11:54:00 | 今読んでる本
おそめ 読了。 苦界(クガイ)に落ちると、金満家の商品やコレクションのように扱われた昭和の花街の少女が、自らの感性と共感知性で築き上げた伝説的社交場 おそめ 、たしかによく知られた おそめ の華麗な著名人の遊びの現場も興味深い。
しかしむしろこの本には別の魅力がある。歴史、そうした昭和の戦前戦後、銀座 川辺るみ子の『エスポワール』 や 上羽秀の京都木屋町『おそめ』 そして、おそめの銀座進出。繁栄の30年代、銀座に地方資本が入り出した第二世代 指名システムで成長した花田美奈子の『ラ・モール』、さらに第三世代の銀座の高級クラブ 山口洋子の『姫』(梶山季之、五味康祐、柴田錬三郎、川上宗薫、吉行淳之介、野坂昭如文壇の常連、1993年山口の経営は譲渡して終了。2013年8月譲渡後の「姫」は閉店) も、田村順子の順子 も一切知らなかった著者石井妙子。石井妙子が、徹底的に取材して当時の上流の世間を再現した。

世間(『世間』とは何か)の妬みと冷たさに恨み言を一切言わずにただ楽しかったことだけを思い出す秀。最後まで『世間との折り合い』を大切にして自分を語らない晩年の おそめ こと上羽秀の幻視に寄り添うように終わるラストがいい。

秀の光の周りに登場する著名人、小津安二郎 大佛次郎 服部良一 川端康成 丹羽文雄 白洲次郎 三浦義一 大野伴睦 門田勲 里見 川口松太郎 巨星が次々と世を去って旧世代の文壇や政治家ももはや居ない。私もそんな世代を知るには作品と伝聞で知る以外に縁がない。
しばらく後で島地氏らが柴田錬三郎と行ったラ・モール、最後の銀座の文壇クラブ社交場がどう消えたのかやっと伝聞が繋がったような気がする。

おそめ といえば、もちろん俊藤浩滋の登場も、任侠映画の昭和も忘れてはいけない。おそめを舞台とした白洲次郎と三浦義一の組み合わせもまた昭和23年クリスマスイブ以降の裏面歴史を見るようで、面白い。坂本睦子はその前の世代長谷川泰子も坂本の世代 ←引用元 東京紅團(東京紅団)http://www.tokyo-kurenaidan.com/へリンク)の銀座の女であるが、坂本の方は1930年、銀座のバー「はせ川」へ女給として出て、直木三十五に口説かれて処女を奪われ、青山二郎、坂口安吾、小林秀雄、中原中也、菊池寛、大岡昇平ら文化人との男女関係のみならず、宇野千代白洲正子とも親しかったが、1957年ころ、大岡と別れ、一年後、自室で睡眠薬自殺を遂げた。直後に白洲は『文藝春秋』8月号に「銀座に生き銀座に死す-昭和文学史の裏面に生きた女」という追悼文を書いた(『行雲抄』所収)。銀座の女はこういう一生の終わりが多い中おそめは自然に生きることを全うした。


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