【用語解説】
注1. イオン風: 気体中で放電を発生させると、イオンを生成することができます。この生成されたイオンは電場に沿って加速されますが、この時、周りに存在する電気的に中性の粒子と衝突を繰り返しながら進みます。その結果として、中性粒子もイオンと同じ向きに加速されます。この現象によって発生した気流をイオン風と呼びます。
注2. プラズマアクチュエータ: イオン風を利用して流体機器周りの流れを制御する装置です。通常は2枚の電極と誘電体で構成され、交流の高電圧を印加することによって空気をイオン化し、イオン風を発生させています。プラズマアクチュエータは航空機の翼周り流れのはく離制御や摩擦抵抗の低減などへの応用が期待されています。
【論文情報】
雑誌名: Scientific Reports
タイトル: Successively accelerated ionic wind with integrated dielectric-barrier-discharge plasma actuator for low-voltage operation
著者: Shintaro Sato, Haruki Furukawa, Atsushi Komuro, Masayuki Takahashi, andNaofumi Ohnishi
URL: www.nature.com/articles/s41598-019-42284-w
DOI: 10.1038/s41598-019-42284-w
【関連する特許情報】
発明の名称: 多電極プラズマアクチュエータ
発明者: 佐藤 慎太郎, 大西 直文
出願人: 国立大学法人東北大学
出願番号: 特願 2019-000603(特許出願中)
現在のプラズマアクチュエータではイオン風を発生させるためには高電圧(通常1万ボルト以上)を印加する必要があり、高圧電源の使用が不可欠です。高圧電源は扱いが難しく、一般的に大重量であり、高価であるため、実用化するためには低い電圧でも駆動し、扱いやすくて安価なプラズマアクチュエータを開発する必要があります。当該研究グループでは、従来は単一で用いられてきた2枚の電極で1組のプラズマアクチュエータを小型化し、それを多数並べることで駆動電圧を大幅に低減する手法を考案しました。プラズマアクチュエータを小型化すると発生するイオン風が弱くなってしまいますが、駆動電圧を下げることができます。小型化したプラズマアクチュエータを1つの素子として捉え、集積化することで、全体で強いイオン風を発生できると考えられます。
過去にも、プラズマアクチュエータを複数用いてイオン風を強化する試みがなされてきましたが、プラズマアクチュエータ素子の距離を近づけすぎるとお互いが干渉し、主流とは反対方向にも放電が起き、逆流するイオン風が生じてしまうために性能が低下する問題がありました。本研究では、印加電圧波形と電極の配置方法を工夫することで、素子同士の干渉によって性能が低下するのではなく、むしろ性能を向上できることを見出しました。プラズマアクチュエータに電圧を印加すると誘電体が帯電しますが、この帯電状態を適切に制御することで、イオン風の発生に適した放電を起こすことができます(参考情報1)。
従来は気流に対して露出している上部電極に正弦波電圧を印加し、誘電体で覆われている下部電極を接地する手法が用いられてきました。この手法に対して、印加する電圧を直流電圧とパルス電圧を組み合わせた波形を図2のように配置した電極に印加することで主流と反対方向の放電が起きず、一方向にイオン風を加速させることができます。本研究では、実際に電極の片側のみから放電が発生することを確認し、プラズマアクチュエータの性能が向上することを示しました(図3)。》
図 2: 従来の多電極プラズマアクチュエータと本研究で提案した多電極プラズマアクチュエータ。従来手法では気流に対して露出している電極の両側から放電が発生してしまい、一方向にイオン風を発生させることができませんでしたが、提案手法では逆向きのイオン風は発生せず、さらに DC 電圧とパルス電圧を組み合わせた電圧波形を印加することで性能が向上することを示しました。
パルス制御であるところをもっと活かせないのか?