池井戸潤さんの「ノーサイド・ゲーム」を読みました。主人公は、君嶋隼人。トキワ自動車の経営戦略室次長の君嶋は、カザマ商事の買収問題をめぐって意見書を提出し、常務取締役営業本部長の滝川桂一郎と激しく対立する。君嶋はその買収額があまりに高いということで、買収をすすめようとする滝川に反対したのだった。君嶋は、その3か月後、人事部から横浜工場総務部長へ異動を申し渡された。明らかな左遷人事だった。横浜工場の総務部長は、トキワ自動車がかかえるラグビー部、アストロズのジェネラルマネージャーを兼任する仕事だった。ラグビー経験のない君嶋はこれも嫌がらせの一つかもしれないと思いながら着任した。横浜工場に着いた日、新堂工場長、前任の吉原総務部長に連れられて、集会所におもむいた君嶋は、工場に勤める1000人近い社員たちに紹介された。吉原が君嶋の紹介を終えた後、君嶋は、皆の前で挨拶をし、ユニフォームを着た50人近いアストロズの巨漢の男たちとも対面し、握手を交わした。温かいその雰囲気に君嶋は、気分を良くした。アストロズは社会人リーグのプラチナリーグに属し、年間、16億円の資金をトキワ自動車から支給されていたが、最近の戦績は低迷していた。おまけに収益は、ほとんど挙げられておらす、観客動員数も少なかった。ただ、それは、アストロズだけの問題ではなく、他の企業のラグビーチームも同様だった。君嶋は、チケット販売のやり方、チームの在り方、日本蹴球協会との関係に、構造的問題があるとみて、改革案を作り、会長の富永に手渡すが、鼻にもかけてもらえなかった。しかも、アストロズは監督が任期半ばで体調不良を理由に退任することになり、君嶋は、新監督を探すことから始めなければならなかった。池井戸さんの小説は、悪辣な大企業と良心的な中小企業の対立という構図の作品が多いように思いますが、この作品は、トキワ自動車という大企業の中での社員同士の熾烈な争いに絡め、ラグビーを通した内部の人間同士のつながりや、葛藤を描いています。できる男、君嶋隼人の胸のすくような展開でした。エンタメ小説として、他の池井戸さんの小説と同様、楽しく読めました。2019年発刊の小説です。ラグビーワールドカップで、日本チームの躍進ににわかラグビーファンになった人も多かったと思いますが、ラグビーファンならずとも一気読みできる楽しい作品でした。お薦めです。
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