深度計予備回路

どこまで行けるか模型生活!
粘土でキャラドールの首をつくろう!
箱模型もつくろう!

戦闘の無いボトムズSS・・・・

2009-02-05 10:03:20 | ボトムズ不定期ショートストーリー
また続きです。
どちらか言えば、コメディタッチになってきましたが、あたしは、こんなのが好きです。

絵面的には、「某埋立地の整備班」なのですが、班長は、今をときめく”相棒”の鑑識米沢さんのそのままのイメージでw

主任は、「俺がハマーだ」のトランク所長(声 内海 賢二さん)そのままでよろしく・・・・w

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「よぅ ベイブはドコいったんだ???」

ロイズは、デモニックハウルのコックピットに頭を突っ込んで、データーログを書き写しているツナギ姿に声をかける。

「あぁロイズさん 班長は、電算室にいったんじゃないっすか??」ツナギの背中は、画面から目を上げず、答えだけが返ってきた。

「あいよ、そういやここんとこ、左膝が抜けるような気もするから、ついでに目を通しといてくれや」
きびすを返し、欠伸しながら格納庫を後にする。

言われたメカニックは、打ち出されたばかりのログを確認する。
(・・・・・・左膝?????  確かに、標準よりプレッシャーが低いわ、おどろいたな・・ベンチじゃ気づかないレベルだぜ)
目を上げた時、小柄な後姿は、視界から消えていた。


ロイズは、自分の部屋がある兵舎を回って、電算室に向かう。
電算室前にある休憩室で、見たことのある顔が、椅子にもたれてモニターを見ていた。

「よぉベイブ、仕事もしねぇでテレビか?」

「はぁ、ロイズさん、お疲れ様です」ふっくらした顔に黒ぶちメガネをかけた、ツナギ姿が振り返る。

アデルハビッツ、ATH12班班長 ヨネズ=セイブ 

”ベイブ”は、名前に引っ掛けて、童顔の彼にロイズがつけたニックネームである。
兵舎からもってきた缶ビールを差し出して、横に座った。

「わたし、まだ勤務中なんですが・・・・・・あ、これは、オレモダビールの新製品じゃないですか・・・・ありがたく頂きます」
真面目な口調で、ビールを受け取り、手早く封を切って口をつけ。

「美味いですね、オレモダドライ・・・スッキリ辛口 ローカロリー・・これは売れるでしょう」一口飲んでから、缶を眺め、あくまで真面目に感想を語る。

一見生真面目そうで、その実、すこぶる融通の利くこの男が、ロイズは気に入っている。

モニターに映っているのは、さっき酒場で流れていたのと同じ、スパイラルヘルとバードケイジの試合を収めたVTRだった。

「なんだよここでも、こいつか・・・・」ロイズもビールを開ける

「えぇ・・・このスパイラルヘル・・・・我々技術屋として、かなり興味深い機体です」

「改めて見ても、たしかに動きが良いな 普通じゃねぇ」一口煽って腰掛けなおす。

「細かく分析すると、面白い事がわかるんです、コレをみてください」

ベイブは、ノートタイプのコンピューターを手早く広げて起動すると、前もって取り込んでおいたVTRを流す。
ロイズが覗き込むと、バードケイジが、スパイラルヘルの後ろを取って、不意打ちにでるシーンだった。
バードケイジの30ミリが、スパイラルヘルの装甲に弾かれたのに合わせて振り返ったとこで、VTRが停止した。

「最も面白いのはココです」
VTRは撒き戻され、もう一度再生、同じシーンで停止した。

「・・・・??????」

「では、カウンターを連動させてみましょう」
画面はスローモーションで再生され、その横で、タイマーのカウンターが回る。

再び同じ場所で停止

「いいですか?わかりますか?????」

「・・・・・・・・・???????」

「問題は、30mmが着弾してから、マシンが振り返るまでの時間です、
ATはロボットです、人間が操縦する以上、その反応には限界があります、
着弾をパイロットが認識して操縦桿を操作するまでの時間と、その操作がCPUに到達し処理されるまでの時間、
情報が、MCに伝達されて駆動を始めるまでの時間、当たり前の事ですが、その合計を省略する事は出来ないんです。
ロイズさんの反応速度は、普通のパイロットに比べて、3割ほど速い、事情は解りませんが、恐らく人間の限界を超えている数字だと思います。
デモニックハウルに積まれている、CPUは、社の特注規格ですから、市場に流れてる物より格段に速いですし、
ローレック方式のMCも、作動速度、反応数値も、現状では恐らく最良でしょう。
この組み合わせで出る、反応レコードより、ほんの僅かですが、VTRの方が速い・・・この僅かは、限りなくありえない僅かです」

「つまりは どういうこった」

「マシン、パイロット、伝達形式のいずれかが、デモニックハウルより速い、わたしが”限りなく最速”と太鼓判を推すデモニックハウルの構成より速いんです」

「予めレーダーで追跡してて、振り返ったのが偶然”イイタイミングだった”って可能性もあるぜ」

「あくまで推理ですが、恐らくそれは無いでしょう、レーダーで追尾していたのなら、背中を向けて攻撃を受ける理由がありません
スパイラルヘルは、なんらかの事情で近距離レーダーを使用していないと私は見ます」

「じゃぁ、俺たちが想像も付かない新式のMCやCPUを使ってる・・って線はどうだ?」

「CPUに関してでいえば、ヂヂリウム方式より速いクエント素子式が存在します、
しかし、CPUの処理速度だけで、パイロットの技量と、MCの性能まで、劇的にフォローできるとも思えません
MCについても、試作品も含めて、現在実用段階に入ってる物のデーターは、殆ど私の手元にあります。
電算室に来てたのは、スパイラルヘルの重量を、画面から読み取れる、慣性モーションやら、着地時の復元時間で、予測する為だったのですが・・・・」

「そんな事も出来るのか」正直驚いた。

「ここの電算機は優秀です、ある程度巾は有りますが、良い線で、結果をだしました。」優秀なのは、恐らくこの男なのだろう・・・

「ほぅ・・・・・・で???」

「外見から判断されるパーツと、予測される装甲やフレームの重量、パイロットやら、補機類、水物なんかを、減算して
MCの重量を計算してみたのですが、ATHX12に組んでいるローレック方式のMCを、必要分組み付けるより、少々軽い計算になりました。
恐らく、簡易量産仕様の”バイローレック”辺りを組んでいるんじゃないでしょうか。
少なくとも、このタイプは性能に関して、ローレック方式を超えていません
純粋な反応速度に、総重量が齎す影響も少ないでしょうから、正直この線も違うでしょう」

「なるほど」プロの説明は、解りやすい上に小気味良くて気持ちがいい

「恥ずかしながら、結論は”不明”のままです。
いずれにしても、人間が肩を叩かれて振り返るような、自然な動きをしていることが、限りなく不自然だということなのです。」
ヨネズは、ビール片手に真面目な顔で締めくくった。

「まぁいいや、つーか、興味だけで、忙しい整備班長が、ハンガー留守にするのも珍しいな」空になったビールの缶が握りつぶされた。

「えぇ、そろそろうちにも、試合のオファーが来てもおかしくないかとおもいましてね」生真面目な顔が少し笑った。

「冗談事じゃねぇ・・・・・・・」唇の端を歪めて、ロイズは立ち上がる。

「あぁロイズさん、GAT40Cの改造、大方終わってますよ、時間も遅いですが、私もハンガーにもどるので、ご一緒にどうですか?」
ノートPCを閉じながらベイブも立ち上がる。

殆ど同時ダストボックスに放られたビールの缶が、連続して軽い音を立てた。







無線で、道中にベイブが入れておいた内線に従って、
ハンガーに戻るのと前後して、デモニックハウルの脇に、パレットに乗ったヘビーマシンガンがフォークリフトに曳かれて運ばれてくる。

GAT40に、当たり前の様に22式の標準マガジンが取り付いていた。

「ほぉーーー 綺麗な仕事で、毎度おどろくぜ。」ロイズは、あごをさすった。

クエント製のAT用ヘビーマシンガン「GAT40」は、機関部を後退させてプルバック式の構造を持つため、銃身長の割りに全長が短く取り回しが良い。
おまけに、ベルゼルガと同じく、ハンドメイドで、組上げられる為、工場で大量生産される、その辺のヘビーマシンガンとは、材質、加工精度が別物で、当然高価である。
ただし、薬莢を使う、通常の炸薬を装填するオーソゾックスな構造の為、ケースレスの22式と比較して、圧倒的に装弾数が少ない。
先月マーケットに並んでいた出物を見つけたロイズが、チームの経費で勝手に購入し、22式の機関部への改造を、依頼していたのである。

「難儀しましたよ、なんせ使ってる鋼材が硬くて加工しにくいし、失敗したら予備がないですからねぇ」
工場の泣きをベイブが代弁した。

「正直、22式の部品を、かなりのとこ使ってますから、”オリジナルどうりの作動”というわけにはいきませんが、悪くは無いはずです。
可動部分の消耗品もなるべく流用できるように工夫してみましたから、少々使い減りしても、そこそこリペアー出来ます。」

「ありがとうよ、どれ、折角だから撃たせてもらうか」
ロイズは、少々ヤレた外観のマシンガンを、ポンと叩いてから、デモニックハウルのコックピットに這い上がる。

「すまん、ヘルメットくれ!」メカニックに声をかけると、タイミングよく、放り投げられて来た。
器用に片手で受け取り、起動スイッチを入れて、コンプレッサーのアイドリングが安定するのを待つ。

「起こすぞ」

声をかけるまでも無く、メカニック一同は、既に距離をとっていた。
ヘルメットを被り、ケーブルを繋いで、操縦桿を引き、降着姿勢を解除させる。

足首の固定具が外れたのを確認して、ペダルを踏み込むと、ハッチが開いたままのマシンはゆっくり歩き始める。

マシンガンを拾ってシューティングレンジへと移動し始めたデモニックハウルに気づいた、物見高いメカニック達は、フォークリフトに相乗りして後ろを付いてゆく。

「関係ない奴ぁ 仕事してろよ」笑って言うロイズに、耳栓でのジェスチャーで、答えるメカニック達。

ヘルメットの通信機にベイブの声が入る

「ベンチで試射は済ましてますが、バルカンセレクター(速射モード)は、なるべく勘弁してください、いまんとこ、換えのバレルが、ありませんから」

「了解」

レンジの、試射位置で、ハッチを閉め、ゴーグルを下ろす。
200mほど先に、ターゲットが描かれた、装甲板が立てられている。

左手が、鉤爪になっているデモニックハウルは、通常ワンハンドの射撃を行なう。
強化されたMCと、剛性の高いフレームは、それに充分に耐える。

セレクターを単発にセットし、重いマシンガンを拳銃のように構えたデモニックハウルが、ターゲットに照準をつける。

ちょっと勿体をつけて、トリガーを曳く。

轟音に続いて、ターゲットのほぼ中央に穴があく。

続いて二発、三発、着弾位置は、さほどぶれない。

「ベイブ 悪くない仕上がりだ、音も良いぜ」

「ありがとうございます、フルオートの時の弾の散り具合は、最小にセットしてみてください」通信機からベイブ返事が返ってくる。

言われるとおりにセットして、トリガーを引く

地響きのような連続した轟音。

二回 三回 四回

メインカメラをズームにして確認しても、着弾穴は、あまり大きくなっていない
更に、サーモグラフに切り替えて銃の機関部を確認するが、異常な温度上昇は確認出来なかった。

「上等だ!こしらえた奴らに奢りだな!!!」

フォークリフトから、歓声と口笛が湧く。

こんどは、銃弾の散り具合を最大にした「制圧モード」にしてトリガーを引く。

雨のような火線が横殴りに走り、ターゲットの装甲板は見る見る間にミンチになった。

「コラーーーーーーーーー!!!!お前たち!!一体何時だと思ってるんだぁぁぁっぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

不意に、主任の甲高いダミ声が、そこらじゅうに響き渡る。
タイムラグゼロで、メカニック達が乗った、フォークリフトが引き返す。

「おい!!こらおまえら待て!!・・・って逃げ足はえぇ・・」

カートに乗った、士官服の黒人が、拡声器片手に、走ってくる。
ロイズは、ハッチを開けて、マシンを降着させ、ヘルメットを取った。

「ロィーーーーーーーズ!!! またお前かぁ!!!」聞こえる距離まで来ても、拡声器で、がなる。
コーヒー豆のような顔で、ロイズを睨みつけるのは、フランク=ナイマン少佐、新型AT開発部の主任を兼任している。
官民合同の所帯では、少佐でなく主任で呼ぶ事が多い。
そして「デモニックハウル」の名付け親でもある・・・・・

「はぁ、仕事熱心なメカニック諸兄に急かさせまして・・・・・・・・」ボリボリと頭を掻く。

「まっーーーたく、何を考えてるんだ! ここは表向き ふつーーーーの駐屯所なんだ! 平時の夜中に、マシンガンの音がしたら大事になるだろうが!!!」
大げさな身振りを交えて、全身で、怒りを表現するが、どことなく滑稽に映る。

「はぁーーー 自分とした事が、返す言葉も御座いません。」

「なにが、自分とした事だ!! 昨日から監察官が、査察にきとるのは知ってるだろう!
お前も、いい歳なんだから、ちったぁ若い奴の見本になってやれ!
いや、そのまえに、”わしの身に”なってくれぃ!!!!!」

フランク主任は、ロイズの経歴を知らず、前説無し配属されてきた”昼行灯兼腕の良いゴクツブシ中年”を地で行く、今のロイズに小言が絶えない。

「そういえば、主任、自分を、お探しだったとか」

「しっっってたら、とっとこんかぁーーーー!!!!!!」青筋立てて怒鳴る至近距離からの拡声器は、音の暴力である。
ロイズは、顔を顰めて、耳を塞ぐ

「玩具仕舞ったら、寝る前に俺の部屋にこい!」

「へいえい・・・」カートに乗り込んだ主任を見送って、マシンを立ち上がらせると、通信機にベイブの声が入る

「主任、もどられましたね、わたしも、流石にこの時間に試射は、どうかと思ったんですが・・・・もうしわけありません」

”えらく離れた所”に、積んであるコンテナに”隠れるようにして”、トランシーバーで話すベイブを見つけたロイズは、

「とりあえず、あいつ等に、おごりは無しだっつっとけぇ」

無敵のデモニックハウルは、重い足取りで、ハンガーに引き返し始めた。





SSの続き・・

2009-02-02 13:38:12 | ボトムズ不定期ショートストーリー
先週の続きです。なんか8000字超えました
昔編はこれでお仕舞です。
艦長は、村井国夫さん、副官は、おなじみカンユー広瀬さん
情報将校は、大塚明夫さんあたりでイメージしとります・・・・・・・・

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目が覚めた・・・・・

殺風景な天井が見える。

・・・節々が痛む身体を、ゆっくり起こす。

どうやら、硬い寝台に、着の身着のままで転がされていたようだ。


「どうなっただか、よくわかんねぇが、まだ生きてるみたいだな」グルグルと、首を回してひとりごちる。

無意識に身体のチェックを行うのは、長い年月で、身に染み付いた癖である。

(節々痛いが、骨折も捻挫も無い・・・・・頭は多少ぼーっとしてるが・・・・・動くにゃ問題は無いな)

改めて狭い室内を見回す。

どこか見慣れた内装と、床に響く鈍い振動、人工重力独特の感覚からして、どうやら、航行中のギルガメス艦の中のようだ。

船窓は無く、恐らく施錠されてるであろう入り口は一箇所、天井の隅には監視カメラを見つけた。

「起きたぞーーーー」くたびれた調子でカメラに手を振る。

事情が事情なら、速やかに脱走の準備に取り掛かる所だが、最早この際どうでもよかった。

ブーツを脱ぎ、素足になって、再びベッドに寝転がる。
腰のポーチを探ると、驚いた事に、タバコ道具一式が入ったままになっていた。

「おぉぅ サービスイイねぇ・・・・・」

潰れた箱から、一本取り出し、火をつける。
通常、宇宙軍規において、船内の定められた場所以外での喫煙はご法度である。

空気清浄機の音が大きくなった。

「そういや・・・・神の子・・・・どーなっちまったんだろうねぇ・・・」

タバコの長さが半分になった頃、前触れも無く、ドアが開いた。

逆光気味に立っていたのは、サングラスを掛け、ギルガメスの将校服を着た壮年の責任者らしい男と、恐らくその副官、銃をたづさえた護衛の兵士は二名。
ロイズは、タバコを指でモミ消し、ゆっくり立ち上がって、ギルガメス式の敬礼をする。

素足で、踵は鳴らない。

「こちらは、この艦の艦長、ボスコー大佐だ!!!」副官らしい男が、甲高い声でいう。

「はぁ・・・そりゃ わざわざどうも」姿勢を崩して頭を掻く

「貴様ぁ!!!!!!!!!」予測どうりに、殴りかってくる副官の拳を軽く避け、後ろに回りこんで、盾にすると、腰に下げられた拳銃を抜き背中に突きつける。

「!!!!!!!!!!!!!!!」兵士は、慌てて銃を構え、緊張が走る。

ロイズは、唇をゆがめて、副官の背中を軽く突き飛ばしすと、奪った拳銃をクルリと回し、グリップ向けて差し出す。

「あんたらも、仕事だろうけど、俺も少々くたびれてるんだ、この期に及んじゃ”協力的な捕虜”って奴で、やってくつもりだから、お手やわららかにたのむぜ。」

引っつかんだ拳銃を慌ててホルスターにもどしながら、睨みつける副官の視線をやり過ごす。

「ふん 面白い男だな、お前が、どこのどいつか知らんが、この艦で拿捕した以上、私たちにはその素性を知っておく義務がある、
そして”協力的な捕虜”で、ある以上、しばらく命の心配は必要ないと言っておく。」

「しかし艦長!こいつは!!」

「だまれロドバ 副官として、己の不注意を先ず恥じろ」と、艦長氏は、ぴしゃりと言い放つ。

「あーー ボスコー艦長に、ロドバ副官、非礼は詫びるぜ、話の通じる奴が責任者で正直助かったよ・・・・・クドイのとか痛いのは苦手なんでな」

「この時点で、まだ君の身分は民間人だから、軍人として極端な真似はしまいよ・・・まぁ、とり急ぎの疑問があれば聞こう」

「あ・・・あぁ・・・・・・・・     靴履いていいか?」寝台の横に転がったブーツに目をやる。

「構わんよ、履いたら付いて来たまえ、それと、わたしの艦は禁煙だ、注意してくれ。」艦長は、にやりと笑って言う

「へいえい・・・」モソモソと、ブーツを履き、兵士に挟まれるようにして、船室をでた。

軍艦特有の殺風景な、廊下を進みながら言う。

「ところで、この船はギルガメスの船だろ?どこに向かってるんだ??」

「いかにも当艦は、ギルガメス軍レスリオン級12番艦”アンダガーバ”、12時間前にクエント宙域を離れ、亜光速でメルキアに向けて航行中だ」
背中を向けたまま、ボスコー艦長が応える。

「俺は半日も寝てた勘定になるのか、そういや、クエントはどうなったんだ???」

「消滅したよ」

「は????」間抜けな返事をかえす。

「事情は解らんが、クエント星は、爆発して消えて無くなったのだ。」

「はぁ・・・・・・」さらに間の抜けた声がでる。

「宙域での、作戦を終えた、当艦が、メルキアに向けて転進している最中、貴様の乗ったシャトルが、クエント星から救命信号を出しつつ接近してきたのだ。
我々は、条約に則って、速やかに回収作業を行い、亜光速航行に移行した後40分を待たず、クエント星は爆発した。
作戦行動中だった、わが軍と、バララントの兵員はもちろん、あの星の住人、動物、全て星と運命を共にしたのだろう」

「神様も神の子も、木っ端微塵かぁ・・・」一同は、少々マシな調度で、飾られた一室に到着する、恐らくサロンだろうか・・・・・

「まぁ掛け給え、亜空間航行中は時間がたっぷりあるし、クエントの消滅を生き延びた貴様の話なら、退屈しないで済むだろう。」
垢抜けないデザインの、ソファーに、腰掛けたボスコーは、帽子を取って、サングラスを外す。

「そんじゃ、まぁ、遠慮なく」ロイズも腰掛、兵士は、入り口の両脇に移動した。
ロドバは、艦長の脇で、直立してロイズを睨んでいる。

「で?見慣れない耐圧服を着て、ギルガメスの敬礼ができる貴様の素性から、話してもらおうか????」
落ち着いた話し振りだが、目つきは鋭い、無駄に相手を威圧しない、この手の男は総じて油断できない。

「まぁ、親方も、組織も消し飛んじまった今となっちゃぁ、なんに遠慮もねぇ・・・っていうか、元々義理も恩もねぇ成り行きみたいなもんだから、
隠し立てしても、はじまらねぇ、俺の名前は、ロイズ=A=バッカニア、ご推察の通り、元々ぁ、おたくらのご同輩さ、
得体もしれず名前も無い、妙な組織に転属させられる前の、最終軍歴は”メルキア戦略機甲歩兵団特殊任務班X-1”・・階級は少尉くらいだったかな」

「ほぅ」ボスコーの眉が、軽く吊りあがり、ロドバの顔は明確に引きつった。

「まぁ、転属の流れは、ペールゼンのおっさん任せだったから、円満退役になってるのかわかんねぇが・・・
そういやぁレッドショルダーも、終戦前に消滅したらしいな・・・
まぁ、どうせ、俺の血液からとった、DNAは、情報部に、まわされてるんだろう? この線で照合すりゃ手間は省けるぜ」

「まだ結果は届いていないがね、メルキアに付く頃には、報告もあるだろう」

「とにかくいろいろあったさ、どっか始めたもんやらわからんが、長い話になるだろうから、喉が渇くぜ? 飲みもんくらいサービスしてほしいね」

「きさまぁ!!!!立場をわきまえろ!!!!!!」間髪要れず、ロドバが喚く

「まぁ良いさ、私も、喉が渇いていた所だ、アルコールまではサービスできんが、茶ぐらいは良かろう 今のところ、これは尋問では無いのだから」
ロドバが不承ながら、通信機でその旨をつげる。

「俺が転属した、秘密結社は、いろいろ興味の尽きないところさ・・・・・・・・・・・」
運ばれて来た、不味いコーヒーを片手に、ロイズは話始めた、重要ないくつかを、巧く省きながら・・・・・・







「ふーーむ 正直驚いたよ、恐らく、わが軍の情報部でも、結社について、ここまでの内容は掴んでおるまい・・・・」
3倍目のコーヒーが冷めた頃、ようやく話を終えた、ロイズを前に、ボスコー大佐は唸った。

「貴様!他に隠し立てしてる事はないんだろうな!!!!!!!」ロドバが甲高い声で凄むが、ロイズは肩を竦めただけだった。

「まぁ、俺も、あそこじゃ、一兵卒だから、しらねぇ事もたくさんあるさ」

「しかし・・・・両軍の、AT部隊を切り抜けるほどの腕前を持つ、「神の子」キリコ=キュービーとは何者なのだろう・・・・・」

「素性はしらねぇが、スカシタ態度で愛想のない餓鬼さ、
ただまぁ着てるもんは、ギルガメスの耐圧服だったから、調べりゃ解るんじゃないか?
ひょっとして、奴もレッドショルダーだったりしてな」冗談めかして笑ってみせる。

ボスコー艦長が立ち上がるのに合わせて、ロイズも立ち上がる。

「いずれにしても、面白い話だったよ、わたしは、以上の内容を報告書に纏めて報告することにしよう、メルキアに着いても、しばらく情報部が離してくれんだろうから、
今のうちにゆっくりしとくといい  ロイズ=バッカニア元少尉  協力に感謝する!」

見事な敬礼をするボスコーにつられて、ロイズも敬礼する、

  今度は踵が鳴った。




その後、船室に戻されたロイズが、亜空間航行を終えるまでの5日間、再び尋問される事はなかった。
翌日に、ちゃんと船窓のある、一回り上等な部屋に移されてからは、定期的に運ばれる、「恐らく一般兵士よりはマシな」食事を食べて、天井を見上げる日々。
退屈ではあったが、休息には丁度よかった、なにより元来は活動的なタイプでは無い。
酒とタバコが無いのは堪えたが、疲労が溜まった身体は、気を抜くと一日の大半を睡眠に費やす為、涙がでるほどでも無かった。

6日目の未明、サイレンと共に、通常空間にでるアナウンスが艦内に響き、かっきり10分後、
独特の感覚ともに、艦は「減速」したようだった。

船窓のシャッターが開き、見慣れた星空が広がる。
見知った、惑星メルキアが、思いがけず近くに見えた。

施錠されたドアを叩くと、小窓が開き兵士の目元が見える。

「あとどれくらいで着くんだ????????」

「あぁ、最終減速工程を入れても、明日の朝には着くだろう、ちょっと身体動かしとかんと、地面に下りたら堪えるぜ」
無駄話に付き合う程度の仲になった、兵士が応える。

(まぁ、どうなるもんやら、解らんが、船から下りたら、とんずらする手もあるだろうさ)
結社の耐圧服のベルトの裏に、隠されている、”ワイヤーソー”を、無意識に確認する。

自然豊かなメルキア星は、ギルガメスの主星であり、軍本部が置かれている。
大戦末期は、このギルガメスの喉元にまで、バララントの攻撃が及び、人工の大半を失う事となった。

予告どおりに、戦艦アンダガーバは、メルキアの軌道上に到着し、搭載された数機の着陸シャトルが、軍港に向けて降下を開始する。
その中には、ボスコー艦長達と同乗するロイズの姿もあった。

程なく、広い軍港の滑走路に着陸したシャトルにタラップが接続され、兵士に挟まれる形で、ロイズは地上に降りた。
光化学スモッグで、薄暗いとは言うものの、久しぶりに浴びる太陽と、地面の感覚は格別だった。

艦長と副官の乗るリトルパーサーを見送ったあと、後続の護送車に載せられたロイズも、軍港を後にする。

20分少々で、車は、大きな建物の前に着いた。

4人の兵士に囲まれて、ロイズは、エントランスをくぐり、ゲートを素通りする形で、そのままエレベーターに載せられる。
回数表示が、62になった所で、エレベーターは開き、広い廊下を進むと、立派なドアがある。

「ロイズ=バッカニアを護送いたしました」

返事の変わりにドアが開き、一同は、大きな窓が並ぶ、広く明るい部屋に進んだ。

立派な丁度が設えられ、厚い絨毯が敷かれた室内からすれば、高官向けのフロアーだろう。
窓に向かい、こちらに背中を向けて立つ将校服の男の他に、銃を持った兵士が6名。

「ご苦労・・・・下がりたまえ」将校服の男が、振り向かずに言うと、護送してきた兵士はきびきびと引き返す。

「ロイズ=バッカニア君 長旅ご苦労・・・・・もはや見当も付いていると思うが、ここは、メルキア軍情報部だ、
そこのドアをくぐった時から、君の存在は世界から消滅したと、考えて頂きたい・・・・この意味は解るな。」ロイズは、肩を竦める。

「おとろしい話は、ともかく、久しぶりの重力が堪えるんで、座らせてもらうぜぇ」
返事を待たずに、仕立ての良いソファーに、どっかと座る。

「惚けた男な、まぁいい、今日は私も、充分に時間を採ってある、お互い遠慮は抜きで行こう」
戦艦で出されたのとは香りが違う「本物の」コーヒーが運ばれてくる。

「で?こないだの長話で、大方ぶっちゃけたつもりだが、まだ足りないのかな???」

「ボスコー艦長の報告書は、仔細で、信頼に足る物だったし、ソースである、君の証言は”可能な範囲で”裏を取っている最中だ。
とりあえず、ロイズ=A=バッカニアが、本物だったのは確認できた、因みに、軍の記録ではレッドショルダーとして、死亡した事になっていたが・・・」

「ほぉ・・・円満退団だと、思ってたんだが、ペールゼンのおっさんは、やっぱし食わせもんだな」

「大佐も死んだよ・・・・君は、もはや数少ない、彼の忘れ形見かもしれんな。
 まぁそれはともかく、本人のDNAと、死亡と記された記録が一致しただけで、
君の身元を鵜呑みにするほど、この国の諜報部は甘くない ここで、君の身分がある程度保障されたのには、訳がある。」

ここで、始めて情報将校は、向き直った。

サングラスをはずしたその顔に、ロイズは見覚えがあった、

「あぁぁ?お前!ヘッジス!ヘッジスだな!!!!!!!!」つい腰を浮かせる。

「久しぶりだなロイズ、 メルキア軍情報将校 ヘッジス中佐だ、オロムでは世話になったな」
ニヤリと笑った顔の左側に残る、大きな古傷は目にまで達しているようで、左目を開く様子は無かった。

「運ばれてったまま、帰って来なかったからてっきり死んだと思ってたぜ! 出世しやがってこの野郎!!!」柄にもなく、駆け寄って肩を叩く。

ロイズと、ヘッジスは、オロムの前線で一緒の部隊にいた。
別段歳が近かったわけでも、気が合ったわけでもなかったが、あの酷い戦場では、だれもが家族同然だった。

バララントの絨毯爆撃でATを失ない、丸裸になったロイズは、重症を負ったヘッジスを背負って、15km先の合流地点まで歩ききった事があった。
格好の良い理由など無かったが「弾に当たったのが俺だったなら、こいつは俺と同じ事をしただろう」という確信だけはあった。

生命維持装置をつけられ、ヘリで運ばれたヘッジスは、二度と部隊に帰ってくることは無く、その数ヶ月後にロイズはレッドショルダーに転属した。

「命は取り留めた物の、左目を無くした俺は、情報部の内勤にまわされたのさ、
お前が、吸血部隊で血反吐吐いてる頃、運に任せて出世して、気が付きゃ、お偉い中佐殿だ」ヘッジスは笑ってみせた。

「お互い悪運だけは一級品ってこったな、とにかく情報部将校殿の、裏書が採れれば、俺は無罪放免・・・・・・ってわけにはいかねぇだろうな」
再びソファーに戻って、コーヒーをすする。

「・・・・・・まぁ、そういうことだ、お前の立場は二重に苦しい、秘密結社の生き残りで、レッドショルダーの生き残り、
逃げないように鎖に繋いで、死ぬほど自白剤を飲まてやりたいと思ってる奴は山ほど居るだろう」
ヘッジスはタバコを取り出して火をつけると、ロイズに箱を放った。

「もうちょっと、ソフトに言えねぇもんかね」ロイズも、一本取り出し、テーブルの上のライターで火をつける。

「ボスコー艦長から、お前の報告をもらったのが、俺で良かったよ、神に感謝するんだな」

「神様も神の子も、もう辟易だ・・・・・」露骨に顔を歪める。

「まぁいいさ、お前から出た情報は、ある程度ソースをぼかして、俺が処理しておく、上手にやったら、もう一つくらい出世できるくらいのネタだ、
問題は、今後のお前の処遇なんだが・・・・、近い奴らの目もあるし、監視を付けずに放免何ていうわけにはいかんだろう・・・・・
ところで・・・・」
ヘッジスは、脇に置いた、ブリーフケースから、資料の束を取り出してロイズに放る。

「コレに見覚えはあるか??」

部外秘の判が圧された資料は、アデルハビッツから提出されたATの仕様書で、数枚めくった先に載っている3面図に、見覚えがあった。

「こいつぁPS用ATじゃねぇか、報告し忘れてたかもしれねぇが、結社で、こいつのテストもしたことがあるぜ」悪びれず答える。

「それはギルガメス制式になった、ATH-12の資料だ、ア=コバの基地に何機か先行配備されている」

「おい・・こんなマシン普通のパイロットにゃぁ上等過ぎだろう、持て余すにも程があるぜ」煙を吐きながら背もたれにふんぞり返る。

「アデルハビッツの商魂には、頭が下がる・・・というか、お偉いさんには”クエントのアレ”が、忘れられんらしいな」

「・・・・・・・・・・・・」目だけヘッジスを見る。

「まぁ、お前も俺も、口出しできる立場じゃ無い、それどころかこれは、お前にとっちゃぁ有り難い話になる。」

「・・・・・?」

「ATH-12は、先行配備されてるという物の現実的に煮詰めが足りない、
当のアデルハビッツでさえ、完全な試験データーを持っていないんだから当然だろう、
だが、”売りたい奴”と”買いたい奴”は居る、そしてここに、”商品のテストをしてたやつ”が居る、おまけにそいつには身分が無い」

「要するにどういうこった?」灰皿で、タバコをもみ消す。

「ギルガメスの軍籍を戻して、こいつのテストパイロットをしろと言ってるんだよ、我々としても、お前の監視が出来るわけだ、お互いにいい話だろ???」
ヘッジスはニヤリと笑う。

「いいか悪いかわからんが、とりあえず命の心配しないで済むのは在り難いな、
そんで? 具体的にドコで何をすれば良いんだ??
俺は頭の悪い兵隊だ、解りやすく言って貰おう」冷めたコーヒーを一気に飲み干す。

「こいつのテストは、バトリングで行う、戦後はバララントもこのパターンで、新型のテストをしているらしいし、ATメーカーの肝いりで暴れてるチームも多いそうだ」
ここで一旦言葉を切ってヘッジスは立ち上がる。

「ザ=クイの駐屯所に、マシンとアデルハビッツのメカニックが既に入っている、現場はパイロット待ちだ。」

「嫌も応も無いっつーか、手回し良いのな」資料をぺらぺらめくる。

「そうでもなけりゃ、ここで中佐まで出世出来ん、命の恩人に精一杯の礼さ」ヘッジスは再びタバコに火をつけ、深く吸い込んだ。

「お前の軍歴は、オロム時代の曹長で戻す、レッドショルダーの話は、この際無かった事にしてもらおう、”お互いの為”ってやつだ」

「まぁ、なんでも良いさ、とにかく今着てる耐圧服は、不景気でいけねぇ、
仰せの通りにバトリングで遊ばしてうから、とっとと新品の”オレンジ色”を支給してくれ 中佐殿」
ロイズは、資料をテーブルに放って立ち上がり、唇を歪ませた。







ボドムスSS第二回<長いぞ・・・

2009-01-30 16:59:17 | ボトムズ不定期ショートストーリー
お試しで書いてたボトムスSS
続きをタイプしてたら、なんだかお話がダラダラ長くなってきました。

生い立ちも含めたロイズ編だけでも、そこそこ尺が長いものになりそうです。
この手の書き物は「俺キャスト」とか充てて書くと面白いというか、スムーズなので、例に漏れずイメージだけは、ぼんやりと・・

ロイズは、ブルースウィリスの吹き替えくらいの、野沢那智さんか、
コブラの液晶ゲームのCMとか、アンドロ梅田くらいの山田康雄さんが、”渋お調子者”っぽくて好きなのでその辺に・・・
前回の、酒場のおっさんは、やっぱし 青野 武さんでしょうか!!!

とりあえず、ネタが無いので、第二回分を張ります。

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酒場を出て、ダングに跨ったロイズは、タバコに火をつけ、キーを捻った。
くぐもったエンジン音を響かせ、車で混み合う幹線道路に滑り出す。

タバコが一本灰になる頃、ダングは市街地を抜け、薄暗い郊外の道路を、ヘッドライト頼りに速度を上げた。

そのまま20分も行くと、フェンスに囲まれた、メルキア軍駐屯地に到着する。
「立ち入り禁止」の看板が吊られたフェンスと並行にダングを走らせ、ゲート横の守衛小屋で停めた。

「よぉ お勤めごくろうさん」

再びタバコに火をつけ、気取った口調で、片手を上げるロイズに、顔見知りの守衛も笑顔で答える。

何時も笑っているようにみえる印象どおり、平時、ロイズ=バッカニアには、兵士につき物の、荒さや気難しさはなく、付き合いやすい部類に入る。

「ロイズさん、さっき主任が怖い顔して探してましたよ??またなんかやったんですか?」

「主任の怖い顔は、いつものこったろ、とりえず、まだなんにも、してねぇつもりなんだがな」
口元をゆがめてダングに跨り直し、緩々と走らせ始めた。

程なく格納庫に到着すると、あまり褒められない場所にダングを停め、入り口の脇にある、カメラに認識票を翳して中に入る。

22時を回っているにも関わらす、格納庫には煌々と明かりが点り、ツナギを着た作業員が、忙しく動き回っていた。

油とPR液のにおいが、鼻を刺す格納庫には、数機のATがハンガーされており、それぞれ数人ずつツナギ姿が取り付いている。
一番奥の、赤く塗られた大型ATが、ロイズのマシン”デモニックハウル”

アデルハビッツ本社から出向してきているメカニックともに調整が繰り返されている。

この新型ATの雛形は、パーフェクトソルジャー専用として、アデルハビッツ社が開発しており、その生い立ちは極めて複雑な物である。

高出力のローレック方式MCを稼動させる強度と補機スペースを得る為、09型の図面をそのままに、一割ほど大型化されている。
形状は09型とほぼ変わらず、専用のカメラと、左腕を11mm機銃を内蔵した、大型の鉤爪に交換されているのが、目を引くだけで、200mも離れれば、見分けが付かないだろう。

ただし、そのパフォーマンスは、現在稼動しているATの中でも最高ランクに位置するどころか、
事実パーフェクトソルジャーでもなければ、乗りこなす事は出来ないであろうオーバースペックが与えられている。

更に、この”デモニックハウル”は、膝から下を、タイプ20の収納式ブースター付きに変更することで、
加速性能の上乗せまで目論まれていた。

こんな、”イカレタ”ATのテストパイロットを務める、ロイズ自身も、少々”イカレタ”経歴を持つ。






二十年以上前、ロイズは、少年兵としてギルガメス軍に入隊し、
右も左も解らぬまま、当時拡大の一途を辿り、慢性兵員不足であったAT部隊に配属された。

最低限の操縦訓練を受けた後、多くの新兵と共に、月に20%の兵士が戦死するオロムの最前線に配属されたロイズは、
死と隣り合わせの戦場を生き残り、その特異な才能を開花させた。

自覚こそ無かったものの、初めて接する機械への順応性が高く、身体能力にも優れていた彼は、
配属1カ月にして熟練のパイロット達と肩を並べる戦果を揚げ、
半年も経つ頃には、押しも押されぬエースパイロットとして、隊内での地位を確たるものとしていた。

数に任せて押し寄せるバララントの猛攻で、常に劣勢を極める厳しい戦況においても、彼の技能は、ずば抜けていた。

その後一年を生き延びたロイズは、ギルガメス高官ヨラン=ペールゼンの肝いりで、大規模かつ秘密裏に新しく組織された、特務部隊にヘッドハンティングされる事となる。

同隊は、AT操縦技能だけに留まらず、高度な白兵戦闘、過酷な状況におけるサバイバル訓練、達観した戦術理論に基づく作戦立案
果ては機械工学、情報処理技術に至るまでを、高いレベルで、教育、訓練し、徹底的に鍛えあげる事で、
あらゆる不可能状況において挫屈しない強靭な精神力と行動力を持つ、最高の戦闘集団として機能する事を目的としていた。

第一期メンバー中最年少で入隊したロイズは、配属直後の模擬戦闘で、当時最高のボトムズ乗りと唄われた、”インゲ=リーマン”の乗るATを、格坐させたという。

その後、部隊は、いつしか「レッドショルダー」と呼ばれ、その秘密主義と多大な戦果をして、敵味方問わず、畏怖の念をもって語られることとなる。

ロイズは、生死すら賭した厳しい訓練を耐え抜き、
この精鋭部隊をして、戦死者が続出するような、非公式で陰惨極まりない作戦に、数え切れないほど参加し、生還し続けた。

そんな彼に再び転機が訪れるのは、終戦の7年ほども前であろうか。

ペールゼン大佐直々の辞令により、”ギルガメス軍外の組織”への転属を命じられたのである。

公称を持たず、ただ「秘密結社」とだけ名乗る組織は、当時、その目的も明かさぬまま、拡大と武装化を続けていた。

名も知れぬ組織の、強力な私設軍の兵士として、ロイズは、送り込まれたのである。

同社におけるロイズのポストが、士官候補でなかった事を斜視し、転属には、レッドショルダー内での彼の存在を疎むリーマンの意図が在ったのではないかと、
いぶかしむ声もあったが、もはや全ては闇の中である。

但し、秘密結社内での待遇は、RS隊に比べて、遥かに恵まれたものであったという。
同社は、ロイズを、危険でイリーガルな作戦に従事する熟練の兵士の一人としてでなく
ギルガメスより奪取した、パーフェクトソルジャーに施す戦闘パターンのレクチャーサンプルとして評価したのである。

組織が、PSのテスト出動を繰り返してデータ収集を続ける中、
そのノウハウは、蓄積、簡略化され、ロイズを含む同社所属のパイロット用に施す「後天的強化プログラム」として転用されることとなる。

薬物投与と、マインドコントロールを重きにおいた、「エンハンスドソルジャープログラム」は、
劣化PSとも呼べる、強力な戦闘力を持つ兵士を生み出す事に成功したのである。

先天的な肉体強化を伴わない為、代謝機能に限度こそ有るものの、
ヂヂリウム照射を必要とせず、メンタルへの影響も最小限の「ESプログラム」は、ある種PS計画の実用到達点とも呼べた。

PSが、テスト出動において、戦死の憂き目に会った後、彼らの専用でもあった、試作2型ヘビー級ATは、
同社ES用としての転用を目的として、ロイズ自身がテストを続ける事となった。

その後幾許も待たず、事態は急転する。

結社は「神の子」を名乗る、キリコキュービーの指揮下に入り、
ギルガメス、バララント両軍を敵に回した、破滅への道を辿り始めたのである。

二大星域軍の前には、最早ささやかでしかない結社の戦力を盾に、神の子キリコ=キュービーは、惑星クエントに実在するという、神の元へと向かうと宣言する。

そして「神の子」は、ロイズによってテストされた、陸戦装備の2型XATHを駆り、
ギルガメス、バララント両陣営が展開するクエント地表で、未曾有の突破劇を演じたのである。

護衛として出動するロイズ達に与えられた、軽量級AT”ツヴァーク”は、
そのユーモラスな外見と裏腹に、抜群の運動性を誇る素晴らしい機体であったが、架せられた命令は、最悪と言えた。

「命を賭して神の子を守ること」

黒山のごとくに展開する両軍のATを前に、躊躇うことなく突破を試みる「神の子」キリコに追従するESパイロット達は、
猛烈な迎撃を前に、一機また一機とその数を減らしてゆく。

最終目標であった地下プラントにたどり着いたのは、「神の子」と、ロイズだけであった。








キリコが駆る、堅牢なXATHに対し、ロイズの軽量級ATは、持久性、耐久性に劣り、限度を越えた酷使によって、既に稼働限界を迎えていた。

結社仕様の高性能な耐圧服の空調機能が、火照った身体を無理やり冷やし、嫌な汗だけが身体を伝う。

軽量な機体に併せた、繊細なペダル操作で、キリコのATに追従するが、思いがけず、カーブで外側に大きく軌跡が膨らむ

(くそっ 熱で、液密度が下がってきやがった、この型は、こんな滅茶苦茶な使い方するようには、出来てないんだぜ畜生)

コントロールに遊びが出始め、反応も鈍い、PR液の活性率を示すペーハーゲージは、レッドラインを下回っている。

(こんだけ軽い機体に、PRSPが付いててコレだ・・・・ブースター(加圧機)でもありゃ、あと20分はもつんだが・・・・)

声に出さず毒付くロイズの耳に警告音が響く

(こんどは、サンドトリッパーの水温か・・・・吹かし過ぎは、承知なんだよ この野郎め)

高機動ユニットに乗った数機の09型が、すぐ後ろに迫ってるのは解っていた。
やけっぱちで、アクセルを全開にするが、全く速度が乗らない。

(結局 何機くっついてきたんだ? 正直キリコなんざ、どうなっても知ったこっちゃねぇが・・・・・・)

レーダーの後方警告が鳴る。

(やっぱり、連中のが方が、大分速いな・・・・追いつかれるのも時間の問題か・・・・・)

長い直線通路で、ツヴァークを停止させる。

深地旋回で180度反転させて、両腕の内蔵式11mm機銃を展開する
ロイズは、前方から高速で迫って来る、ドックキャリアーに乗った09型に、照準マーカーをポイントして、ツヴァークをスタートさせた。
アクセル全開で加速し、左右にマシンを揺すりながら突撃させるも、疲弊したマシンは、思った動きをしていない。

(ちっ!)

強化樹脂製のボディを30mmが掠め、被弾した左腕が吹き飛ぶ。

ひるむ事無く、トリガーを引き続け、至近距離から残った右手の11mmを打ち込む!
火線が空しく空を切った直後、凄まじい衝撃が来た。

すれ違いざまに、ぶつけられたのだ。

速度が乗った敵機の前に、ライト級のボディなど、ひとたまりも無い。
激しく弾きとばされ、地下プラント内通路の側壁にぶつかったツヴァークは、機能を停止した。

その横を、数機のドッグキャリアーが、猛スピードで通過していく。

トドメが打ち込まれなかったのは、不幸中の幸いだった。

「っつつつ・・・・」

機体の自損によってパイロットを養護するツヴァークの構造に助けられ、ロイズは、思いの外軽傷で済んだようだ。

手早く再起動を試みるも、反応は無い。

(こんだけ無茶すりゃ、しかたねぇな)

通信機のスイッチを切り、ハッチを吹き飛ばして機体から這い出る。
独立した内燃機関を持つ、サンドトリッパーの複帯が、裏返ったまま、むなしく空転するのみで、激しく変形した機体は、見る影も無い。

「あーーーぁ こんなんなっちまってよ・・・・・ まぁ、こんだけつきあってやったら、神様も、勘弁してくれるだろ・・・」

ロイズは、秘密結社の窮屈で視界の悪いヘルメットを脱ぎ捨てて、走り出した。


地下プラントを程なく進んだ先に、キリコに破壊されたであろうATが倒れているのを見つけたロイズは、外から非常レバーを引いてハッチを吹き飛す。

中で圧死しているパイロットの両脇に腕を入れ、無理やりコックピットから引きずりだして、代わりに乗り込んだ。

「動いてくれよ このポンコツめ!」

起動操作を繰り返すうち、馴染みのある始動音に続き、ATは、振動を伴いながらも息を吹き返した

「けっ!やっぱしゼロナインは、しぶとさだけ一流だな」

血塗れのコックピットで毒づき、辛うじて息を繋ぐマシンを立ち上がらせたロイズは、あてもなく、クエント地底に広がるプラントの捜索を開始した。

キリコの到着に合わせ、このプラントは、ほぼ全ての機能を回復しているようだった。

不穏な明滅を繰り返し、そこかしこから、異音が響く中、ロイズは勘にまかせて、ATを走らせる。

気を抜くと停まりそうな、機体を宥めながら、いくつか、覗いたドックの一つに、数機の脱出シャトルを発見したロイズは、改めて己の悪運と「この星以外の神」に、感謝した。

ATを降着させて降り立ち、状態の良さそうな一機を選んで手早くチェックする。

理屈で言えば、数千年前の品物のはずだか、気味が悪いほど状態は良い。

コックピットに乗り込み、当てずっぽうで、起動操作を行うと、あっけなく、シャトルは息を吹き返した。

「まぁ神様がこしらえたんだ、万に一つもソツは無いな」

シャトルの滑走レールが伸びるトンネル状の脱出ゲートに目をやる。

「・・途中で埋まっちゃいねぇだろうな・・・・・」

とぼけた調子で呟いて、目を凝らすがトンネルは余りに深く、運を天に任せるしかなさそうだった。

「まぁ、あとはどうなろうが、知ったこっちゃねぇ・・・とにかく、こんな星からぁとっとと尻尾まいた方が良さそうだ」

手早く体を固定したロイズは、最終チェックを済ますと、躊躇う事なく発射レバーを引く。

凄まじい加速Gを伴って、シャトルが発進した。

地底深くから、地表に向かって掘られたトンネルを抜けクエント大気圏を突破した辺りで、ロイズの意識はゆっくりと遠のいていった・・・・






   続く~


ショートストーリーで・・

2009-01-16 14:34:44 | ボトムズ不定期ショートストーリー
ネタが無いので、ボトムズ読み物で・・・・
お試しで書いてる、SSとかです、こういう書き物好きなので、時系列を前後させながら、書き足してそのうち一本になる予定ですが、あんまし完成する気はしませんよ?
だから、ショートストーリー形式でw

面倒じゃない人は、本編のBGMとか、モブSEとか脳内再生しながら読んでくさい・・・

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<スパイラルヘル>

「今日も出やがったぜ」

安酒の臭いと、蛮声が溢れる酒場の一角で、アリーナ帰りの男が興奮気味に話す。
「なにが?」
笑ってるような顔をした銀髪の男が、気まぐれな相槌を返す。
「あの、真っ黒なATさ、
おめぇも、見たこと有るだろう、
化けもんみたいに強い上、所属チームも、乗ってるやつも未発表、謎謎謎の謎尽くし!
最終試合の二つほど前に、エキストラ扱いで、ゲームアナウンスが流れて、馬券が売られるってんだから、気が抜けねぇ」
「はっ! 今度は、どいつが、スクラップになったんだ」
「アストライズんとこの、“バードケイジ”よ!
奴が勝ったら10倍、スパイラルヘルが買ったらスズメの涙ってとこだが、挑戦者が、バードケイジともなりゃ、会場は、もりあがるってなもんよ!」
「そんで、どっちの馬券を買ったんだ」
「そりゃぁおめぇ、あの黒い奴見たら、財布の中身をソックリぶちまけて、“スズメの涙”を、酒代にするのが、“賢いやりかた”ってやつさ・・・・・・お、VTRが、始まったぜ」

アリーナに近いこの酒場には、バトリング帰りの客に混じって、AT耐圧服を着た、選手とおぼしい客の姿も少なくない。
ささやかなサービスのつもりか、専門チャンネルで流れるバトリング中継を、デカイばかりで、ノイズの多いモニターで垂れ流している。
場外馬券やらダフ屋で、買った券を握りしめて、ここで試合観戦しながら一杯やる“賢い”客は存外に多い。
誰も彼もが、派手なリアルバトルの流れ弾で死ぬのが乙な物とは思わないのだ。

レギュラーゲームのプログラムが全て終わったこの時間は、ハイライトのVTRが流れている。
「・・・も、出ましたね!スパイラルヘルが!
おまけに、挑戦者が、ザ・クイアリーナのランク7、バードケイジと来れば、ファンならずとも試合に釘付け!」
派手なコスチュームで、興奮気味に捲くし立てる解説者から、画面が、アリーナに切り替わった。
男たちは、グラス片手に座りなおす。

試合開始を告げる、アナウンスに合わせて、パドックから、ATが競り上がってくる。
Aパドックから上がってきたのは、黒一色で塗られた中型のAT
モニター画面が薄暗いせいもあって、細かい作りはよく解らないものの、頭部で、うっすら光るオレンジのセンサーと、左腕に取り付けられた大型の鍵爪が十二分に目立つ。
アナウンスに合わせた派手な、パフォーマンスも無く、ただ凡庸に突っ立っているだけで、その言い知れぬ不気味さが、アリーナの歓声さえトーンダウンさせているようだ。

一方挑戦者側のBパドックから上がってきたのは、グレーと白のツートンカラーに塗られた、ヘビー級14型ベースのAT“バードケイジ”
リングネームの由来である、真っ赤に塗られた、複雑なロールバーに目が行くが、仔細に観察すれば、随所に専用装備が施されてるのが見て取れる。
冷却ダクトの数から見れば、中身も相当に弄っているのだろう。

ハッチを開け、耐圧服のヘルメットを脱いだパイロットが、手を振る。

オーナー グレン=オットー

痩身に、女好きのする甘いマスク
戦時より14式に乗る折り紙付きのヘビー級使いとの噂どおり、素晴らしいマシン捌きで、急速にランクを上げる人気選手である。
湧き上がる声援に応えて、派手なウインク一つでヘルメットを被り、ハッチを閉める。

「スパイラルヘルとの、マッチメークは、望んで出来る物ではない」

確固たる実力を持つ選手にだけ、正体不明のマッチメーカーから、アプローチが有る。
詳細を明かさぬ事を条件に、上位選手では在り得ないレートが組まれ、破格のファイトマネーが支払われる。
勝利時に支払われるエクストラのファイトマネーは、通常の10倍とも20倍とも噂され、アプローチを受けた殆どの選手が、その挑戦に応じるという・・・


アリーナーの地下から、リアルバトル用の障害物ブロックが、土煙をあげながら競り上がってくる。

ザ・クイのアリーナは、他の会場に比べて広く、実際に存在する訓練基地の施設をコピーした模擬地形で行われるリアルバトルは、特に人気が高い。

レッドショルダーマーチに続いて、試合開始を告げる空砲が鳴る!

歓声が溢れ、弾けるように、二機のATがスタートし、グライディングホイルの作動音が響く。

グレンのATは、戦闘距離を維持しながら、牽制を兼ねてミサイル3発を発射

当たらぬのが当然のように、黒いATは、機体を軽くステップさせて、やり過ごし、一気に距離を詰めてくる。

障害壁に命中したミサイルが上げる轟音と、爆煙が、アリーナに充満したタイミングで、バードケイジは、小さく旋回し、再び距離を取りながら、障害壁に身を隠す。

そのまま一気に機体を加速させ、高い速度を保ったまま、迷路のような地形を走り抜けて、黒いATの背後に回りこむ。

スパイラルヘルは、姿を消したバードケイジを無理に追わず、戦闘姿勢をとり、爆煙の残る広場に停止したままである。

黒いAT背後の障害物から横っ飛びに現れたバードケイジは、不意打ち気味に、銃身を短く切った22式マシンガンを発射する。

初弾が装甲板に弾かれた刹那、黒いATは、素晴らしいステップで180度向きを変え、小刻みに機体を揺すりながら、一気に距離を詰めてくる。

バードケイジは、肝を据えたのか、22式に加え、ボディ前面の11㎜機銃を、発射して、黒いATを迎撃する。

スパイラルヘルは、右手に握ったマシンガンで応戦する使事も無く、200m近い距離を一気に詰め、左手装甲板に取り付けられた鉤爪を振りかぶる。

グレンは、マシンガンを盾にしながら、右に機体を横滑りさせ、迅速に回避行動をとらせる。

通常の敵ならば充分間に合うタイミングだが、黒いATは、存外に速い。

更に迫る鉤爪は、腕に取り付けられた装甲板ごとスライドし、一気にそのリーチを伸ばしたのである。

おそらく1m近くは伸びているであろう

激しい火花と轟音を伴って、ボディ左側のロールバーと腕がもぎ取られ、宙に舞った。

しかし、バードケイジは、一歩も引かず、通常のH14には装備されていないターンピックを地面に打ち込み、右スライドから、急旋回に、持ち込む。

ヘビー級ATの重量と激しい遠心力に負けた、ターンピックが、マウントごとちぎれとぶが、お構い無しに、黒いATの背中に、思い切りバードケイジをぶつける。

体躯に劣る黒いATは、派手に宙に舞うが、空中でバランスを回復し、反転しながら前傾気味に戦闘態勢をとって着地、間髪入れず、チャージングでバランスを崩した、バードケイジに跳躍する。

こんどはかわせない

機体右脇に鉤爪が叩き込まれ、右腕が機能を停止しマシンガンが地面に落ちる。

よろけるように、距離を取るバードケイジの足にマシンガンが打ち込まれ、膝下を失った、機体は、力無くしりもちをついた。

ゲームセットだ

スパイラルヘルが、無慈悲に、22式マシンガンのグレネード管に、「鉄杭」を装填するのに合わせて、オットーは、非常脱出レバーを引き、ハッチを吹き飛ばして、コックピットから転がり出た。

無人のH14に、次々と鉄杭が打ち込まれ、引火したPR液が、小爆発を起こした。

わき腹を押さえてうずくまる、グレンに目もくれず、怒号と歓声が渦巻くアリーナから、黒いATが引き上げていくところで、再び画面は解説者に切り替わった、

「はぁーぁ バードケイジっつっても、所詮は二流なのかねぇー」

“スズメの涙”を頂いた男は派手にそっくり返り、横の男の顔を見る。
男は、荒い銀髪を掻きながらグラスに残った酒を飲み干し、相変わらず笑ったような顔で言う。
「バードケイジは、オーナーもマシンも充分一流だ、あの黒い奴が特別なのさ、
さも当たり前にやってる立ち振る舞いの全てが、一流のパイロットにもマシンにも真似できないレベルなんだよ、
あれみて、歯噛みしてる技術屋さんも、さぞかし多いだろうな」

ゆらりと、立ち上がった男の背丈は、意外に低かった。

「おぉ?もう帰るのかよ?」

「仕事がのこってるんでな、こう見えても俺は真面目な勤め人なんだよ」
上着を羽織って、カウンターに金貨を弾く。

「ロイズよぉ、おめぇと、あの“赤い奴”なら、スパイラルヘルをぶっ壊せるか???」

「・・・・さぁな」
少し口元が歪んだ。

どうやら、今度は、本当に笑ったらしい。