<中間貯蔵施設着工>汚染土搬入、1年で0.2%
毎日新聞 2月4日(水)0時30分配信
中間貯蔵施設保管場への試験搬入を予定している自治体
東京電力福島第1原発事故の除染で生じた汚染土などを仮置きする「保管場」が3日、中間貯蔵施設の建設予定地(福島県大熊町、双葉町)で着工した。周辺自治体からは「早く汚染土を運び出してほしい」との声が上がる一方、用地交渉は難航したまま。県内7万6000カ所以上に分散保管されてきた汚染土の搬入がいつ終わるかは見通せない状況だ。【猪飼健史、阿部周一、喜浦遊、土江洋範】
◇環境省「完了は数年先」
保管場には県内各地から汚染土などが入ったフレコンバッグ(袋)が運ばれ、防水シートで覆って仮置きする。報道陣に3日、設置工事の現場が公開された。
福島第1原発の敷地から約1.5キロの「帰還困難区域」。地面を掘り返す重機の音が響き渡る。この日は計約100人が作業にあたった。放射線量が高いため、防護服やマスクの着用が欠かせない。案内役の環境省の担当者は「地権者の理解を得るため、一層丁寧に説明した上で今後の事業の展開に向けて努力したい」と話した。
周辺自治体の住民は汚染土の搬入開始を待ち続けてきた。昨年10月に川内村東部の避難指示が解除され、自宅に戻った菅波勇己(すがなみ・ゆうき)さん(75)は「一緒に暮らしていた娘と小学2年の孫は戻らず、今も村内の仮設住宅にいる。若い人が安心して暮らせるように、早く汚染土を持っていってほしい」と訴える。
川内村では5カ所の仮置き場に計約20万立方メートルの汚染土を保管している。国が当初示した保管期間の目安は「3年」だったが、4カ所は3月までにその期限が過ぎる。村の要請を受けて環境省が先月25日に開いた説明会では搬出完了時期は「数年先」としか説明されず、同村の男性(66)は「こうなるだろうと思っていた」と不信感を強める。
ただし、村内には「早期搬出」を声高に訴えることへのためらいもある。農業の井出紀雄さん(67)は「大熊、双葉両町にとっては迷惑施設。現状では、川内村のものは村で保管しておくしかない」。遠藤雄幸(ゆうこう)村長は「国は3年という約束を破った。信頼関係が損なわれれば、復興事業全てに影響する」と危惧する一方、「大熊、双葉の立場を考えると、我慢できる分は我慢しないといけないと思う。住民もそれを分かっている」と話した。
環境省によると、最終的に県内で発生する汚染土は2200万立方メートル程度と見込まれる。しかし保管場に最初の1年間で試験搬入するのは約0.2%の計約4万3000立方メートルにすぎない。
◇用地取得 最大の課題
望月義夫環境相は3日の閣議後記者会見で「保管場着工は搬入開始への大きなステップ」と述べ、汚染土搬入開始の条件として福島県が掲げる大熊、双葉両町との安全協定締結を急ぐ考えを示した。
環境省は保管場の稼働後、中間貯蔵施設の建設予定地に近い双葉郡と田村市の計9市町村から汚染土を約1000立方メートルずつ搬入する。5月以降は保管場を拡充し、対象を県内全域に広げる。汚染土の輸送には一般車両と同じ道路を使うだけに、安全対策の徹底が不可欠だ。
富岡町には中間貯蔵施設に最も近い高速道路のインターチェンジがあり、輸送車両が多数通過することが見込まれる。町の担当者は「交通渋滞が心配だ。一時帰宅した住民とトラックの交通事故も懸念される。しっかりとした管理が必要だ」と話す。福島県警は住宅街や通学路、渋滞が予想される時間帯を避けて輸送するよう環境省に求めている。ある県警幹部は「交通事故で汚染土が散らばった時に対応できる準備と、運転手への指導が欠かせない」と話す。
一方、政府にとって施設完成までの最大の課題は、地権者から用地提供の同意をいかに早く取り付けるかだ。環境省によると、昨年9月に地権者説明会を始めたが、登記簿上の地権者約2300人中、避難先や相続人が分からないなど約半数とは連絡さえ取れていないという。
地権者が古里を手放す思いは、年齢や家族構成、将来の帰還意思などによってさまざまだ。会津若松市に避難する大熊町の男性(65)は「福島に必要な施設だということも、現状では町に造るしかないのも分かっているが、代々受け継いできた家と田畑を自分の代でなくすことにまだ納得できない」と語った。また、実家が双葉町の建設予定地に含まれ、両親に用地交渉を任された福島市の団体職員、石田政幸さん(51)は「土地を売る、売らないというのは、個人だけの問題じゃない。元のコミュニティーがどうなるのか、町がどうなるのか、先の見通しが立たないまま土地を手放していいのか分からない」と話す。