尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

つくし

2007年05月03日 23時49分37秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「つくし」
 

日曜日である
山田さんの旦那さんが
顔を楕円形にして
春の野のつくしのように
立っている
春の野ではなくて
自分の庭で
腕組みもせず
長い手をだらりとさせて
丸い空を見ている

偶然だろう
塀で区切られてはいるが
隣の竹中さんの
旦那さんも顔を長くして
丸いものを
見上げている

放心して
丸いものをみている
時折湧いてくる唾を
呑み込みながら
四角いところから
つくしのように
見上げている



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女優

2007年05月03日 13時58分38秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「女優」


生まれてまもなく
天才的に会得した
影のない素敵な笑顔や
他者への威嚇を含む嫌悪
必要に応じて瞬時に形成してきた
彼女の顔面の随意筋

朝だった
天才女優は
化粧鏡にとまった蝿が
溺れて沈んでゆくところを見つけたとき
不随意筋となった

顔面の中で寝ていた
知らない磯辺の
千匹のイソギンチャクが
それぞれの思う方向へうごめき出した

彼女から
海が匂った

この世に確かな事はあまりないが
確かな事は彼女の
露呈したイソギンチャクは今
幸せだった
どれほどかというと
どこかの磯辺の
千匹のイソギンチャクぐらい


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女優

2007年05月03日 13時58分32秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「女優」


生まれてまもなく
天才的に会得した
影のない素敵な笑顔や
他者への威嚇を含む嫌悪
必要に応じて瞬時に形成してきた
彼女の顔面の随意筋

朝だった
天才女優は
化粧鏡にとまった蝿が
溺れて沈んでゆくところを見つけたとき
不随意筋となった

顔面の中で寝ていた
知らない磯辺の
千匹のイソギンチャクが
それぞれの思う方向へうごめき出した

彼女から
海が匂った

この世に確かな事はあまりないが
確かな事は彼女の
露呈したイソギンチャクは今
幸せだった
どれほどかというと
どこかの磯辺の
千匹のイソギンチャクぐらい


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驚愕

2007年05月03日 13時51分57秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「驚愕」


日々の労苦のため
すすり泣く
枯野のような左手に
愛しすぎた
右手が火をはなつ
そのまん中で
ほてった顔が
驚愕だ


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フランケンシュタインの魂

2007年05月03日 13時48分06秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
 「フランケンシュタインの魂」
 

裸の
丸い魂が
きばっている

表面から
肉の付いた
鏡の破片
が出てくるわ
出てくるわ

鏡で
なぐりつづけられた
らしい


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ブルドッグ

2007年05月03日 13時40分01秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「ブルドッグ」


赤いバラの
頭を振り
歯ぎしりしながら
黄色い道を行く
そんな
ブルドッグ

振り向いて
僕に
吠えました

悲しい

僕は聞きました
ホワイ?

アンサー
バラと犬であること!


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革命

2007年05月03日 13時36分18秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「革命」


人は皆
首から上をかついで
胴が歩いていると
振る腕が
はじめに
気付かねばならない
顔が王様だと
俺たちは
奴隷だと

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王は

2007年05月03日 13時33分25秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「王は」


母が死ぬとき裏庭で
闇から黄金の蝶が
舞いあがる幻想を見た
それからというもの
好きな人が去ったり
小さな動物が死ぬ度に
色とりどりの
夢を見なければならなかったのである

たった一度
自分が死ぬときだけ
はっきり目覚めていて
笑ったのである
蝶よ、と
王は

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わたしという名の

2007年05月03日 13時21分39秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「わたしという名の」


わたしを
呼ばないでください
わたしはわたしのいう名の
やかましい病気です
誰だって病名を
よばれたくないものでしょう

顔を光る海のように
平らにして
てかてかの鏡にして
雲や鳥の影が映るのを待って
脂が吹いて
それから
たらたらと
こんなに長い言葉が
症状です

だまります
泣くときだけ
だまります




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正午の鐘

2007年05月03日 11時02分57秒 | 詩の習作
正午の鐘が一つ打たれ
どまんなかの噴水が
誰の指図もなしに
高鳴る広場
すべてが逃げてしまったあとに
なんだか
一つだけ影がつかまっている

あなたが逃げたあとの
あなたと
わたしが逃げたあとの
わたしが
椅子の逃げた椅子に座り
コーヒーの逃げた
コーヒーを飲み干しながら
言葉の逃げた言葉で
お話の逃げたお話をして
ああ、またお話が高速で逃げていく

そうだとしても
(拷問の後のよう)
(よいSEXのあとのよう)
こんなにうつろなのは
何か一つの影がつかまっている
それはあの方?
いいえ、あなたのお父様よ!
などと笑いあう残響の
そのまた残響
また正午の鐘が一つ打たれ
どまんなかには
水のない水が高鳴る

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逃亡者

2007年05月03日 00時46分26秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「逃亡者」


木々の
影の傾きを吟味したあと
おもむろに
イスから立ち上がり
ズボンの裾の埃をはらい
去っていったのは
人ではなく
そのイスだった
つまり
君の座っているイスは
イスからイスが逃げた後の
影のないイスだ
それからそんな机もある
君が手紙を書いている机
机の去ったあとの
机だ
そんな窓がある
そんな窓から見えるのは
鳴いたとしても
飛んだとしても
鳥の脱け殻と
泣いたとしても
食ったとしても
人の逃げた後の
人の脱け殻ばかりだ
逃亡者に君が手紙を
書くのは
どんなものだろう
文字は逃げないのか
インクは逃げないのか
君が逃げたあとに
残された君は
もう逃げないのか
ただ一人
逃げなかった男のために
いつまで手紙を書き続けるのだろうか
君だけが魚のように
捕まってしまったのだろうか

ひたすら苦しむあの男と
地球の裏の太陽と
眼前の白紙と





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船乗りでないのに 

2007年05月03日 00時25分19秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「船乗りでないのに」 


若い頃
女にすっぽかされて
一日中海を見ていたことがある
愛されないとは
こんなことだと
波音にまぎれて
泣くこともできなかった

その夜
酔っ払って
手相を見てもらうと
女占い師は
掌をろくすっぽ見ないかわり
僕の顔をまじまじと見て
海が見える 
船乗りでないのに
と言った

千円払うと
泣いてしまった


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