尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

待つ

2007年05月06日 23時49分37秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集

「待つ」



二度と会えない
ということがどういうこと
であるのか
この犬は
知っている
だから
人間ならばあきらめて
待たないところを
この犬は
待ち続けている

その犬を
抱えることの
歓び

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変わった人

2007年05月06日 23時47分15秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集

「変わった人」


人間が花だとしたら
あなたは
変わった花だなあ
しゃべるなんて

花が人間だとしたら
あなたは
変わった人だなあ
歩くなんて


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希望が言う

2007年05月06日 23時42分03秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「希望が言う」


うちひしがれていると
必ずぞっとするような
おぞましい顔をしながら
したり顔で奴は言うんだ

 お前には希望がないのかい

そういうときは

 そういうお前が
 今、希望をひとつ殺したのだ、悪魔よ

と言ってやれ

希望などなくていい
それが、希望だと
それが、ほんとうの希望だと
それ以外に希望はないと

嘘じゃない、希望がそう言うんだ


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日記

2007年05月06日 23時34分14秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「日記」


高架鉄道の車窓から
映画のように見えていた
夜の街が突然とぎれて
列車ごと川を渡るとき
吊革を持つ僕は
いわれのない淋しさに襲われた
しかし 寂しいのは
僕ではないこと
それは確かだった

誰だろうか
それは
人間だっただろうか
流れる水だったろうか
終点へ延びてゆく
光る線路だったろうか
誰かの日記の
1ページだったろうか

それはもう人間では
ないことは確かであった

確かなことは
その淋しさが保証する
ものたちであった


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野の花

2007年05月06日 23時23分46秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「ノスタルジー」


ノスタルジー

それは可憐な植物たちの
この胸にくすぐったいような
身振りである

忘れてしまった
幾つかの思い出が
野の花になって
風にそよぐとき

草花がわたしたちの
秘密を明かさないことは
良いことだ

ノスタルジー

花のそよぎは
失われた記憶の
帰郷であり
わたしたちのへの
挨拶だ




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2007年05月06日 23時08分34秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「夏」


きらきら光る
あの男の哀しみと
苦しみを
葡萄の房のような
胸の間にぶら下げて
君はサラダのトマトを
ほおばっていた


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世界で一番美しい本

2007年05月06日 22時49分09秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「世界で一番美しい本」


お客はちょっと名のある
デザイナーや建築家たち
詩人もいたな

先生、どうぞご覧ください
これは
世界で一番大きな本
世界で一番美しい本です
という口上で
10㎏もある
オペラ座の写真集を一冊
旅行用のキャリーに入れて
四国や山陰や北陸まで
売って歩いたことがある

旅の疲れのせいだったのだろう
山の中を行く列車の中で
窓の外の
草木の緑が反転して
赤く燃えだし
どこからどこに向かって
走っている
のかわからなくなった

なにもかも
わからないままに
僕は走っているのです
と、もう会えない人に
告白したら
世界で一番美しい本の上で
泣けた

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千本の指

2007年05月06日 22時29分12秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「千本の指」


一本の指が
芯に触れようとしたら
花と
指が同時に
悲鳴を上げた
あわてて引っこめ
思わず
顔を覆ったら
それは
千本の指になっていた

千本の指が
デスマスクを
覆っていた

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痕跡

2007年05月06日 22時20分30秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「痕跡」


ランニングシャツになって
近所を走り回る季節が巡ってくると
僕の腕に疱瘡(ほうそう)の痕がないことが
子供たちの間で話題になる
瞬間があった

痕跡がない
という
痕跡を
あの人は残して
去った

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2007年05月06日 22時16分11秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「夏」


季節の本を拡げ
ページをめくる

夏だ
樹液の匂いだ
結婚だ
ダンスだ
誰と?

死と
永遠と


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コン

2007年05月06日 22時12分13秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「コン」


56年
狐ならぬ
自分にとりつかれ
とりつかれて
アスファルトの陽炎の中を歩み
地下鉄の
地下への階段に
沈んでゆく

コンと鳴いてみる

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あいうえおの旗

2007年05月06日 20時25分55秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「あいうえおの旗」


空に一本
痛い痛いと
旗のはためく
声を上げるのは
血と肉と骨
で出来た僕の
人差し指
ではありません
ましてや空よりも
もっと虚しい生い立ちの
こころ
なんぞではありません
あいうえお
の組み合わせで
偶然出来た
一行

一本、立って
鳴って
鳴っているのです
時の風に
あいうえお、と

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notebook

2007年05月06日 20時20分09秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「notebook」


消しゴムで
消される
訳じゃない
ピストルで
消される
訳じゃない

カスもでないし
音もでない

静かに
きれいに
たやすく
子供は
大人のまぶたで
消されてしまう

だから
君のノートも
僕のノートも
こんなに
白紙なんだ

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あたらしいぞ、この抒情

2007年05月06日 20時17分19秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「あたらしいぞ、この抒情」


車内では
前の席の
全員が
きつい
顔して
メールを打っている
あたらしいぞ
この抒情
きつい
抒情を


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打ち明け話

2007年05月06日 20時10分40秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「打ち明け話」


砂漠に生息する
トカゲの縞模様や
サボテンの突起以上に
人はどんな
個性的で重大な
秘密を持ちうるのだろうか
月や太陽や風に

自然を圧倒した
人の歴史が
秘密を持ち得なかった
人という種の
悲惨さに思える

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