「世界で一番美しい本」
お客はちょっと名のある
デザイナーや建築家たち
詩人もいたな
先生、どうぞご覧ください
これは
世界で一番大きな本
世界で一番美しい本です
という口上で
10㎏もある
オペラ座の写真集を一冊
旅行用のキャリーに入れて
四国や山陰や北陸まで
売って歩いたことがある
旅の疲れのせいだったのだろう
山の中を行く列車の中で
窓の外の
草木の緑が反転して
赤く燃えだし
どこからどこに向かって
走っている
のかわからなくなった
なにもかも
わからないままに
僕は走っているのです
と、もう会えない人に
告白したら
世界で一番美しい本の上で
泣けた