「神様の電話」
雨の降る夜に限って
必ず鳴る
無言電話が幾日かつづいた
雨音のむこうの闇に
見えざるものの息づかいが
メトロノームのように
繰りかえされた
ふくらんだり
消えそうになったり
切なげにも聞こえ
その奇妙な緊張と興奮に
自分の息と神経までが
次第に同調していった
コンクリートの壁が透きとおり
古いフィルムに走る
白と黒の傷のような雨脚が
見えて来そうだった
息苦しくなって
受話器を下ろすと
その夜は
再び掛かってこなかった
迷惑という自分の凡庸な反応よりも
彼あるいは彼女の節度に
デリカシーを感じた
肺活量のあまりなさそうな
小さい胸の後ろには
もしかしたら
羽根がはえている
そんな油断から
ある晩
マサコサンですか?
ときいた
ミチルクンですか?
ときいた
レイコさんですか?
ときいた
沈黙は
それらを聞き流していたが
やっぱり、神様ですか?
ときいた時
雨音が激しくなって
電話線をたどると
必ず行きつくその先で
もう一つの送話器が
そっと
置かれた
神様はもう
電話をしない
雨の降る夜に限って
必ず鳴る
無言電話が幾日かつづいた
雨音のむこうの闇に
見えざるものの息づかいが
メトロノームのように
繰りかえされた
ふくらんだり
消えそうになったり
切なげにも聞こえ
その奇妙な緊張と興奮に
自分の息と神経までが
次第に同調していった
コンクリートの壁が透きとおり
古いフィルムに走る
白と黒の傷のような雨脚が
見えて来そうだった
息苦しくなって
受話器を下ろすと
その夜は
再び掛かってこなかった
迷惑という自分の凡庸な反応よりも
彼あるいは彼女の節度に
デリカシーを感じた
肺活量のあまりなさそうな
小さい胸の後ろには
もしかしたら
羽根がはえている
そんな油断から
ある晩
マサコサンですか?
ときいた
ミチルクンですか?
ときいた
レイコさんですか?
ときいた
沈黙は
それらを聞き流していたが
やっぱり、神様ですか?
ときいた時
雨音が激しくなって
電話線をたどると
必ず行きつくその先で
もう一つの送話器が
そっと
置かれた
神様はもう
電話をしない