尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

白い布を用いた思考実験(新バージョン)

2007年05月25日 00時40分26秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「白い布を用いた思考実験」


一枚の白い布を敷く。大きさは特定しない。あなたの想像しうる限り薄い布(二次元)、しなやかな布、強靭な布である。そこに、ありふれた林檎をひとつ置いてみる。隙間なく布で包む。すると、この世に白い林檎が現象する。

あなたはおもむろに、侍が首をはねる要領で、白い林檎を光速ではねあげる。我々は、幽霊のような蒼い電子の残像を見るであろう。林檎型に射抜かれた真空を見るであろう。それは一瞬の物理学的な真空であり、少なくとも形而上学的な真空である。いわば林檎の「無い」と云うことがその残像おいて「在る」。

林檎の無を見せてくれたあなたは素敵な「奇術師」と呼びうるだろう。

さて次に、この布で私を包んでごらん。現象した白い人を、林檎と同様に素早くはねあげよう。これに成功したあなたは、白い人の無を見せてくれたところの、最高の「魔術師」と呼びうる。僕は、あなたが怖ろしくなってきた。

さらにあなたは、この布を我々の宇宙にすっぽりかぶせ、現象した白宇宙を素早く取り去る。「虚無(なにもない)」と云うことがその蒼い残像において見える。その時あなたは最高の「神」、あるいは最悪の「悪魔」と呼びうる。僕は、神と悪魔が迎合し遂にセックスしているような、あなたが大嫌いだ。

神と悪魔の間でひらひらしている、このありふれた布。これを世間では「言葉」と呼んでいる。そして、この布をやたら見せびらかせ、ひらひらさせるばかりで、世界に何もなしえない人間のことを、「詩人」と呼んでいる。僕は、汗をかき恥をかき、神を出そうとしているあなたが大好きだ。鳩だって出せないくせにね。
       

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