尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

イブの言い分

2007年05月11日 01時47分16秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
さんざん
食い散らしておいて
今さら林檎の種を
まいておこうなんて
手遅れです
アダムよ 
終わったのです

愛が残っているなら
それは愛に返して
二人は空のように
からっぽになりましょう

わたしのアダムよ
林檎はね
食べなかった
ことにしましょう

あの方には 
蛇が一人で食べたと
言いなさい

私はもう
あなたの名前も忘れました
さあ出発です



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言の葉

2007年05月11日 01時44分11秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「言の葉」


それはいつもあなたの
ねえ、聞いてよ
から始まりました

月のない夜には
三角の口先で
緑の葉をクチュクチュ
噛み砕き 
飲み込んでは
甘い露を分泌し
僕の手を糸巻きにして
銀の糸を紡がせたのです

ツーと 
ツル ツーと 
ひっぱり ひっぱるとき
あなたの濡れた糸は
露呈した過敏の神経線維
あなたの顔は
ふくれあがった玉子
の表面ように美しく
魚がかかった
釣り糸のようにひくひく引いて
それは一晩中続く
二人の秘密でもありましたが
たいてい夜明けには
僕はあなたの作った
言葉の繭のなかで
魂の抜けた仮死でしたね

鏡台で化粧を終えたあなたは
横目でベッドにくたばっている僕を
ちらり見てから窓を開け
意気揚々と飛び立ったのです



  (2003.6・5)




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白い目

2007年05月11日 01時41分04秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「白い目」


少女は言った
あなたは正しいのよ
間違ったのは私よ
間違って 
あなたではなく
彼を選んだのよ

勝ち誇った白い目で
そう言い放つと
踵を返し
彼女は永遠の中を
小さくなっていった


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弱い人

2007年05月11日 01時36分36秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「弱い人」


朝一番
強い人が普通の人を
いじめる
誰も止めない
強いから

正午
普通の人が
弱い人を捜して
いじめる

夕方
弱い人が
もっとも弱い人を見つけて
いじめる

深夜
もっとも弱い人は
自分をいじめる
誰も止めない
他に誰もいないから

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少年

2007年05月11日 01時29分37秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「少年」


泣いているときは
笑っているようにしか見えない

笑っているときは
泣いているようにしか見えない


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青年

2007年05月11日 01時24分44秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「青年」


落ちたので
この世の深さを知った

飛びこせなかったので
この世の高さを知った

どこにも到着しなかったので
この世の果てしなさを知った

愛したので
愛されなかった

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どまんなか

2007年05月11日 01時21分39秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「どまんなか」


知らんかった
知らんかった
雑木林は
蝉の鳴き声で
うるさいばかりと
思っていたら
そのどまんなかに立つと
そこだけが
無音で
怖ろしくなった


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設計者

2007年05月11日 01時19分26秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「 詩の習作 」


設計者は誰だろう
年を経るごと
ますます
自分の重量に
耐え難くなる
地上170センチメートルの
建築物の設計者は

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夏のおわり

2007年05月11日 01時17分11秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「夏のおわり」


雲の影が
山脈を越えて
都市を渡り
海へ流れていく

湿った風が
あなたの
耳の後ろで聞くだろう
わたしのこともう
思い出さないの?

雷が鳴って
雹(ひょう)が降っても
夏はおわらない

思い出さないよ

あなたは
嘘をついて
夏はほんとうに
おわりです


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翻訳

2007年05月11日 01時10分41秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「翻訳」


久しぶりに
街に出てみると
人々の間から
聞こえてくる
言葉の列が
虫の鳴き声のようで
翻訳できない

この温かさと
寂しさと
赤ん坊の頃
母の背中で聞いていた
響きも
こんな風だった
翻訳は要らない


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まく

2007年05月11日 01時08分38秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「まく」


一生をかけて
人も動物も糞尿をまいていますが
渦巻き星雲が星をばらまくことも
太陽が水星や地球や金星をまいたことも
地球が月を一個だけまいたことも
タンポポが風に綿毛をまこことも
僕がくだをまくことも
農夫が種をまくことも
火山が溶岩をまくことも
酒飲みがプラットホームにゲロをまくことも
みんな一人がやっていることです


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男よ

2007年05月11日 01時05分44秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「男よ」


男よ
まるっちい女の尻を
いきなり
なぜることもなく
髪を白くして
退場してゆく男よ

お前の一生を
獣から遠ざけたもの
それは家畜の弱さだったのか
それとも
尊い憧れだったのか
乳の匂いのする
女と世界に

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ひはまたのぼり

2007年05月11日 01時01分56秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「ひはまたのぼり」


ひはまたのぼり

きょうというひのあさ
きのくるったアダムと
かんがえのないイブと
けだものがふたり
おっとろしい おにのこのくびをしめ
はいいろのきのうへながれていくかわにながし

トンムリコ
トムプ トムプ

それから
あかねいろの あしたのほうから
ながれくる かみさまのあかごを
とりあげました

ふたりわらいながら なきながら
うたいながら さけびながら
むつみあいながら ころしあいながら
きょうといういちにちをかけ
ようやくりっぱなつのある
おにのこ一匹に
そだてあげたました

ひはまたしずみ
こをまんなかにかわのじにねて
するどいつの一本を
かわるがわるあいぶしながら
めだまろっこきらきら
やみのかわを
みあげていました

トンムリコ
トムプトムプ



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記憶

2007年05月11日 01時00分13秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「記憶」


予感というものは
存在しない
すべては記憶である

石は石の記憶で
坂道を転がりはじめ
花は花の記憶で
蕾を開き
鳥は鳥の記憶で
遠くをめざす
僕は僕の記憶で
あたたと出会った

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信号

2007年05月11日 00時54分00秒 | 詩集「カメラオブスキュラ」候補集
「信号」


永遠の彼方から吹いてきた風よ
あなただけは
いつまでも僕らの間を
吹いていてください

風は答える
わたしだって
いつまでも
そよいでいることは叶いません
ただ
いつまでもの方向へ
そよいでいくのです

信号は青
人々は夢からさめて
熱風と騒音を再び歩き始めた
もちろん
いつまでも
ではなく
いつまでもの方向へ



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