しずくな日記

書きたいなあと思ったときにぽつぽつと、しずくのように書いてます。

風の又三郎の記憶

2011-11-22 21:51:55 | 日記

どっどど どどうど どどうど どどう
青いくるみも吹きとばせ
すっぱいかりんも吹きとばせ
どっどど どどうど どどうど どどう・・・・


宮澤賢治の『風の又三郎』の冒頭です。寒くなると、必ず思い出します。

この詩に節がついているのを聴いたことがあるのですが、とても寂しげ。

でも、たまに口ずさみたくなります。



中学・高校の時の記憶はあいまいなのに、小学生のときの記憶は割合あります。

電車の中で思い出しました。小学生の時、私は『又三郎』に出会いました。そんな話を書き留めておきます。ちょっと真面目に。



小学生の時、町内のはずれに、平屋の薄暗い一軒家がありました。低学年の時にそこに引っ越してきた子がいました。

いまどき、青鼻垂らした子っていないけど、その男の子は確実に垂らしていた記憶があります。

登校班もクラスも同じだったので、いつしか一緒に遊ぶようになりました。

小学校低学年の頃なんて、まだ人間のていをなしてなくて精霊のような私たち、男の子も女の子も関係ありません。

登校班の子たちで、学校から帰ってくると急いでランドセルを置いて、公園に集まって鬼ごっこやSケンをしました。

それぞれの家によく遊びに行ったのですが、その子の家にだけは遊びに行った記憶がありません。

家の中がいつも薄暗く、玄関から見える家の内側はなんだか不気味でした。今だからわかるのですが、この子の家は貧しかったようでした。


ある日、みんなでいつものように公園で遊んでいたら、空に虹がかかっていることに誰かが気付きました。

「虹!きれい~!!」 

なんとなく描きとめておきたくなって、私は家まで走ってクレヨンとノートを持ってきて、急いで虹を描きました。

その男の子は私のノートを覗き込むと、「色の順番違うで。でもきれいじゃなー。」と言いました。


確かその日が、その子を見た最後だったと思います。突然、その子とその家族はいなくなってしまいました。家はそのまま。いわゆる夜逃げ。

安普請のその家が、北風の中で人気なく、より薄暗く、より一層不気味に見えました。



今生きていれば、その子は私と同い年。でもなんとなくですが、生きている気がしないのです。

あの子は『風の又三郎』だったんだ、と思うことにしました。




私の出会った『風の又三郎』の記憶です。寒い日に、ふと思い出します。