平成25(2013)年4月28日、天皇、皇后両陛下ご臨席の下、サンフランシスコ講和条約
発効から61年を迎えたことに合わせた政府主催の「主権回復・国際社会復帰を記念する
式典」が開かれた。
式典が終わり、両陛下のご退席が告げられた際、会場から自然発生的に 「 天皇陛下万歳 」の
声があがり、安倍晋三首相ら出席者一同が唱和する一幕があった。
「 天皇陛下万歳 」 の意味
式次第になかった万歳は、天皇と国民のつながりを示したものといえる。
だが、与党の一部から疑問の声が出た。
国会答弁などで政府は、日本は立憲君主国であり、天皇は元首であると表明している。
それでも、憲法に明文規定がないため 「 天皇観 」 をめぐり混乱があるのも事実だ。
「 天皇が元首かどうかは、要するに元首の定義いかんの問題で・・・・・
今日では、実質的な国家統治の大権を持たなくても、国家のヘッドの地位にある者を
元首とする見解も有力で、この定義ならば、天皇は現憲法下でも元首と言って差しつかえない 」
( 昭和48年6月28日 参議院内閣委員会、吉国一郎内閣法制局長官 )
政府見解は 憲法に 「 元首 」 との明記がなくとも、元首であることは明らかという立場だ。
世界の多くの国も 「 天皇 」 を日本国を代表する 「 元首 」 とみている。だが、国内では依然として
「 天皇は形式的・儀礼的な行事を行う象徴にすぎず元首ではない 」 という見解が一方にある。
公明党の山口那津男(なつお)代表は 主権回復式典後、万歳について、記者団に
「 日本国憲法に 国民主権がはっきり規定されている中で、独立が認められた日だ。
その意義を踏まえた行動だったかが問われる 」 と語った。山口氏自身は万歳に唱和したのだが、
疑念を示した形だ。自民党幹部の一人も 「 日本国万歳でよかった 」 と語った。
これに対し、皇室問題に詳しい新田均皇學館大学教授は、「 日本の国柄とは何かを
よく分かっていないから、万歳に対しておかしなことを言うのだろう 」 と語る。
新田氏は 「『 天皇陛下万歳 』 は個人崇拝ではない。日本国と国民の統合を
歴史的に象徴する天皇という存在を通して、日本の永遠の安泰を祈念するものだ 」 と説明する。
式典のご臨席をめぐっても、共産党などが沖縄問題を取り上げつつ 「 政治利用 」 だと批判した。
しかし、主権回復がなければ 沖縄返還交渉もなかった。国の主権回復を祝う式典に、
象徴という重い地位にある天皇陛下が出席されなければ、かえっておかしいことになる。
現憲法下で、天皇と国民を対立的に捉えようとする言説が存在してきた。
天皇は名称自体が君主を意味する。 ・・・・・
< 国民とともにある > 常識に立ち返った 「 天皇観 」 が望まれている。
『 国民の憲法 』 59~62頁 産経新聞社