本書は、お茶の水女子大学で 十数年にわたり続いてきた、藤原教授の 「 読書ゼミ 」を
収録したものである。各回の講義を 繰り返し読んでいると、とても味わい深いものがある。
取り上げられている作品は、明治から昭和前期までに書かれた11冊の「 名著 」 である。
最終章として、平成21年3月14日、お茶の水女子大学で行われた最終講義が収められている。
著者は、「 はじめに 」 において、次のように述べている。
< この授業を通じて私は、生まれて十八、九年間、ありとあらゆる偏見で
もみくちゃになった学生達に、主に明治期の偉人を通し、日本人としての生き方や
考え方に触れさせたいと思った。
日本人の原点に いささかでも触れると同時に、 「 時代の常識 」 からいったん退き
自分自身の頭で考えるという習慣をつけて欲しいと思った。
これまで受験勉強に追われて本をあまり読んでいない学生達に、
読書の愉(たの)しみを知ってもらえれば尚更(なおさら) 良いと願っていた。
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昔の人は 無知蒙昧(もうまい)、自分達 現代人が当然ながら歴史上一番偉い、と
信じていた学生達の多くが、江戸や明治の人々は人間として自分達よりはるかに上だった、
もしかしたら自分達は 史上最低かも知れない、とまで思うようになるのである。
偉大なる先人への尊敬ばかりではなく、名もなき庶民にまで親しみを感じ
敬意を抱くようになる。そして何より、そのような人々が生きた、
築いてきた この国に対して、誇りを感ずるようになるのである。
日本は恥ずかしい歴史を持った国、というこびりついた観念が
このゼミを通して霧消(むしょう)して行くのを見るのは私の喜びだった。>
< 読み込まれた文庫本を片手に、感想を交わす女子学生たち ― 。
お茶の水女子大学の名物授業、藤原正彦教授の 「 読書ゼミ 」 始業前の光景だ。
毎週一冊、日本の名著を読んでレポートを提出し、討論を重ねて十年あまり続いてきた。
聴講資格は 「 毎週文庫一冊を読む根性、毎週一冊文庫を買う財力 」 。
「 読書こそ人間の基礎 」 と考える藤原教授が、専攻にかかわらず抽選で
選ばれた一年生二十人と、時に激論、時に人生相談、時に脱線し爆笑しながらの白熱授業。
さあ、いよいよ開講である。>
< なお本書は、「 文藝春秋 」 誌の二十代末の女性編集者 幸脇啓子氏が、
ジーンズをはくなど十歳ほど若づくりをしてゼミに潜入し、録音テープを
回したものに基づいて作られた。
「 お肌の張りの差に愕然(がくぜん) 」 とぼやきながらも熱心に実況中継して
くれた幸脇啓子氏、そして何より、ゼミに若い力をぶつけてくれた学生達に感謝したい。>
目 次
第一回 新渡戸稲造 『 武士道 』 [ 明治三十二年 ] 11
第二回 内村鑑三 『 余は如何にして基督信徒となりし乎 』[ 明治二十八年 ] 34
第三回 福沢諭吉 『 学問のすゝめ 』 [ 明治五年 ] 57
第四回 日本戦没学生記念会編 『 新版 きけわだつみのこえ 』[ 昭和二十四年 ] 80
第五回 渡辺京二 『 逝きし世の面影 』 [ 平成十年 ] 103
第六回 山川菊栄 『 武家の女性 』 [ 昭和十八年 ] 126
第七回 内村鑑三 『 代表的日本人 』 [ 明治二十七年 ] 149
第八回 無着成恭編『 山びこ学校 』[ 昭和二十六年 ] 173
第九回 宮本常一 『 忘れられた日本人 』 [ 昭和三十五年 ] 198
第十回 キャサリン・サンソム 『 東京に暮す 』 [ 昭和十二年 ] 221
第十一回 福沢諭吉 『 福翁自伝 』 [ 明治三十二年 ] 244
最終講義 藤原正彦『 若き数学者のアメリカ 』 から 『 孤愁 』 へ 265
※『 逝きし世の面影 』は 平凡社ライブラリー 、他は 岩波文庫(青帯)である。