小林真 ブログ―カロンタンのいない部屋から since 2006

2006年開設の雑記ブログを2022年1月に市議当選でタイトル更新しました。カロンタンは40歳の時に飼い始めたねこです

「ところてんの春」~"The Saxophone Song"

2008-05-04 22:51:23 | 週間日記
トップは当該週3月22日のティー


なんと、すでに週間日記は史上最長1ヵ月半の遅れ。こうやってずいぶん前のことを書くことにどういう意味があるのだろうと思いつつ記録用なので続けてますので、最近のこととデュアルタイムになります。

●3月
17日(月)夕方、恒例電話取材
18日(火)夕方、OB・Y君来~晩は同級生M君宅に
19日(水)推定37年ぶりの虫歯歯医者~出張授業~(多分)長崎ちゃんめん
20日(木)ずっと仕事。晩に煮ぼうと作成。そろそろ最後か
21日(金)仕事の隙をついて朝から高崎行き。シネマテークでマリアンヌ・フェイスフル主演『やわらかい手』~途中、精華軒でラーメン~またシネマテークに戻り川島+若尾『女は二度生まれる』は一度録画で見たがやっぱりよかった~おやつは、すかや本店でもりそば~1年前に行った古本屋で増村+若尾の名作『華岡青洲の妻』の有吉佐和子原作を見つけたので購入~帰路、気になっていた群馬の森というところ、国道沿い謎の中国物産店を偵察~晩は塾に行き、M君の母上で同級生HさんのPCを預かる
22日(土)危険物取扱の試験を受けるので物理化学の計算をおしえてくれとOB・HT君、その同級生で競馬ファンのTT君が来。いろいろ近況もきく
23日(日)昼は急遽いろいろ発表会の撮影で本庄へ~帰りは麺や一発という店で塩ラーメン

【カウンター08】
ラーメン3/19 他外食1/12 アウェイ飲み1/13 劇場映画2/10 TV海外サッカーは後で整理

このごろ、毎日、ところてん。
ところてんが、しゃわ・しゅぱーと放たれるように次から次へと仕事が来る、と思ってから、あれ、でも「ところてん式」というのはちょっと違うような気もするなと goo で三省堂「大辞林第二版」を引くと、「ところてんを突き出すように、あとから押されて進むこと。何の苦労もしないで、押されるままに進んだり、物事を終えたりすること」とある。そうか、押されるままではあるけれど、苦労がないわけではないので、では、食べても食べても出てくる「わんこそば式」というべきかな。いずれにしてもフリーランスの身にはありがたいが、ちょっと仕事は容量オーバー気味だ。

そんな日々に実は、ところてんそのもので対抗している。
この間、10年ぶりにくらいに会ったOBで某エンターテインメント界で働くK君が goo ブログに寄せてくれたコメントによれば私は、「椎名誠の私小説に登場する、背が高く、長い手足をヒラヒラさせている沢野ひとしに似ていると思うけど…」らしいが、そのイラストレーター沢野ひとしの著作に『ところてんの夏』というのがあるという。この本は知らなかったが、このタイトルにならえば私の08年春は、後に「ところてんの春」として思い出されるに違いない。
きっかけとして考えられるのは、築地事務所で働く上州出身の若手デザイナーM君がいった、「群馬のほうって、焼きまんじゅうとところてん売ってる店ってのが、なんか多いんですよね」。坂東太郎・利根川をはさんですぐだから焼きまんじゅうは昔なら車で売りに来ていたくらいでなじみ深いが、ところてんが焼きまんじゅうと並ぶほどとは知らなんだ。
と思いつつ数日後、普段の買い物の時、久しぶり二個入りところてんを買って食べるとこれが実に今の気分や体調にしっくり。それからしばらくところてんの日々をやり過ごすため、頼りないとはいえ強力な助っ人としてところてんに毎度登場願っている。

ところてんの美点は少なくない。まずあげられるのは、どのところてんもそれほど変わらないというところだろう。
たとえば同じようにふにゃふにゃした豆腐ともなると、一丁三〇円未満から数百円のものまで幅広く、しかも味にもかなりのばらつきがある。同じ一〇〇円でも、これは五〇円くらいでちょうどいいだろとか、もしその値段なら買わないが、これなら二五〇円でもいいだろうとか思うことは多いし、何といっても特に木綿豆腐なんかはパッケージの外から見ただけで、これは買っちゃいけねえ豆腐だろうとか、いってみればボードリヤールが提唱した「シミュラークル」の世で市場原理を推進させるための差別化を、思う存分味わえるのが豆腐という商品なのだ。
しかしところてんともなるとそうはいかない。パッケージレベルで見ると、やつら一応、「秩父の清流で…」「からだにやさしい黒酢入り」などと自らの素性、特性を主張しているものの、そんなこといったってどうせ内容にたいした変わりはないから、高校の最初の授業で「秩父市立○○中学出身で……」などという生徒の自己紹介を聞く高校の世界史担当ラグビー部顧問のH先生のように、「そうか、君は秩父の水で育ったんだな、黒酢入りとはいじゃないか、さあ、次の君」などという程度にきいていれば十分。実際のところどれを買っても、これちょっと細いかな、でもあんまり変わんないからいいやくらいで、気に入ることもなければこれはだめだということもない。
この点について前出上州のM君らに話していたら、若い女性編集者が「ええ、でも、前に伊豆で食べたのはすごくおいしかったですよ」というので、へえ、そんなことも。何でも名産のわさびの水がどうのといっていたが、詳しいことはよくわからず。ほかよりおいしいところてんについては、今後の研究課題としてとっておこう。
ともあれ、この高度に発達した市場原理主義の中、これだけどれを買っても変わらない商品は、マーケットの暴力にさらされる現代人に奇妙な安堵感を与える。

さて、次のテーマは食べるタイミングだ。
別にいくら食ってもいいのだろうが、なぜか小学校の頃夏休みに買った肝油ドロップのように一日一パックと律儀なルールを決めているので、いつ食べるかは意外に重要なのだ。
最初は午後五時くらいが王道と思っていたが、意外に仕事が長引いた夜中というのが趣きがある。そういう時にはだいたいばてているので、酢の香りと辛子の刺激がありがたい。
そういえば、私はところてんを食べる時は、これは別に醤油と酢でいいと思うが、ほかに使いみちもないし、納豆のたれみたいにやり過ぎの感じもないので今はどれも付属になっているたれと、ねりからし、そして青海苔だ。実はこのねりからしのところで、今までに「えっ、七味じゃねえか」っていう人が何人かいたが、彼らは1980年より前に駄菓子屋で食べたという点が共通しており、これらから推測すると、きっと1970年のS&Bが嚆矢となったチューブ入りねりからしの登場が関係しているのではないかとにらんでいる。つまり歴史的事実から考察して、その頃まで駄菓子屋でねりからしを使うのは難しかったので七味で代用していた、と考えるのだがいかがなものだろうか。ここは一つ、専門家の意見を待ちたい。

ところで、一般的なパックところてんを食べるとなると、その手順についても少々考えねばなるまい。
まず水を出すが、これは多くの人が手で開けられれば手で、開きにくかったら包丁の根本で二つの穴を穿ち、とろとろと出していると想像する。この穴の按配がなかなか難しい。大き過ぎるとうっかり数本のところてんが流れ出して心理的に大きなダメージを受けるし、小さ過ぎるといつまでもとろとろ水が出るのを待っていなければならず、何やってんだということになる。
なお、昔はこの水は何か特別なんだろうか、一度味わってみたいと思いつつ、でもそれは豆腐の水を飲むのと同じくらいに犯すべからざる禁忌だったのだが、これは一生で最大の「ところてんの春」記念だから、ダニエル・シュミットの『今宵かぎりは…』のように日常とは違ったルールに支配されるのだろうと勝手に解釈してついにその透明な液体を一口含んでみた。うげ、味がない。そうだった、ここはスイスの古城ではない。

そんなある日、一気に水気を切る大胆な作戦を発案した。これは米を研ぐのに手持ちのざるを使う姉がヒントなのだが、小さな穴なんか開けてないでバッとざるに明ければ瞬時に、しかも水分のほとんどが切れるのではないだろうか。しかも、透明なところてんを濃色の器に盛れば、新和風料理の一皿のようで美的にも優れているではないか。
このアイディアに私は興奮したが、実際にやってみるとその作業の味気のなさに幻滅した。そうか、ああいうちょろちょろした作業もまたところてんの一部なのだな。やっぱりところてんは、おしゃれなんてめざしちゃいけない。

そんなこんなでところてん日々が続き、よく行くベルクにもなんというのかところてんのかたまりが売っているのに気がついた。そうだ、そろそろパックから、かたまりで買って押してつくるべきではないか。
そう思ってまずは検索すると、安いのはアマゾンで600円から、しかしこれは木製でないのがいまいちで、楽天などには刃にピアノ線を使っているというのまである。むう、しかしここはネットショッピングにばかり頼らず、まずは自分の目で見て買うべきでないかと、仕事が一段楽した四月二九日昭和の日、ホームセンターへと向かった。

しかし、まず入口で花だのピーマンだのの苗に心奪われ、うっかり手に取るがこれではところてんマシンが買いに行けない。外の小屋にいたホームセンターが似合う健康的なバイト少女に、中を見てきますのでここに置いておきます、中でところてんマシンを探すがなんと「押すゾウ」とかなんとかいうのが1500円もする。これではところてんが一五個も食えるとあわてて引き返し、その代わりにローズマリーやなんかが一つ98円のところ五つで398円だったのでどしどし、ついでにこの間、父親が植えていたがリスクヘッジのためのキュウリ、ナスほか野菜の種に三割引の花の球根と、つい千円以上も買ってしまった。
これもまたところてん効果といえよう。

さて、ところてんの四月ももう終る三〇日。ところてんで精一杯でろくにニュースも見なかったら、ガソリンが五月から値上げという。もっと先かと思ってたのに、道理で二九日のスタンドが車であふれてたわけだ。
三〇日は出張授業で、これからおれもガソリン入れてこなきゃと中3生にいって夜の仕事のための腹ごしらえもあって熊谷方面に出発する。最初のスタンド、バイパス沿いは121円で車が数珠繋ぎ、次の407号沿いも鈴なりで、こっちは108円と書いていった。よし待った甲斐があったぜ、あの108円で入れれば大金持ちだ、なことはないが半分近く残ったタンクを一杯にする店を決める。それにしても、世の中にこんなに車があったのかと思うくらいみんながスタンドに押し寄せているようだ。給油機の前に吸い込まれていく車の群れも、なんだかところてんに似ている。「何の苦労もしないで、押されるままに進んだり、物事を終えたり」。

三浦雅士で待って味噌ラーメンを食べて値上げ前の22時に108円へゴー。なんとみんなぎりぎりだと心配なのか、前には一台しか車がない。セルフだと思ってたら店員のあんちゃんが来て、109円の何とかコースと109円のスマイルコースどちらですか、というので安い方、スマイルですか、はい、わかりました、店員はところてんのふたに穴を開けるように給油口にでかい銃の先のようなのを入れる。

あぁーりがとぅ、ござぃましたっ! ところてん押しあんちゃんに見送られて407号へ。それから高校時代に自転車で通った道を抜けてバイパスに出る。角の121円はまだまだ鉄のところてんだらけだ。
信号を抜けて、久しぶりに腹いっぱいになった愛車のアクセルを踏む混んだ時きこえてきたのは、ケイト・ブッシュデビュー盤の一曲 "The Saxophone Song"。五年くらい前、最初にCD-Rドライブを入手した時に何枚かつくった編集盤の一つでピアノが印象的な曲を集め、"piano speaks" と題したCDがひょんなところから出てきたのできいていたのだ。
この道はできていなかったけど同じ場所を自転車で走っていた高校の頃、SONYのDUADに録音したこのアルバムは部屋を暗くして数え切れないくらいきいた。オープニング "Moving" のエンディングに狂おしい動物;さっき知ったがクジラらしい:の重く声が重なり、透き通った空を思わせるアルペジオが駆けるように流れる。そして、"Tuning in...on your saxophone..." とケイトが声を張り上げるやいなや叫びをあげるサキソフォン……

何度も繰り返しきいたサウンドが炸裂したその瞬間、思い浮かんだのは真っ黒い春の空いっぱいに広がったところてんである。
ずっとところてんマシンと呼んできたものが、実は「天突き」というらしいことも今回の調査の中で知った。一夜でガソリンの値段が25円も変わってしまい、その前にみんながガソリンスタンドのところてんになる。そんな不思議な「天を突く」とは、何ともすばらしいネーミングじゃないか。
もし人々がそれぞれの手に「天突き」を構えてところてんを天に向かって撃ち上げれば……

夜空に舞うところてんなら月と闇の間できらぴろと光って、昼間の青空に跳ぶところてんならつるきゅんと輝いて、それはきっとガソリンスタンドのところてんよりずっと気のきいた光景だろう。そんな空から落ちてくる光り物を醤油と酢、からしと青のりを用意して待っているのは、どんなにわくわくするだろう。
そんなことを思いながら、"The Saxophone Song"を四回リピートすると家に着き、ラーメンのデザートして天からでなく冷蔵から出したところてんを食べて、次の日の仕事に備えて文章を打ったりプリントしてFAXしたりしたら五月一日が来た。
ところてんの春ももう少しで、次はきっとところてんの夏。

(最後まで読んでいただいた方がいましたらありがとうございます。BGMはケイト・ブッシュ、デビュー版見つからず、なんかところてん感覚のデヴェンドラ・バンハート smokey rolls down thunder can you)

※"The Saxophone Song" は http://jp.youtube.com/watch?v=fexNR7nxk8s&feature=related
スタジオ版とはけっこう違うが、これは有名なライブ版。
http://jp.youtube.com/watch?v=Ax972P3T4ow

※S&B「ねりからし」は
http://www.sbfoods.co.jp/press/text/2007/0701kapumax.htm

===まずは当該週画像

枯草ベッドでタンゲゲンタ 3月17日


ピラミッド ひひんひひんと 彼岸雲 3月21日


3月22日


同じく3月22日


===ここから最近

ところてんマシンの代役


裏のスター


前のスター


スターに集まる輩
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする