風の生まれる場所

海藍のような言ノ葉の世界

空や雲や海や星や月や風との語らいを
言葉へ置き換えていけたら・・・

10人の祖父

2011年10月30日 19時49分30秒 | エッセイ、随筆、小説


他の文化を、生活を、価値観を冒涜するような…
と、少し声を荒げた祖父が現れた。
久しぶりの再会。
えっと、いつ振りだろう…とぶつぶつ呟きながら考える。
脳の、前頭葉から小脳、海馬にかけたあたりに電気がビリビリと走り、
身体中の熱が一点に凝縮され、そこがじくじくと膿んでいくような感覚。
すると、記憶の襞から瞬時に情報がかき集められる。


1年3ヶ月振り。
わたしが声に出す前に祖父が言う。
おまえさんがうーうーと唸って、痛みでのたうち回りながら、じじ、じじとうるさく叫ぶもんだから、
わしは旅から引き戻されて、おまえさんに会いに来る始末。
まっ、今回はわしの方が話を聞いて欲しいんだがな。
と、軍服を身に纏う祖父は歳の頃、24.5歳といったところだろうか。
当時は太平洋戦争真っ只中で、
祖父の青春は日本という国や時代に奪われていた。
自由な行動はもとより、自由な言論や思想などは許されるはずもなく、
ひたすら祖国のため、神と崇めた天皇のために命を散らすことだけが使命とされた。

不謹慎とは知りつつ、どれだけのいい男が犠牲になったのかと想像を馳せた。
アルバムに収められたボロい写真ではわからなかったが、
目前にいる祖父は背も高く、身体もしっかりして丈夫そうだ。
力強い眼差し、低く掠れた声、浅黒く日に焼けた肌がセクシーでたまらない。
身内がいうのもおかしいが、なかなかの色男だ。

おまえさんは自由なのか?
祖父はわたしの顔を覗き込みながら、どうなんだ?と訊ねる。
昭和の、あの戦争のニオイが鼻先を占領する。
なにかが燃えるニオイ、
錆び付いた金属のニオイ、
濃い土や草のニオイ、
血のニオイ、
死んだ人間のニオイ、
祖父はわたしの細胞の中で生きている。
そして、わたしの意識とリンクして、時空を超えて奇妙な問いかけをしに来る。
わたしを困らせたいわけではなく、わたしに考えることを放棄させないために。

日本人に右肩上がりの豊かさや総中流意識を植え付けた高度経済成長、
狂乱のバブル経済、奈落への扉を開けた経済崩壊を経験したとはいっても、
わたしたちが自由であり、
自由な言論が約束されているとはわたしが思えないのはなぜだろうか、と考え込んでしまった。
祖父が身体を揺らすたびに、腰に吊るされた銃剣は不気味な金属音を鳴らして
わたしたちの身近には決してないニオイや音から
覚醒の後押しをさせるような、不思議な気持ちのままどれだけの時間が経過したのだろう。

24.5歳だったはずの祖父は、いつの間にか今世のお別れをした年老いた姿に変身していた。
また視線を窓外に移した間に、出兵前だろうか、
まだ幼さ残るあどけない年頃の祖父が、わんわんと声をあげて泣いている。

見えない戦争の中で生きるおまえさんに申し伝えたいことがある。
おまえさんは自由か、幸せか。
都合よく作り出される価値観や常識といったまやかしに、騙されちゃいかん。
わけあって馬鹿になったおまえさんだからこそ、
おまえさんにしかわからないこと、おまえさんにしか見えない世界を
わかりやすく世の中に伝えていく必要がある。


祖父はまた旅に戻ったのだろう。
昭和のニオイが薄れ、何気ない日常が目前に広がっている。
ダージリンの深い香り、深呼吸をひとつ、ふたつ。


透視と物語を発現する力

2011年10月30日 06時57分29秒 | エッセイ、随筆、小説


選ばれてしまったのよ。
あなたは天からの御使い者だから。
ビジネスをやっていくことはもちろん出来るのだけれど、
引もどされるわよ?
あなたが本来、やるべき使命の道に戻されてしまう。
今までもそうだったはずよね?
なぜならば、あなたは先駆者であり、
道を作り、道を正し、啓蒙することこそが使命だから。
そのような人生だと自覚なさっているし、納得されているはずよね?

忘れていた記憶が蘇る。
虹色の色彩の中で見え隠れするわたしの大切な人たちの姿。
雲の合間からもうひとつの世界が広がっていて、
わたしはその扉の向こう側へ出入りできる自由を得ていることを
ふと思い出す。
だから護られている。
その引き換えとして、普通の人生を歩めないという約束のもとに生まれてきた背景を、
記憶の襞は眠っていた細胞をまるで呼び覚ますかのように、
わたしの心身に、血に、骨に、肉に自覚を植え付けていく。
七色の色彩の中で見え隠れする大切な人たちは、
この世の人たちではない。
わたしは虹を見つけるたび、
眩い光の中で走り回るとき、
消炭色の闇の中に浮かぶ金色の月をぼんやりと眺めるとき、
あるときは夢の中で、大切な人たちと語り合う。
わたしが泣いたり、わたしが笑ったり、わたしのあらゆる感情を受け止め、
引き受け、受容し、ときに抱きしめて包み込む優しい人たち。

透視のできるある中小企業診断士の先生から、
わたしのアイデア、起業プランを伝えると、
そもそもあなたはこの世には生きていない人なのよ、と言われた。
もしなにか…というなら、ハーブに関係すること、
あなた、確か漢方にお強いわよね?と続き、わたしは頭をこくりと下げる。
いままでの経験をハーブや漢方を使って人の役に立つ道こそが
あなたの物語を発現する力になる。

封印していた透視力を見透かされたような気分に包まれたまま、
わたしの歩むべき道に引き戻されてしまう運命を、
人生を想う。