そこなうこと。災い。悪い結果や影響をもたらすこと。
辞書を引くと、そこにはこう書かれていた。
最近、新聞の求人欄にはこぞって「障害者募集記事」が目に付く。
でも、「障害者」ではなく、「障がい者」として、わざと「害」をひらがなにしているのが
マリにはどうしても表面的な気遣いで、その裏にはいらやしさを感じてしまうのだ。
「ねぇ、別にいいんじゃない?」
そこへのこだわりがいまいちよくわからないマリは、同じ障害(障がいなのだろうが)を抱える沙織に
障害者手帳の申請を勧めながら、
「身体ではなく精神障害の位置づけだから?」と再度質問することにした。
沙織は、
「社会復帰する際、どうしても『障害者という履歴』が残るのが困るのよ」と言った。
「それこそ差別じゃない?」
マリは定期入れにしている障害者手帳の緑色の小さなファイルを
ポケットから出し入れする自分を思い浮かべた。
「確かにね、バス待ちのときとか、私の定期をみて、
緑色の障害者手帳ファイルに気付いた年配者たちが私のすぐそばで、
こそこそなにか話をしていたことはあったけど、別段、気にしなきゃいいんじゃないの?」
でも、ポケットから“それ”を出し入れするときは、ゆったりとした動きではなくスピードはあがる。
「私も自分を差別しているってことかな?」
それとも恥ずかしいと思っている表れかな?と心の中で思ったが、あえて言葉にはマリはしなかった。