風の生まれる場所

海藍のような言ノ葉の世界

空や雲や海や星や月や風との語らいを
言葉へ置き換えていけたら・・・

灯火の存在

2011年12月31日 10時10分48秒 | エッセイ、随筆、小説



わたしはひとを好きになってもいいのでしょうか。
ふともたげた自問に、
途方に暮れゆく道をどうも歩き始めてしまったようなのです。

その道の先には人影が見えました。
じっと、しばらく眺めていると、歩き方の癖、
右側をかばうようなわずかな傾きがたり、
その人がわたしの大切な人であると気付きました。

わたしの大切な人には身体の一部がありません。
心が欠けているわけではないので、わたしはさして苦にしませんでした。
安易に捉えてきたわけではありませんが、
そこに踏み込むことをせず、今日まで生きてきました。
わたしたちはお互いを尊重し、大切にし、愛し合ってきたからです。

わたしが切なさを覚えたのは、その声を聴いたある朝からです。
その日、いつものように他愛ない会話を交わし、
いつもの、なにも変哲もない一日がはじまるはずでした。
あなたはモチーフというフレーズを話題にあげ、
セザンヌが愛した言葉であることを添えました。
モチーフを軽く説明書きし、
その言葉がなぜか浮かんできたのかをわたしに告白したのです。
それはすこしでも手に力を入れると粉々になるような、
それを持続することの困難さ。
そこであなたからのメッセージは一旦途切れるのです。

わたしはシャングリラホテル ロビー階に到着したばかりでした。
ホテルクルーとしばし談笑し、眺めのよいとっておきの席、
アロマティーの誘いにときめいていたときでした。
ラウンジからは東京が一望でき、
幸せそうに見えるカップルや外国人旅行者が織りなす喧騒の世界を過ぎたその奥に、
とっておきの席は行儀よく、品格に溢れ、上質感漂う時間だけをそこに集めているようでした。
お台場の先には房総半島が見渡せ、
冬の、ぴんと張り詰めた透きとおる大気は、
わたしの心の投影そのものだと気付きました。そして、わたしはあなたを想うのです。

猫の背中でも撫でていたのでしょう。
手の甲にさらさらとした感触を覚えたとほぼ同時に、
あなたからのメッセージが届きました。

足をなくした不自由さは問題にしないたちですが、精神的な苦痛や仕事や恋愛で、
自分なりに自殺等も含めて苦悶しました。
そんなときにも自分の中に、消したくても決して消えることのない、
これが消えれば楽になるという灯火の存在に気付いてしまうのです。
この灯火が僕のモチーフだと思います。
この灯火は想像以上に深く、繊細なエネルギーであることに最近ようやく気付きました。
現れ方は違いますが、僕とあなたのモチーフは同質なのです。

途方に暮れゆく道の先には、もうあなたの姿はありません。
あなたが描く柔らかな色彩の世界、優しく、力強く、
すこしでも手に力を入れると粉々になるような繊細さを内に秘めた、
あなたの中にいます。
わたしの大切なあなたが描くあの絵の世界に。






記憶

2011年12月30日 00時55分32秒 | エッセイ、随筆、小説




エステと読書はお嫌いだったね。
それはつまり、彼女との思い出、その話をあなたがするたび、実のところついいましがた、
昨日の出来事ではないのかと錯覚した。
かと思うと、私は手を合わせ、祈らずにはいられない衝動に駆られた。
願いごとがあるわけではないのに。

そこには特別深い意味があるわけではないのに、すこしだけ胸が締め付けられる思いがする。
それなのに、心がほころぶわずかな音に耳を傾けてみたりして、
恋の、特有のあのほろ苦い感じではなくて、
無理やり人生の表舞台からあなたは引きずり落とされてしまったというのに、
カリフォルニアでみた太陽を思い出させてくれる。
陽に灼けた褐色の肌、爽やかな匂いが風に運ばれて、
細身の身体からは想像出来ないくらい底抜けのしぶとさを時々目に映してきた。
PIAに沈みゆく西陽に心を奪われていると、俺ならそう思うと言って、
事故にあってから、歯ぎしりがはじまったという話を皮切りに、
自分の彼氏が重度の障害者で、ろくな収入も無く、毎日神経痛に悩む。
それで幸せなの?
俺は彼女が信用できないでいて、別れを選んだ。
不自由な自分に腹が立つと言うけど、あの日は事故前で、
私たちはまだ出会ってはいなかったの。


あなたは強い人、明るい人、優しい人、面白い人。
それなのに、怪訝な表情を浮かべる一瞬だけは、凪の時刻のような物さみしさを纏い、
遠景からの構図に恐る恐る身体を沈めていくと、脳の秘密にたどり着く。

わたしとあなたの秘密。
わたしとあなただけにしかわからない未知の領域。
幸せではなく面倒を生む、美しい彼女を失ったあのこと。
わたしはあの日、見えない枷に心身の自由を奪われたまま、
結局のところ、枷につながれた人生に狂わされてしまう。

わたしの事故より十年前に交わしたわたしたちの会話を、あなたはどのように証明するの?


夜光盃

2011年12月28日 22時01分27秒 | エッセイ、随筆、小説


この本は私にとって奇跡の出逢いでした。
書き出しからあとがきまで、
いろんなことを考えさせられる本です。
手元において、ときにページをめくるのもよし。
あなたの文才が花開く日を信じます。

平成18年8月吉日、諒



確か本の内容は、
近親者を本気で愛したという実話でした。
私は寝たきりの日々を過ごしていた最中で、
私にはすこしヘビーな内容の本でしたが、
いつしか魅了されていました。
静かなる文体に、羨望や嫉妬が入り交じる感情に、
幾度となく押し潰され、叩きのめされていました。
まるで、なにかに憑かれたようでした。
この本を片時も離さず、そのせいで力尽き、
その後、この本の呪縛から解き放たれるまで
長い時間を要したことを思い出しています。

あなたの視線の先に映し出す世界を、
嫉妬に駆られるあなたの美しい文章を、
私は今日も待ちわびているのです。

取り返しのつかない時間は、
手の施しようもない速さで流れ去る。
その思いに、私はじっと身を打たせている。
彼が言った。愛している。
君を失うわけにはいかない。
ぷつんと携帯電話を切る音がし、後には、
脳の中をどこまでも水平に伸びていく、
機械の音だけが残った。

あなたの文章を、私は必要としています。















考える葦

2011年12月27日 21時55分03秒 | エッセイ、随筆、小説



僕にとって大切な異性があなたであってくれたら嬉しく思います。
そして、あなたの人生や心身、
いいや、もっと深い領域をも包む異性が僕であれば幸いです。

とはいえ、僕の物事を捉える視座が、
通常の、世の中を生きる上では、この感受性がときに邪魔をするでしょうが、
あなたの感性に触れる至福の享受は、
僕が僕であることを、なぜかあなたに赦されていると思える瞬間なのです。

あの日、僕との情交を成就させた夜、
なぜあなたは僕をあんなにも懐かしそうに見つめていたのですか。
あの日、肉体の深部で揺らぐ精神をあらわにしたあなたが、
ときに恍惚な表情を浮かべ、ときに苦悩の色で身体中染め上げながら、
僕の魂を深く愛撫し尽くすのです。

まるで僕を見通しているかのようにあなたは言うのです。
まだ、あなたの精神には、薄い衣が一枚纏ったままですよ、と。
僕は照れくさく、
おまけにあなたには敵わないとの思いを打ち明けようにもそれすらあなたは僕の先をゆくので、
告白もできやしないのです。
だからでしょうか、僕を赦してくれていると思えるのは。
僕はあなたが愛おしく、満珠を投げ入れた海の潮が満ちるように、
あなたをただひたすら大切にしたいとの思いが、溢れ出してくるのです。

僕にとって大切な異性があなたであってくれたら嬉しく思います。
そして、あなたの人生や心身、
いいや、もっと深い領域をも包む異性が僕であれば幸いです。

僕は弱い葦でしかないけれど、
あなたを考えるとき、思考の偉大さにふと気付かされるのです。
だから、僕にとってあなたは大切なひとなのです。




人間を見つめる

2011年12月27日 16時24分45秒 | エッセイ、随筆、小説



浄閑寺にたどり着いたとき、わたしは泣き崩れてしまったの。
確かあれはほおづき市の四万六千日の夜、
身請け先の旦那さんと浅草寺詣に出かけた。

町がね、あまりにも賑やかで煌びやかで華やかだったから、
急に首をもたげた罪悪感に苛まれてしまったの。
わたしはこの旦那さんに救われる。
大金をはたいて、わたしの身請けを覚悟してくださったひと。
なのに、幸せに慣れていないせいか、急にすべてが恐怖でしかなくなってきて、
境内まであと少しという揚げ饅頭屋のあたりで、
旦那さんの手をするりとほどいて、逃げ出したの。

吉原に身売りされたのはわずか5歳のとき、
それからというもの、わたしは生きた心地がしなかった。
色情の世界は地獄絵そのものだったから。
当然のように地獄絵から離れたいと強い思いを秘めるほどに、
なぜかわからないのだけど、
旦那さんの深い愛情が、疎ましくしか感じられなくなるの。

吉原はわたしの身請けが決まってからは、
浅草にひけをとらないほどのお祭騒ぎでね。
飲めや歌えと笛や太鼓の音色が町中に鳴り響き、
花魁のわたしはますます美しさに磨きがかかり、
男たちは目眩を覚えると言って、わたしをもてはやしていくの。
旦那さんも満更でもないといったご様子で、
幸せそうにして、いつも穏やかに微笑んでいた。

あのときわたしは、身体を使って男たちを癒していたのかしら。
今世のわたしは、こころを使って人々を鎮めるお役目、
人間を見つめる仕事が天職になる。

それからね、あの旦那さんを探し出すことが命題。
わたしの魂がしくしくと泣いているの。
旦那さんが恋しいと言って、泣き止む気配がないの。
泣くほどに魂の記憶が鮮やかに蘇ってきて、
たとえば肌の感触やニオイやわたしを抱きしめる際の癖にいたるまで、
あのときのままなの。
鎮魂が必要なことをいまさら気付かされてみたものの、
旦那さんはどこにいるやら。
外見、年齢こそ違っても、
魂の時間軸はあの日からなにも変わってはいないの。

だから、この世に生まれる。
会わなければ、やり直さなければならないひとの存在が、
青い地球に生を宿らせる。
幸せになるまで、ひとは生まれ変わりを繰り返す。






Sweet Memorys

2011年12月20日 07時34分22秒 | エッセイ、随筆、小説


昔の恋人からの連絡。
わたしは複雑な心境のまま、
脳裏にうっすらと浮かび上がる甘い白檀香のような日々に、いまさらなんと声をかければいいのだろうか。

Also you asked me why I write you worrying about you. I'll always remember you & be concerned about your well being.
...
20年前の恋人は静寂を愛し、
10年前の恋人はアメリカで新しい命の誕生を待ちわびているという。

I really do not know yet what kind emotion I have.
but still they make me very much sweet pain.
why?
ask myself.







希望の色彩

2011年12月19日 07時16分35秒 | エッセイ、随筆、小説




歩けること
話せること
聞こえること
見えること
感じること
約束できること
夢や希望を持てること


「普通」というものの有難さは
「普通」と無理やり引き離されたひとたちには、痛いほどわかる。


ふと、空をみた。
朝焼けに染まる緋色の色彩は、
生の、または死の導きだと、
確か、生前祖父が大切にしていた色だと思い出しながら目覚め、朝を迎えた。
一日がはじまる。


浄化された朝の光景は、
希望の色彩で溢れている。






素敵な一週間を・・・





人権問題の髪型

2011年12月13日 21時26分21秒 | エッセイ、随筆、小説



「この髪型って、人権問題ですよー!!!!!!」
と、ぷんぷんと鼻息の荒い口元を尖らせた寺地は、
気に入らない髪型にさせられたことに憤慨している様子、
「あなた、こんな髪型にするなんて、障害者のわたしを見下しているんでしょ?」
と車椅子の端を佐竹さんの弁慶の泣き所めがけて、突進し兼ねない。


「寺地だって女として28年間生きてきたのよ。
そ、そ、それをこんなへんてこりんな髪型にするなんて。
まるで、ブッタ(マンガ、聖 お兄さんのブッタを指す)か一昔前に流行った不良かチンピラの頭、
中途半端なパンチパーマって感じでしょう、これーーーっ!!!!」


さて、どうしたものか・・・と考え込む寺地。
いつもより長めに湯船に浸かり、湯の中でぶるぶると唇を震わせ、
「生まれて初めてのデートだったのに、こんな髪型じゃ・・・」と肩を落とす寺地。


断ったらもう二度とデートのチャンスなんてなさそうだし、
かといって、こんな髪型でデートの待ち合わせ場所へ行ったら、
トイレに行ってくるといったまま、彼はわたしの元へ二度と現れそうにはない。
チャンスをみすみす逃すか、それともこの髪型を理由に振られるか。
どっちも悲しすぎる・・・・・


「お電話ありがとうございます。F銀座店でございます~」
「もしもし、明日予約をお願いしたいのですが・・・」
と、寺地はかつらメーカーへ連絡を入れる。
「えっとですね~、わたし、禿げてはいないのですが、髪型がブッタなのでかつらが必要になりまして」


佐竹、覚えてろー
請求書はお前に送り付けてやるのだ~!!!!!
by 寺地(笑













国立障害者リハビリテーションセンターについて③

2011年12月07日 07時13分38秒 | エッセイ、随筆、小説



助けてください。
わたしを、あなたを護るために。



「明日、お話合いをする日時調整と同席するメンバーをお伝えします。
午後17時15分頃にお電話差し上げます」


その数時間後、わたしの個人情報を収集する職員。
だから言ったのだ。
「あなたの一連の行動言動は信用に値しないので、外部からそれなりの人の同席が必要だ」と。


障害者というレッテルの中でここに居ざるを得ない立場、
わたしは考えさせられてしまうのだ。
この人たち、つまり、福祉行政に関与する公務員の資質や行動心理において、
障害者という立場の人たちを、根本的に人間としてなど扱っていないのだという事実に。


たとえば偽善という表現を使おう。
飯の種=仕事ということでは、おそらく福祉という仕事を請け負えるだけ楽ではないと思う。
また、健常者の中で生きる、生き抜くにはなんらかの弊害やハードルがあるような人たちでも、
障害者や高齢者の中では、健常者として「その人の立場を護る」ことにいはなっていないのだろうか。


劣化する日本人、
なぜ、言葉が理解できないのだろうか。
なぜ、約束や取決めの大切さ、信用を構築するための行動というものがわからないのだろうか。



助けてください。
わたしを、あなたを護るために。