愛してもいいですか、という意味です。
ハングルでサラン・ヘド・ツゥェルカヨという言葉を講師から教えてもらいましたが、
自分で、実際に使えるとは夢にも思ってみませんでした。
あなただからこそ・・・と思いました。
素直に自分のことを、気持ちを、弱さへの吐露も、今までのこと、これからのことすべて、
自分の人生に対する誠実さだけは今のこの歳だからこそ、失いたくないと思えました。
思わせてくれたのは、もちろんあなただからこそです。
さらさらとした音がノートの上を走るペンが奏でる。
丸の内ビル36階のレストランで、私たちはおそらく話に夢中になるのでポーションを小さめに・・・と
イタリア語でマネージャーに伝えたのは、午後12時をすこし過ぎたころ。
失礼します、と続け、彼は携帯をかばんから取り出すと、神経内科医である友人に
「明日、高次脳機能障害について知りたいので、時間をつくって欲しい」と約束を取り付けた。
私を知るために、私の一部である高次脳機能障害”とビジネスノートの余白に書き記していた。
どのようにすれば彼女を救えるのか、との文字の羅列もみつける。
ぎゅっと胸を、私の内側に佇む何かをぎゅっと鷲づかみにされた動揺を誤魔化すのがやっとだ。
どのようにすれば彼女を救えるのか・・・・・
いくつかの料理がテーブルに運ばれてきたとき、
その彩に心を奪われていたら、悔いについて・・・とのサブジェクトで、あなたは私に質問を向けた。
今までの人生の中での「悔い」を聞かせて欲しいという。
私は言った。
「過去には悔いはひとつもないの。だから、私は恵まれていたのだと思う」と。
「でも・・・・」
といいかけたところで、皿の中で行儀よく並ぶマリーゴールドを鼻先に軽く押し付けて、
「いい香でしょう?」
とあなたに微笑みかけた。
その微笑の裏には、過去には悔いがひとつもみつけられない人生を歩ませてもらったとしても、
これからについてはわからないのよ、という意味が含まれていたことを彼は知らない。
西側の空が緋色に染まっていた。
皇居のお堀のライトアップがはじまり、ビルとビルの隙間からみえる富士のシルエットに心が動き、
「私に悔いが残るかもしれないと思うのはこれからの出来事における選択についてで、
それはあなたに自分の気持ちを伝えないとの決断が、
私の一生の、もしかしたら唯一の悔いになり得る可能性は高いのよ」と、
でも・・・の続きを言葉に置き換える。
彼は一言、
「その言葉は僕にはもったいない」とだけ言い、窓外に視線を移した。
スワロフスキーの時計が、鏤められたクリスタルがキラキラと輝きはじめたとき、
「私たち、もう5時間も話をしていたわ。あなたと一緒にいると、時間に意地悪をされている気分になる」
愛してもいいですか・・・・・か。
「ありがとう」というシンプルな文字の羅列しか私には今は思いつきません。
でも、そのわずか5文字でしか私の気持ちを表現できないとも思うのです。
ありがとう・・・という言葉は、奥行き深く、もし仮に心の領域というものが存在したとき、
それを簡単に突き破るのは、ありがとうでしかないようにも思います。
愛してもいいですか、という意味です。
ハングルでサラン・ヘド・ツゥェルカヨという言葉を講師から教えてもらいましたが、
自分で、実際に使えるとは夢にも思ってみませんでした。
あなただからこそ・・・と思いました。
素直に自分のことを、気持ちを、弱さへの吐露も、今までのこと、これからのことすべて、
自分の人生に対する誠実さだけは今のこの歳だからこそ、失いたくないと思えました。
思わせてくれたのは、もちろんあなただからこそです。