とある飛行場のとある旅客機。乗客はほぼ満員だ。
離陸前のスチュワーデスのアナウンス。
「本日は当航空会社の旅客機にようこそ。お客様にお伝えしておくことがあります。
本機は機長、操縦士とも盲人です」
ざわざわと顔を見合す乗客たち。
「でもご安心ください、今までにこのコンビで事故の起きたことはありません。ごゆっ
くり空の旅をお楽しみください。それでは離陸に入ります」
「心配だな、ほんとに大丈夫なのか」と乗客の一人。
不安そうな乗客たちを尻目に、旅客機は離陸動作に入る。客室正面のモニタには
機の正面の風景が映し出されている。
機はどんどん加速しはじめ、前に進んでいく。が、なかなか離陸しない。
そのままどんどん進むがいっこうに離陸の気配がない。
モニタに映った正面の風景
では次第に滑走路の向こうの海が近づいてくる。乗客たちの声が上がり始める。
「おい、離陸しないと海に落ちるぞ!」 誰かが大声で叫んだ。
だが、機はそのまま直進する。別の乗客が、
「おい、このままだと全員死んじまうぞ!」
女性客の悲鳴が上がる。
だがまだ離陸しない。
とうとうモニタでは滑走路が終わり、海が目の前だ。
「うわ~」「きゃ~」と乗客全員が悲鳴をあげた。と、その瞬間、旅客機は離陸し、
海には落ちずに上昇を開始した。乗客全員、息を吐いて椅子にへたり込む。
そのころ操縦室。
「ねえ、機長、私は正直、心配なんですよ」と盲人の操縦士。
「なんのことだね」と盲人の機長。
「いずれいつの日かですね、乗客の悲鳴が上がるタイミングが遅れて離陸に失敗
して、我々二人とも死んじゃうんじゃないかと」
「おかしな取り合わせだな」と知り合いが言った。「こんなんで売れるのか?」
「売れるとも」と質屋が言った。「まず誰かが、トランペットとサックスを買っていく、それから二日ぐらいすると、その隣近所のやつがショットガンを買いに来るんだ。」