八代目林家正蔵(彦六)の噺、「伽羅の下駄」(きゃらのげた)
吉原には遊女3000人いたというが、お客の質もピンキリです。
その上、冷やかしがいて吉原をもっと華やかにしていた。
六さんは豆腐屋で趣味が"冷やかし"だった。
豆腐屋は朝が早いので夜の遅くまで冷やかしをしていたら仕事に差し支えると大家に注意された。
豆腐屋は朝が早いのが決まりで、朝一番の味噌汁の具になる、昼頃起きたって、昼飯にも間に合わない。
この町内では隣町まで豆腐を買いに行く。
そんな恥ずかしいことが続くようだったら、店(たな)をあけな。
言われたように、朝早く店を開けた。
「当家の主(あるじ)はいないか」
と声が掛かったので見ると、そこに立派な形(なり)をしたお侍が立っていた。
「昨夜の酒が残っていて、喉が渇いた、水を所望するが有るか?」、
「手前どもは豆腐屋だから良い水は沢山有ります。掘り抜き井戸で金けは無い井戸水です」。
ピカピカに磨いた金ビシャクで一杯差し上げたら、旨いと言ってお代わりを所望。
酔い覚めの水は値千金と言いまさしく、旨い。
なにか礼をしたいが、持ち合わせも、連れの者も居ない。
店奥にあった使い古しの草履を欲しいと言って、下駄と履き替え、その下駄を「つかわすぞ」と店奥に放り込んで行ってしまった。
奥さんと一緒に奥で食事を始めたが、どこからともなく良い匂いがしてきた。
先程の武士が蹴込んだ下駄の片方が火口の所で温まって臭ってくる。誠に良い匂いなので大家の所に行って話を聞くことにした。
「これは伽羅の木で作られた下駄だ。伽羅というのは、たいそうな木だからそれを下駄にしているのは、もしかして、お前が冷やかしで探していた仙台の殿様かも知れないぞ」、
「は~、仙台の殿様か」、
「伽羅の下駄を履いて廓通いをしていると評判の仙台の殿様だ。下駄の片方だけでも100両はするぞ。一足だったら200両だ」、
「店賃(たなちん)を3ヶ月貯めているが、この下駄は離さないぞ」、
「お前の家の宝物だ」、
「それを聞いたら腰が抜けたので、この下駄で帰る」。
手に下駄を履いて四つん這いで帰ってきた。
奥様に「この下駄は1足で200両もするんだ」、
「それは凄いね。早起きは3文の徳と言うが200両かい。それで何て言う下駄なんだい」、
「大家から聞いてきたんだが、一寸待てよ・・・。思いだした。(笑い声で)伽羅、きゃら、キャラ」、
奥さん嬉しいので「ゲタゲタ下駄」。
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