あと1日だ。
午後7時に竜太(18期生・浪人)が帰るという。
この1年間のことが蘇る・・・初めて塾に戻ってきた頃は英語が悲惨だった。
センターマークで70点台が続いた。
・・・思い出は遮断される。
新中1のご父兄が来られたからだ。
例年に比べ密航者が多い。
ありがたいことだが、試験の余韻に浸っている暇がない。
「最後くらい竜太先輩が数字を書いていくってのはどうですか」と玄太。
ホワイトボードにある試験までの日数表だ。
『国公立二次試験まであと2日』とある。
竜太が2を消して0と書き込む。
それを見ていた森下(8期生・環境学研究者)がもらす、「地味な字やな」
再び竜太がホワイトボードの前で逡巡する。
ゼロを書いては目を入れたり、インディカ種のようなお米にしたりと苦心惨憺・・・背後に感じる森下の視線。
いつまでたっても先輩は絶対である。
何度かの逡巡の後に『国公立二次試験』を消して『合格』と書き直す。
『合格まで13日』
森下の視線が緩んだ。
13日後・・・名古屋市立大学の合格発表。
諒(津東3年)も竜太に合わせるように帰り支度。
「センター試験の時より緊張しますね」
「そのセリフ、奇遇やな。さっき竜太も同じことを言ってたよ」
階段を降りていく諒の背中・・・明日は特別場日ではなく、後期までの一里塚。
俺が口に出さなくとも諒は先刻承知だ。
殿(しんがり)は真広(津東3年)、何か言いたそう。
感動の師弟愛と思いきや、「先生、私立大学にお金振り込むのやめようかと思ってるんですけど」
「はあ! なんで?」
「明日の結果を見てから考えようかなって・・・、車校のお金が浮くでしょ」
「なるほどね、それに英会話教室のお金もあるし」
「ハハハ、そうでしたよね。飯田さんから大学に合格したら早速英会話を勉強するようにって言われましたよね」
「ああ・・・あいつ、もしかしたらウチの塾で授業をしてくれるかもしれへんで」
「物理ですか」
「いや、理系にとっての学問とは何か・・・あたりやな」
「高校生より僕のほうが聞きたいですよ」
午後7時半、今頃は飯田の勉ちゃん、静岡のホテルで雄大と夕食の最中か。
教室のなかでは中1と中2の期末試験の喧騒、そして当然にして中3の公立入試へのサイレント・バトル。
ホワイトボードには『公立入試まで15日』とある。
玄太が友だちから貰った英作文のプリントを見せる・・・なかなかいいプリントだ。
「これ中3にコピーしてさせてみよや」
「分かりました」
再びホワイトボードに目が行く・・・『合格まで13日』
この1年間竜太と毎日過ごした日々・・・初めての現代文の記述対策。
亜里や香保の答えと自分の答を見比べて自分でも分かったのだろう、自分のあまりの答案の酷さが。
ゆえに消え入るような声で「僕の答案はパスしてもらってけっこうです」
そんな記憶の数々が遮断。
玄太が早速英作文のプリントの1枚目を持ってきたからだ。
さあ、採点である。
今日も鈴鹿高校からの密航者が来ている。
熱心やな。
でも志望は獣医・・・当たり前だ。
クリックのほう、上から下までほんまに頼んます。