日本の経営者報酬の増加が顕著だ。主要76社の経営トップの報酬額は2022年度に21年度比3割増え、主要5カ国で最も伸びた。伸び率は過去からみても最高だ。業績に連動する株式報酬の導入が相次いだことが背景にある。優秀な人材の確保だけでなく、リスクをとって成長を狙う攻めの経営も進め、国際競争力の向上につなげる。
外資系コンサルティング会社のWTW(ウイリス・タワーズワトソン)が売上高1兆円以上の日米欧の主要5カ国の594社を対象に、最高経営責任者(CEO)を中心とするトップ報酬の中央値を算出した。日本は2億7000万円と33%増え、データのある09年度以降で最も伸びた。
他国では米国が8%減の17億6000万円、ドイツが16%減の7億6000万円だった。英国が5%増の7億8000万円、フランスが13%増の7億4000万円で、日本の伸びが鮮明だ。
日本企業は従来、業績に連動しない固定報酬の割合が高く、中長期の企業価値向上へ向けた報酬体系が課題だった。成長を意識した報酬の採用については、15年導入のコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)での呼びかけに加え、株式市場での人的資本投資への注目度も増す中、対応する動きが拡大している。
実際、日本のトップ報酬の内訳は、固定で支払われる基本報酬の比率が33%(21年度は36%)に下がった一方、株式報酬など長期インセンティブが32%(同26%)に上がった。業績好調による株価上昇などが加わり、経営者の報酬が膨らむ好循環が生まれている。
トヨタ自動車は欧州のグローバル企業を参考とする仕組みを採り入れ、豊田章男会長(3月末までは社長)の報酬が9億9900万円と21年度から46%増えた。資生堂の魚谷雅彦会長CEO(昨年12月末までは社長CEO)は5億3100万円と40%増、リクルートホールディングスの出木場久征社長兼CEOは9億2000万円と60%増で、いずれも株式報酬の上積みが目立った。
ソニーグループは吉田憲一郎会長兼CEOの報酬全体に占める株式報酬の割合が75%と、20年度に比べ11ポイント増えた。経営人材の国際的な争奪戦が激しくなる中、報酬体系を整備している。
グローバル基準の報酬へ一歩前進した日本だが、欧米勢の背中はなお遠い。報酬額自体は米国の約5分の1にすぎず、主要5カ国で一番小さい。長期インセンティブの比率も3割強で、米国の7割を下回る。
報酬額を決める要素になる経営指標の改善の余地も大きい。WTWの集計では、投資家が注目する自己資本利益率(ROE)は22年度の中央値で日本が9.8%と、米国(19%)や英国(11%)に見劣りする。
東京証券取引所は今年3月、企業に資本コストや株価を意識した経営を要請した。株式報酬など長期インセンティブを増やす動きはこれに沿うもので、収益性や資本効率の向上、株主還元の拡大も含めた投資家目線の経営が本格化し始めた兆候といえる。
今後に向け、WTWの佐藤優樹氏は「株式報酬の水準だけでなく、業績との連動条件や難易度の設定などを工夫することも必要」と指摘する。例えば、日立製作所は今年度、海外の競合と株価を比較して報酬を増減させる仕組みを導入した。成長への意識が当たり前のように根付けば、より安定した投資マネーを呼び込む契機になる。
(本脇賢尚)