携帯大手は金融やAIなど非通信事業に力を注ぐ
学校は夏休みまっただ中だが、就職活動の志望先選びに忙しい学生は多いかもしれない。
社会インフラとして存在感を増す携帯キャリアは人気業界の一つだろう。そこで普段取材している記者がNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手3社に聞いてみた。御社はどんな人材が欲しいですか――。
NTTドコモの本昌子・総務人事部長「グローバル視点でも採用強化」
NTTドコモの本昌子・総務人事部長
挑戦心を持った学生にぜひドアをたたいてほしい。
グループのNTTコミュニケーションズやNTTコムウェアを合わせると、ドコモの事業領域は通信を土台に30を超える。「やってみたい」という思いを実現できる会社だと考えている。
若手にもチャンスは多い。社内の新規事業創出プログラムを活用し、入社4年目の社員が起業した事例もある。
6月に就任した前田義晃社長はお客さまと向き合い、世の中に価値を生み出すことに本気で取り組んでいこうと呼び掛けている。
ドコモはここ数年、金融やエンターテインメントを含むスマートライフ事業に加え、法人向け事業で採用数を増やしてきた。
7月には海外事業を統括する新会社も立ち上げた。これからはグローバルという視点でも採用を強化していく。
入社後のポストを確約するインターンシップに力を入れている。
2024年は124部署で募集し、応募数は23年比2.5倍になった。資格や学会などでの実績がある場合、通常より1段階高いグレードで採用する仕組みもある。
やりたいことが固まっていない学生もいると思う。社内には2部署を掛け持ちできる「ダブルワーク」の制度がある。
配属先に加えて、週1日は興味のある部署で働くイメージだ。入社して終わりでなく、一緒にキャリアを描いていきたい。
KDDIの木村理恵子・人財開発部長「法人事業の営業増やす」
KDDIの木村理恵子・人財開発部長
変革の気概がある人材を求めている。
KDDIの事業領域は通信から、デジタルトランスフォーメーション(DX)、金融、ドローンなどに広がっている。新しいサービスにより、社会に新たな価値を提供してほしい。
たとえば主力の携帯電話事業では、格安ブランド「povo2.0」でZ世代を意識したサービスを拡充している。
携帯電話は若者にどんな需要があるのか。同世代ならではの視点を期待する。
採用を増やしたいのは法人向け事業の営業だ。
あらゆるモノがネットにつながるIoTやデータセンターを成長領域に位置づけ、DX支援事業「ワコンクロス」を立ち上げた。
トヨタ自動車など他社と連携してサービスを創出する機会が多いため、チームプレーができるかどうかも重要になる。
データサイエンティストの採用にも注力している。インターンシップでは大規模な通信データを基に、ユーザーの課題解決につなげる提案もしてもらう。
KDDIには金融、小売り、エネルギーなど様々な領域を分析する機会があることを魅力として伝えていく。
どの会社に就職するかでなく、どんな仕事をするかが重要だと考える学生が増えてきた。
20年4月入社の新卒から初期配属先を確約する「WILLコース」を始め、現在は採用数全体の6割を占める。学生の時に身につけたスキルをぜひ生かしてほしい。
ソフトバンクの加藤義大・人材採用部部長「次世代エンジニア求む」
ソフトバンクの加藤義大・人材採用部部長
ソフトバンクは時代と共に常に変化を求められる会社だ。
失敗を繰り返してもいいから挑戦する風土がある。事業が多角化していくなかで、環境を楽しみながら過去の成功に固執せず、柔軟に物事に取り組める人材を求めている。
グループには通信事業はもちろん、LINEヤフーやPayPayなどもある。様々な分野の仕事に挑戦できる。
最近は人工知能(AI)の基盤となる大規模言語モデル(LLM)の自社開発やAIデータセンターの整備などにも取り組んでいる。
こうした事業を担う次世代エンジニアや、ビジネスを推進する人材を必要としている。
ソフトバンクの宮川潤一社長もエンジニア出身。次世代社会インフラを作り上げるという目標に向かい、一緒に働きたいという人材を求めている。
学生の人気が高い取り組みが「地方創生インターン」だ。毎年5月ごろから募集を始め、書類選考と面接を経て参加者を決める。24年は約3000人の応募があり、60人が参加する予定だ。
ソフトバンクの社員の支援を受けながら、地方都市の課題を聞き取り、解決策などを首長や職員にプレゼンする。ソフトバンクの事業に触れるわけではないが、社員とやり取りする時間は長い。会社を知る良い機会になると思う。
(桜木浩己、宮嶋梓帆、松田直樹)
企業の新しい動きの「トリセツ」を紹介しつつ、一歩深掘りした「カイセツ」を加えます。
日経記事2024.08.17より引用