企業経営者がトランプ次期米大統領の対中政策に警戒を強めている。
日本経済新聞の「社長100人アンケート」で、自社の中国戦略を「見直す」または「見直しを検討する」と答えた企業は4割に達した。トランプ氏が経営に与える影響は「マイナス」と答えた企業も4割で、関税引き上げに身構えている。
アンケートは国内主要企業の社長(会長などを含む)を対象に12月2〜18日に実施し、145社から回答を得た。
来年1月に大統領に就任するトランプ氏は11月下旬、中国に追加関税10%をかけると表明。選挙戦中には最大60%まで引き上げる方針を示した。
米国の政権交代を踏まえ、中国で事業展開する企業に自社の供給網を含めた中国戦略を見直すか聞いたところ、「見直す」が8.6%、「見直しを検討」が32.4%となり、合わせて4割を超えた。
多くの日本企業が中国に生産拠点を持ち、米国など世界に製品を輸出している。関税引き上げの応酬となる米中貿易戦争が再び起きれば、製品や中間財・原料などの輸出で大きな影響が出る可能性がある。
供給網の再構築は膨大なコストや人手確保が必要なため大半の企業は様子見姿勢だが、見直しの必要性を感じる経営者は少なくない。
リコーは米国向けに輸出する事務機の生産地を中国からタイに移す方針を示した。
自動車部品大手の経営幹部は「対中関税の影響によっては生産供給体制や価格面の見直しも含めて顧客(自動車メーカー)への相談を迫られる」とする。
トランプ氏は自由貿易協定のパートナーであるメキシコやカナダにも一律25%の関税を表明したうえ、他の国も一律10%の関税を課すと言及してきた。
ニッスイの浜田晋吾社長は「行きすぎた自国第一主義は単なるディールに終わらず、報復関税の嵐を招く」と警戒する。
欧州も中国で生産する電気自動車(EV)の関税を引き上げる。中国はロシアに接近するなど回避策を模索している。
東レの大矢光雄社長は「複雑な地政学を踏まえたうえで、実をとるためのサプライチェーン多様化やリスクに備えた事業運営を行っていく必要がある」と強調する。
関税政策への警戒は強まっている。トランプ氏の就任が自社の経営に与える影響を聞くと、「マイナス」「どちらかといえばマイナス」が計38.9%で、第1次トランプ政権の就任直前(16年12月、37.0%)や就任直後(17年3月、36.4%)を上回った。
「プラス」「どちらかといえばプラス」との回答は17.6%にとどまった。
トランプ次期政権への懸念(3つまで回答)は「輸入品への課税強化」が68.3%と最も高く、地政学リスクの高まり(43.4%)やインフレの再燃(36.6%)が続いた。
アンケートでは環境政策についても聞いた。トランプ氏は地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの再離脱や、EV・再生可能エネルギーの補助などを盛り込んだ「インフレ抑制法(IRA)」の縮小といったバイデン政権が進めてきた脱炭素政策を転換する方針を示している。
脱炭素戦略に関する事業戦略や生産・販売計画を見直すか聞いたところ、「見直さない」が95.0%だった。
「世界的なカーボンニュートラルへの逆風が吹くなかでも、日本政府として再生エネ導入拡大や原発再稼働推進を期待する」(日本ガイシの小林茂社長)との声があった。
トランプ氏に期待すること(3つまで回答)は、規制緩和が40.0%で最も多かった。
大型減税(35.2%)や日米関係(33.8%)、エネルギーコストの低下(27.6%)が続いた。ローソンの竹増貞信社長は「(規制緩和で)新たなビジネスチャンスを模索することも求められる」とみる。
もっとも、トランプ氏の政策は実行可能性が不透明な部分も多い。
サントリーホールディングスの新浪剛史社長は「プランB、プランCを準備しておくことが肝要」とし、「経済安全保障に関わる領域は米国一辺倒にならないよう、韓国やインドなど有志国との連携強化や(友好国と供給網を構築する)フレンドショアリングを追求すべきだ」と指摘する。
世界のテック企業が米国での商機を求めて「トランプ詣で」をしており、人工知能(AI)などの分野に注目が集まる可能性もある。
日本企業の経営者はトランプ氏の言動を冷静に見極めつつ、柔軟な対応を模索している。
原材料の調達から製造・販売までの流れを指すサプライチェーン。半導体不足や人権問題がビジネスにどんな影響を及ぼすのか。大量の商品を消費者にどう安定供給しているのか。仕組みやニュースの意味をタイムリーに発信します。
サプライチェーンとは 人権デューデリジェンスとは
日経記事2024.12.29より引用