新法では、TikTokの米国サービス継続は中国資本からの分離が条件となる=ロイター
【ワシントン=八十島綾平、シリコンバレー=山田遼太郎】
中国発の動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」が米国で運用停止を迫られることになった。
1億7千万人が使う巨大アプリを規制する新法について、米連邦最高裁が17日に「合憲」のお墨付きを与えたからだ。20日就任するトランプ次期米大統領がどう法律を扱うかにTikTokの先行きは委ねられた。
最高裁、「中国によるデータ収集防止」を評価
今回、最高裁は異例のスピードで新法の合憲性を判断し、全会一致で新法を支持した。判決では「敵対国がTikTokを使う1.7億人の米国人に関する膨大なデータを集めることを防ぐという政府の利益のために十分に調整されたものだ」と新法を評価した。
TikTokが米国の利用者にとっても価値があることに「疑いの余地はない」としつつも、新法は表現の自由に抵触しない範囲で適切に設計された規制内容だとした。
トランプ氏、「最高裁を尊重」も対応検討
新法が司法の場でお墨付きを得たことで、今後の焦点は、20日から新法を実際に執行する立場に就くトランプ次期米大統領の判断に移る。
トランプ氏はかねて「#trumpで360億ビュー達成」などとTikTokをフル活用してきた自身の成果を誇り「私がTikTokを禁止したいと思う理由などあるだろうか?」と述べていた。
17日の判決後、トランプ氏はSNSで「最高裁の決定は予想されていたもので、誰もが尊重しなければならない。
TikTokに関する私の判断はそう遠くない将来下されるが、状況をみる時間が私には必要だ」と語った。
最高裁の判断を受けてTikTok救済について慎重な言い回しとなったが、TikTokの周受資・最高経営責任者(CEO)はトランプ氏に期待を寄せる。「
TikTokの利用を続けられる解決策を見いだすため、私たちと協力するというトランプ氏の約束に感謝する」と17日に述べた。周氏は20日のトランプ氏大統領就任式に招かれている。
TikTokアプリ、新法発効の19日に一時停止も
TikTokの米国内サービスの継続は新法が発効する19日に違法となるため、停止する可能性がある。
新法は米アップルや米グーグルといったアプリストア運営企業にTikTokアプリの配布や更新を禁じている。
米オラクルなどクラウド事業者もTikTok向けのサービス提供が禁止される。いずれも対象は米国内で、違反企業には罰金がかかる。
罰金を避けるためにアップルなどがアプリ配布を止めれば、米国のアプリストアからはTikTokがいったん消える可能性がある。
新たな利用者は19日以降、スマートフォンにTikTokをダウンロードできなくなり、既存の利用者もアップデートができなくなる。
動画などのデータはオラクルのクラウド上にあるため、ダウンロード済みのアプリやウェブサイト上でも動画を見られないなどの不具合が生じる可能性がある。
アップルやグーグル、オラクルが実際に19日に新法に対応するかは不透明だ。
19日以降もアプリ利用者への罰則はない。
TikTokのアプリは中国を除き世界共通となっている。サービスが停止すると米国のクリエーターらが新たに投稿できず、日本のTikTok利用者からは視聴できるコンテンツが減る。
米メディアの一部は、新法発効後にTikTok自身が米国内のサービスを完全に止める計画だと報じた。この場合、アプリの利用は全面的に停止する公算が大きい。
延期?執行停止? 売却圧力は変わらず
米ホワイトハウスのジャンピエール大統領報道官は17日の声明で「(発効の)タイミングを考えると、新法の施行のための行動は来週月曜日に発足する次の政権に委ねられるべきだとバイデン政権は考えている」と明言し、法律の運用についてはトランプ氏に判断を委ねた。
トランプ氏の判断次第では、仮に19日にTikTokがサービスを停止しなくても罰金を課されない可能性がある。
現時点ではトランプ氏が具体的にどのような手を使ってTikTokの停止回避を試みるのかは不透明だが、複数の選択肢がありそうだ。
一つ目は売却期限の「延期」だ。新法では、売却先のメドが立っているなどの条件を満たせば、1回限りで大統領が売却期限を最大90日間延長することができると定める。この規定を活用し、TikTokに米事業を売却させる猶予期間を与える可能性がある。
二つ目は、違法状態には目をつむって「新法の執行を停止させる」やり方だ。実際に法律の執行を担う司法省に対し、行政の裁量権の範囲内で一定期間は新法をあえて執行しないよう指示することもできる。
ロイター通信は、三つ目の手段として「TikTok以外の中国系アプリに利用者が流出している」ことを理由に安全保障上の緊急事態を宣言し、TikTokを引き続き国内で使えるようにすることも考えられるという専門家の見方を紹介している。
新法が発効する以上、TikTokは米事業を中国資本から切り離すことを迫られ続ける。アップルやグーグルなど関連企業も巨額罰金のリスクを拭い去れない状態が続く。
トランプ氏がTikTok停止を避ける救済措置を講じたとしても、最終的には事業を売却するシナリオが濃厚だ。
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