大和証券は5日、2024年度末の日経平均予想を従来の「4万3000円超」から「4万5000円超」に引き上げた。日本株は堅調を維持して未知の領域を進んでいくのか、3つのポイントを検証する。

1つ目は企業業績だ。24年度のTOPIX採用企業の経常利益見通しは会社計画が前年度比1.8%の減益なのに対し、市場予想平均(QUICKコンセンサス)は同4.4%の増益となっている。アナリストたちは企業の保守的な会社計画がいずれ覆され、増益を確保すると見ている。

 

 

自動車の足元の株価はトヨタ自動車グループなどの認証不正問題の影響を受けているが、世界的な増産傾向は続いている。電機・精密機械も新型コロナウイルス禍の間に膨らんだパソコンなどの在庫の調整が進み、足元では増産の動きが出ている。

 企業の投資意欲は総じて旺盛で、熊本県と北海道では半導体関連の巨大プロジェクトが進むほか、省力化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の需要も見込める。株価予想を引き上げた大和証券チーフストラテジストの阿部健児氏は「秋の4~9月期決算発表の際に上方修正が相次ぐのではないか」と見る。

 

資本コストを重視する姿勢を強めている日本企業の経営改革の進展にも期待がかかる。リクルートホールディングスは追加の株主還元期待から5日、株価が史上最高値を2日連続で更新した。

米運用大手ティー・ロウ・プライスの株式部門でポートフォリオ・スペシャリストを務めるダニエル・ハーレイ氏は「賃金上昇と国内の経済成長は健全で、日本株の見通しは引き続き良好と見ている。この30年間で初めて持続可能な市場環境にあると思われる」と評価する。

 

その上で「コーポレートガバナンス(企業統治)改革が引き続きプラスのサプライズをもたらすようであれば、株主還元も期待でき、市場の予想以上の力強いリターンを期待できる」と指摘する。

 

 

実質賃金いつプラスに

2つ目のポイントは、為替相場の行方だ。足元では1ドル=160円台で推移しており、財務省の円買い介入がないことへの安心感から日本株買いにつながっている。

多くの企業はドル・円の想定為替レートを1ドル=145円程度と保守的に設定しているため、実際の為替レートがその水準より円安であれば業績の底上げ効果が期待できる。内需株でも百貨店などは訪日外国人(インバウンド)の増加で円安がプラスに働く。

 

 

 

ただし円安には副作用もある。行き過ぎた円安は物価上昇を招き、消費にはマイナスだ。既に4月まで国内の実質賃金は25カ月もマイナスが続いている。

産業界からも円安が過度に進んでいるとの指摘が出始めている。円安で物価高が深刻化すれば、実質賃金のプラス転換が遅れる恐れがある。

 

一方、賃金の伸びが物価の上昇を上回り7~9月期に実質賃金がプラスに転じれば、国内の消費拡大が見込める。SMBC日興証券チーフ株式ストラテジストの安田光氏は「外食、アパレルなどが物色されていく可能性がある」と見る。

現在の円安の最大要因は日米の金利差だ。ニッセイ基礎研究所金融研究部の井出真吾主席研究員は「米国の金利が下がるのを待つしかない」と話す。

 

米連邦準備理事会(FRB)は年内の利下げ想定を3回から1回に減らしており、利下げのタイミングは読みにくい。

一方の日銀は7月末の会合で量的引き締め(QT)となる国債買い入れの減額計画を決める。追加利上げの可能性も残っているが、日米の金利差は依然大きく「(ドル・円レートが)動くとしても10円くらいではないか」(ニッセイ井出氏)。

 
 
日経平均株価は4日に終値の最高値を更新した
日経平均株価は4日に終値の最高値を更新した
 
 
 

「トランプ氏の当選確率が上昇」

11月に控える米大統領選が3つ目のポイントだ。

これまで大統領選の結果が見えにくい夏場は日本株の株価が大きく動かないとの見方が多かった。ところが、現職バイデン大統領は6月27日のテレビ討論会での対応が酷評され、身内の民主党内からも撤退を求める声が上がっている。

 

野村証券の柏原悟志エグゼキューション・サービス部担当部長は「(共和党の)トランプ前大統領の当選確率が上昇したことから、米中対立のリスクが高まり、(その結果として)日本株が買われている」と話す。

 トランプ氏が大統領に返り咲いた場合、どうなるか。反ESG(環境・社会・企業統治)色が強まれば、ハイブリッド車(HV)に強い日本の自動車メーカーや石油元売りには追い風となる。一方、JPモルガン証券の西原里江チーフ株式ストラテジストは「米国の金利上昇に注意が必要だ」と指摘する。

 

追加関税の導入によるインフレや財政赤字の拡大が長期金利を押し上げ、これまで米国株をけん引してきたグロース(成長)株が売られやすくなる。日本のハイテク株は米国株の影響を受けやすく、株価の下押し圧力となる。

FRBは景気の減速を抑えながらインフレを鎮圧するソフトランディング(軟着陸)へあと一歩のところまで迫った。トランプ氏の復活によってその筋書きが狂えば、景気悪化への懸念が高まり、株式市場の楽観論が吹き飛ぶことになる。

 

 

日経記事2024.07.06より引用