2023年のノーベル賞の発表が2日午後の生理学・医学賞から始まる。物理学、化学と合わせた自然科学3賞では、21年に物理学賞を受賞した真鍋淑郎・米プリンストン大学上席研究員から2年ぶりの日本出身者の受賞に期待が高まる。
生理学・医学賞の受賞者は、スウェーデンのカロリンスカ研究所が日本時間の2日午後6時半に発表する。
新型コロナワクチンに貢献したカリコ氏、化学賞の可能性も
生理学・医学賞の最注目は、新型コロナウイルス向けに実用化した「メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン」の開発に貢献した米ペンシルベニア大学のカタリン・カリコ非常勤教授とドリュー・ワイスマン教授だ。
ノーベル賞候補の米ペンシルベニア大のカタリン・カリコ非常勤教授㊧と
ドリュー・ワイスマン教授は2022年4月に来日し、日本国際賞を受賞した。
新型コロナワクチンの主な成分は、ウイルスのたんぱく質の一部が体内で作られるように設計したmRNAだ。接種してできたたんぱく質を免疫が記憶し、ウイルスが実際に侵入したときに感染防御や重症化予防に役立つ仕組みだ。
mRNAは体内で作らせたいたんぱく質の遺伝情報に合わせて人工合成できる。ただそのまま医療に応用するのは難しかった。体内で分解されやすい上、免疫反応を過剰に引き起こしてしまうためだ。カリコ氏らは05年、mRNAの一部の物質を変えるだけで過剰な免疫反応を回避できることを見つけた。さらに、体内でたんぱく質ができる効率が上がることも明らかにした。
独ビオンテックと米ファイザー、米モデルナはそれぞれ20年に新型コロナワクチンを実用化した。ワクチンの高い効果で新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の脅威から、多くの人を救った。mRNAはほかの感染症向けワクチンやがん治療薬の開発も進む。21年以降、カリコ氏らはノーベル賞の登竜門といわれる米ラスカー賞、カナダのガードナー国際賞などを相次ぎ受賞した。ノーベル賞は生理学・医学賞のほか、化学賞でも可能性がある。
生理学・医学賞では、がんなどの予防や治療につながる成果を挙げた研究者も注目される。遺伝性乳がんの原因遺伝子「BRCA1」を突き止めた米ワシントン大学のメアリー・クレア・キング教授がその一人だ。現在では遺伝子検査でBRCA遺伝子に変異が見つかった場合、乳房などを切除してがんを予防するといった応用が実現している。
米カリフォルニア大学サンディエゴ校のナポレオン・フェラーラ特別教授は新しい血管を作るのを促すたんぱく質「血管内皮細胞増殖因子(VEGF)」を発見した。がん細胞はVEGFを出して周囲に血管を作らせ栄養を集める。フェラーラ氏の成果はVEGFの働きを抑える新しい仕組みの抗がん剤の開発につながった。
英オックスフォード大学ケネディ研究所のマーク・フェルドマン名誉教授と英ケンブリッジ大学シドニー・サセックス・カレッジのラビンダー・マイニ名誉フェローは、自己免疫疾患を治療する手法を開発し、高く評価されている。TNFという炎症を起こす物質の働きを抑えることが関節リウマチを治療するカギになることを突き止め、薬の実用化にも貢献した。
国内の有望候補、京大・森和俊氏や筑波大・柳沢正史氏
国内では、細胞内のたんぱく質の品質管理の仕組みを解明した京都大学の森和俊教授や筑波大学の柳沢正史教授が有望視される。
森氏は細胞にあるたんぱく質の品質管理の仕組みを解明した。細胞の中にはたんぱく質の製造工場である小胞体という器官があり、たんぱく質の品質管理の機能も備える。正確につくられなかった不良品のたんぱく質がたまると細胞のストレスになってしまう。この状態を解消するために「小胞体ストレス応答」という反応でたんぱく質を分解したり修復したりする。
森氏はこの分野の研究の第一人者だ。小胞体ストレス応答は糖尿病や動脈硬化、パーキンソン病など様々な病気に関わるとされ、病気のメカニズム解明や治療法開発の研究も進む。森氏はガードナー国際賞やラスカー賞、米ブレークスルー賞など数々の有力な科学賞を受賞し、ノーベル賞に最も近い日本人の一人と目されている。
睡眠を制御する仕組みの解明に貢献した筑波大の柳沢氏も注目の候補だ。睡眠と覚醒の切り替えをつかさどるホルモン「オレキシン」を発見し、不眠症薬の開発につながった。同大国際統合睡眠医科学研究機構の機構長を務める。
睡眠の研究で知られる筑波大の柳沢正史教授
9月19日には英調査会社クラリベイトが、論文の引用回数が多いなど重要な貢献をした研究者をたたえる「クラリベイト引用栄誉賞」を柳沢氏に授与すると発表した。過去には約70人が同賞を受賞したあとにノーベル賞も受賞している。
日本が得意とする免疫分野では、免疫の暴走を抑える「制御性T細胞」を発見した坂口志文・大阪大学特任教授が注目される。このほかエイズウイルス(HIV)の増殖を抑える最初の治療薬を開発した満屋裕明・国立国際医療研究センター研究所長なども候補に挙がる。
ノーベル賞
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日経記事 2023.10.02 より引用