供給網戦略、トランプ氏が翻弄　「日本製追い風」試算も

2024-12-02 20:37:37 | トランプ政権

米国の次期大統領トランプ氏が企業のサプライチェーン（供給網）戦略を翻弄している。

SNS上で突如表明したメキシコ・カナダへの高関税措置が現実となれば、両国からの対米輸出品の追加関税額は日本企業の生産分だけで約1兆5000億円にふくらむ。北米に拠点を構える製造業は根本的な供給網の見直しが避けられない。

「影響を注視し、顧客と相談しながら適宜対応を考える」。

「タリフマン（関税男）」を自称するトランプ氏が25日に明らかにした中国への追加関税10%とメキシコ・カナダへの一律関税25%の方針に、住友電気工業の担当者は身構える。対米関税が0%だったメキシコに電池向け部品の新工場やワイヤハーネス（組み電線）の増産投資を進めてきた。

米国の政策で周辺国へ企業の投資が促進

トランプ前政権下で合意・発効した米国・メキシコ・カナダ協定（USMCA）は一定の要件を満たせば対米輸出関税がゼロとなる。

バイデン政権下のインフレ抑制法（IRA）ではメキシコ・カナダなどで組み立て、域内の部材調達比率が高い電気自動車（EV）に大幅な税優遇を適用した。

米国の産業優遇策に呼応し、企業は米周辺への投資を増やした。

国連貿易開発会議（UNCTAD）によると23年のカナダへの国外からの投資額はトランプ前政権が発足する前の16年に比べ40%増えていた。メキシコは同16%増だった。世界各国が国外から受け入れた投資額合計が34%減っていたのとは対照的だ。

日本企業も同様だ。

横浜ゴムはメキシコで27年の稼働を目指し乗用車用タイヤの新工場を3億8000万ドル（約570億円）かけて建設中だ。日本製鉄はカナダで13億4000万ドルかけて原料炭の権益を取得した。

カナダとメキシコで供給網を構築したことで、日本企業も米国の関税引き上げの影響は大きくなっている。みずほ証券の試算によると、米国が中国への10%の追加関税と、カナダやメキシコなど中南米への一律25%の関税を課すと、この3カ国・地域で日本企業が手掛ける米国への輸出品の追加関税額は年1兆5300億円に及ぶ。

このうち自動車を含む輸送機械分野が8割を占めるが、化学製品だけでも92億円、金属製品で145億円など中間財でも影響が大きい。

企業は供給網見直しを検討、日本・東南アジア・インドに注目か

生き残りを賭けた供給網見直しが水面下で始まっている。

ダイキン工業の十河政則会長は「米国向けのラインを南米向けに変えていくことも選択肢の一つだ」とする。4月にメキシコで空調機器の新工場を稼働させたばかりだった。実際に関税が課されれば、メキシコへの追加の投資計画などを見直す可能性もあるとする。リコーは米国向け事務機の生産を中国からタイに移すことを決めた。

企業が関税コストを引き下げるために供給網を再構築すると、輸出拡大という「漁夫の利」を得る可能性があるのが東南アジアやインド、そして日本だ。

アジア経済研究所の試算によると、トランプ氏が当初示唆していたように中国関税を60%に引き上げ、その他の国に一律10%の関税を課すと、コストアップや輸出減の影響で米中の国内総生産（GDP）にはマイナスに寄与する。

一方で、日本のGDPは中国の輸出減を補う輸出増などにより0.02%押し上げられ、東南アジアとインドも0.3%プラスだ。

通商政策に詳しいオウルズコンサルティンググループの羽生田慶介代表は「今回関税引き上げが示された3カ国からの拠点移管は慎重に判断すべきだ」と見る。関税引き上げを国家間の交渉材料に使うトランプ氏の「劇場型」政治のためだ。

トランプ氏が中国に加えカナダ、メキシコを狙いうちする背景には、両国が中国製品の迂回輸出経路となっているとの見方がある。

米国の国別輸入先をみると、ここ数年でカナダとメキシコの依存度が高まっていた。ほかにベトナムなど東南アジアからの輸入も増えている。

これらの国からの輸入拡大が中国の迂回輸出や中国資本を利すると判断されれば、「今後高関税の矛先がいつ新たな国に向かうか予断を許さない」（羽生田氏）。

トランプ氏が政権を担う今後4年間、企業の供給網への投資は常に難しい判断を迫られる。（京塚環、上阪欣史、大平祐嗣）

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日経記事2024.12.02より引用

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