バイデン氏は討論会後に民主党内から撤退要求が相次いだ=AP
【ワシントン=坂口幸裕】
米民主党のバイデン大統領は21日、11月の大統領選を戦う党の候補者指名を辞退し、選挙戦から撤退すると表明した。後継候補にハリス副大統領を支持すると明らかにした。
大統領の職務は2025年1月の任期まで続ける。
民主党は後継候補の選定手続きに入る。バイデン氏を党候補として正式に指名していないため、代議員が指名投票で新たな候補を選ぶことになる。
バイデン氏が推すハリス氏以外に、名乗りをあげる候補が出てくるかが焦点になる。
現職大統領が再選出馬を断念するのは1968年の大統領選への出馬を見送った民主のジョンソン氏以来、56年ぶりになる。民主はバイデン氏に代わる候補を決める手続きに入る。
バイデン氏は米東部時間午後2時ごろ、X(旧ツイッター)で声明を発表し「再選をめざすつもりだったが、私が選挙戦から退き、残りの任期を大統領としての職務全うすることに専念するのが、党にとっても国にとっても最善の利益になると考えている」と記した。
選挙戦から撤退する決断に至った経緯については「今週後半に国民に話す予定だ」と説明した。
その後、Xで「私は指名を受けないと決めた」と投稿した。「私はカマラ・ハリス氏を今年の党候補として全面的に支持し、推薦したい。民主党は今こそ団結してトランプを打ち負かす時だ。
打ち負かそう」と呼びかけた。20年大統領選でハリス氏を副大統領候補に指名したのは「最良の決断だった」と振り返った。
米大統領選は再選をめざすバイデン氏と、返り咲きを狙う共和党のトランプ前大統領が2020年に続いて再び対決する予定だった。バイデン氏の撤退表明によって超大国のトップを決める選挙戦の構図が一変する。
バイデン氏の進退を巡っては、民主内で撤退を求める声が相次いでいた。トランプ氏と6月27日に参加した第1回テレビ討論会で精彩を欠いた。現在81歳で再選して2期目を全うすれば86歳になるバイデン氏の年齢に対する不安が広がった。
米大統領は世界最強の軍事力を持つ米軍の最高司令官で、戦争の遂行や核兵器を使う最終判断を下す立場にある。かねて失言や記憶違いを繰り返してきたバイデン氏の認知力に懸念の声があった。
11月5日投開票の大統領選まであと3カ月半に迫っており、民主は早期に後継候補を固めて選挙戦を立て直す必要がある。
米メディアは後継候補としてハリス氏のほか、西部カリフォルニア州のニューサム知事や中西部ミシガン州のウィットマー知事、ブティジェッジ運輸長官らを挙げてきた。
バイデン氏と並んで演説するハリス氏(5月29日、ペンシルベニア州フィラデルフィア)
大統領選を戦う民主候補を選ぶ予備選はすでに終了し、バイデン氏が代議員の大半を獲得して指名が確定していた。民主が候補差しかえの手続きを円滑に進めなければ、党内が分裂して共和を利する結果になる可能性がある。
民主は8月19〜22日の党大会の前に代議員がオンラインでバイデン氏に投票し、党候補に正式指名する計画だった。バイデン氏が指名を辞退したことで代議員は別の候補者に投票できる。
民主は現職大統領が途中で選挙戦から撤退した例がある。
1968年大統領選でジョンソン大統領は勝算がないと判断し、同年3月に党の候補指名争いから撤退すると表明し、再選を断念した。代わって党候補になったハンフリー副大統領は11月の本選で、共和のニクソン氏に敗れた。
分析・考察
民主党内からもこの判断は歓迎されている模様だが、「バイデン大統領では厳しい」という点では党員の意見が一致していたとしても、夏の間に新たな民主党候補を選び、速やかに党員の支持を確立できるだろうか。
この時期からの混乱を避けるためのカマラ副大統領指名だったのだと思うが、民主党内ではハリス副大統領よりも人気が高く、2028年の大統領選への出馬が有力視されていた候補者が何人もいる。
女性候補となるミシガン州のウィトマー知事や、ニューソム・カリフォルニア知事、バイデン政権の高官であるブティジェッジ運輸長官など、経歴も様々であり、候補を一本化する過程は容易ではないだろう。
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今後の展望
バイデン氏のコロナ罹患は、この決断に大きな影響を与えたのではないか。
体力の衰えを実感した上、隔離生活でじっくり考える時間が生まれたと考えられる。
TV討論後もバイデン氏本人は選挙戦継続を主張していたが、トランプ暗殺未遂事件と共和党大会を経て、民主党も急展開を迎えた。
ハリス副大統領自身も直前まで知らされなかったそうだ。
今後の展望としては、バイデン氏が推したようにハリス副大統領が大統領候補になるのか(その場合は誰が副大統領候補になるのか)、それとも彼女が副大統領候補のまま、別にトランプ氏に勝てそうな候補を模索するのか、等がポイントであろう。
これからの一両日の展開が重要になる。
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今村卓丸紅
執行役員 丸紅経済研究所長・グローバル総括部長
分析・考察
本選まで3ヵ月半での撤退は異例、誰が後継候補でも民主党は劣勢からの再出発になります。
しかしトランプ氏の優勢もバイデン氏の高齢への有権者、特に民主党支持者の不安の裏返しであり、候補交代で民主党の挽回が始まると思います。
党大会、本選までの時間のなさも、候補者争いをしている余裕はないとの危機感を党内に広げる効果があり、ハリス氏へ候補一本化と党の結束が進みそう。
予備選から始めていればハリス氏に勝ちそうな有力候補はいますが、今回は譲ると思います。
副大統領候補を共和党州の知事から選べば、共和党のトランプ氏とバンス氏という岩盤支持層に合わせすぎた組み合わせと主張への対抗も十分可能。意外と接戦になるのでは。
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日経記事2024.07.22より引用