主要な中央銀行の幹部らが意見を交わす(写真は23年8月に開かれた昨年の会議)
主要中央銀行の首脳や経済学者による経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が22〜24日に開かれる。
市場は米連邦準備理事会(FRB)が次回の9月会合から利下げを開始すると確実視し、関心はそのペースに向かう。歴史的な金融引き締めからの出口をパウエル議長はどう見通すのか。
会議は米西部ワイオミング州のロッキー山脈を望む山荘で開かれる。対面での会議は3年連続だ。ヘラジカも出没する自然に囲まれた静かな環境で、日米欧の中央銀行高官や著名な経済学者がくつろぎながら意見を交わす。
市場が注目するのは23日午前8時(日本時間23日午後11時)に予定されるパウエル氏の講演だ。
新型コロナウイルス禍後に初の対面開催となった2022年の会議は、FRBが約27年ぶりとなる0.75%の大幅利上げを続けるなかで開かれた。
パウエル氏は高インフレの抑制に向けて景気後退も辞さない覚悟を示し、米株価の急落は日本にまで波及した。
FRBの利上げ局面は22年3月から23年7月まで続き、政策金利は5.25〜5.5%と01年以来の高水準となった。
23年8月の会議ではパウエル氏が講演でさらに金利を引き上げる可能性も示唆したが、既に身構えていた市場は「懸念したほどの強い発信ではない」と株高で反応した。
利下げへの転換点が迫る今年の講演は、長引く金融引き締めで減速感を強める景気への配慮を強めたものになる公算が大きい。過去2年の講演で最大の懸念材料だったインフレ率はすでに低下しているためだ。
FRBが重視する米個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比の上昇率が6月に2.5%まで鈍化して目標の2%に近い。7月の消費者物価もおおむね市場予想通り鈍化した。
一方で米景気の減速懸念は7月の雇用統計が公表された8月2日から急速に高まった。失業率が6月の4.1%から4.3%に上昇し、世界的な株価急落につながった。
雇用統計は「労働市場の冷え込みを誇張した可能性がある」(ボウマン理事)という分析も増えている。企業の一時解雇(レイオフ)はまだ低水準で、再就職に難航している長期的な失業者も少ないためだ。消費の堅調さもあり、景気への過度な悲観論は和らいできた。
金利先物市場は9月17〜18日に予定される米連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBが通常の2倍となる0.5%の利下げに踏み切る可能性を一時は9割近く織り込んだが、15日時点では3割弱に低下した。残り7割強は0.25%の利下げを予想している。
2日の「雇用統計ショック」の後、パウエル氏の対外発信は初めてだ。景気の悪化リスクをどこまで真剣に受け止めているのかを市場は推し量る。想定より深刻なら大幅利下げの公算が大きくなり、市場の長期金利は低下する可能性がある。
山荘でかわされる経済・金融に関わる専門的な議論も、25年以降の利下げペースを占うヒントになる可能性がある。
今年の会議のテーマは「金融政策の有効性と波及経路の再評価」。米経済は想定以上に底堅く、金融引き締めがあまり効かなくなったとの指摘もある。金融政策の変更がどれほどの時間をかけて実体経済に浸透するのかなど論点は多い。
新型コロナウイルス禍が世界に広がり始めてから5年弱。米国で40年ぶりとなった高インフレがピークを付けてから2年強。米国は金融引き締めの手じまいで経済の正常化を目指す。
(ワシントン=高見浩輔)