丸紅は成長の加速へ高収益事業を選別し、資産の入れ替えを進める(古谷孝之最高財務責任者=CFO)
丸紅は資産売却を加速する。2026年3月期から始まる次の中期経営計画期間に、少なくとも年1600億円規模の資産売却による資金回収を検討する。
25年3月期までの3年間の平均(一部大型案件除く)より3割増える。成長の加速に向け、高収益事業を選別する。資産の入れ替えで投資資金を確保する。
丸紅の古谷孝之最高財務責任者(CFO)は日本経済新聞の取材に応じ、次期中計での資産売却について「少なくとも今年度の見込みである1600億円程度は毎年やっていくことを検討している」と語った。
25年3月期まで3年間の現中計における資金配分のうち、キャッシュインは営業キャッシュフロー(CF)から運転資本の増減要因を除いた「基礎営業CF」で約1兆7100億円、資産売却で約6800億円の見込み。
一方のキャッシュアウトは成長投資などが1兆3600億円、株主還元が5600億円、その他は負債返済や内部留保などだ。
現中計での資産売却は米穀物集荷・販売大手ガビロンの売却(約3300億円)が、およそ半分を占めた。
この売却で得た現金は債務の返済に使った。投資や株主還元などの実質的な原資となったのは残りの約3500億円で、一部の大型案件を除くと年平均で1200億円程度だった。
資産売却の規模を引き上げる背景にあるのが成長投資の強化と、資本効率の維持・向上だ。次期中計の自己資本利益率(ROE)は、現中計の目標で25年3月期の見込み値でもある15%をベースに目標水準を検討する。
丸紅のROEは24年3月期までの3年平均で20%と、5大商社のなかで最も高い。それでもなお収益性の向上にこだわるのは、投資家が求める最低限のリターンである株主資本コストの高さがある。
日経バリューサーチによると、過去5年の株価変動から算出した株主資本コストは10.4%。他の大手商社(7〜9%台)を上回る。20年3月期にガビロンで巨額の減損損失を計上したことなどが影響しているとみられる。
基礎営業CFは現中計と劣らない規模での創出を目指しつつ、積極的な資産売却で投資の原資を確保する。
投資先は丸紅が優位性を持つと認識する食料や農業資材、機械や輸送機、リースなどの分野を見据える。資源分野も「既存事業の拡張はやる」(古谷CFO)という。
売却候補は投下資本利益率(ROIC)と成長性という2つの要素から選別する。利益は安定しているものの、ROICが相対的に低いIPP(独立系発電事業)などが売却候補となる可能性がある。
市場では「単に投資を拡大させるという方針だけでなく、本当に収益性が高い案件を見定めた上で投資ができるかどうかを注視している」(大和証券の永野雅幸シニアアナリスト)との声が出る。
次期中計では株主還元の拡大も視野に入れる。古谷CFOは総還元性向について「引き上げを検討している」と語る。
25年3月期は42%と、現中計の総還元性向の目安(30〜35%程度)を上回る見込みだ。市場では、次期中計で目安の40%以上への引き上げが意識されている。
財務レバレッジはほぼ同水準になりそう。
有利子負債から現預金を引いた純有利子負債ベースの負債資本倍率(ネットDEレシオ)は「25年3月末時点の予想である0.6〜0.7倍をベースに置いてやっていく」(古谷CFO)。
世界景気の悪化などで営業CFが想定を大きく下回るなどの不測の事態に備え、財務面の余裕を残しておく狙いがある。
古谷CFOは「業績の変動を抑え、サステナビリティーなど非財務の取り組みにも注力し株主資本コストを下げる」とも説明する。
丸紅の予想PER(株価収益率)は8倍程度。伊藤忠商事(約13倍)、三菱商事(約11倍)などに比べて低い。
野村証券の成田康浩マネージング・ディレクターは「外部環境が悪化する局面でも他社に比べて業績の耐性があると示せれば、バリュエーションはさらに上がる余地がある」と指摘する。
(森国司)
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日経記事2024.12.12より引用