娘よ
2008-06-07 | 雑記
今度の父の日に妻方の義父上への贈り物を選ぶべく、ネットで入浴剤などを探していた。
そこで、見つけたのが『無添加天然素材100%生薬』な入浴剤。10包で4000円近くの品だが、『無添加云々~』なら、いいのではないか?と思い、妻にお伺いをたてた。
妻 「高っ!どうせあの人(父)『無添加』とか関係ないだろうし、もう少し安くて数あるヤツのほうがいいって」
私 「そ、そうか?でもこれ、なんだかとても効きそうなんだけど・・・」
妻 「いいって、いいって、ホント、無駄だから」
世の娘たちが皆、こうではないとは思うが、得てして父というものは娘から蔑ろにされがちな生き物なのだろうな、と思った。
で、これではあまりにも哀れなので、ひとつ私が妄想する『父の日』を記しておく。
では、妄想の、はじまり、はじまりー。↓
娘のなつみは今年小学校にあがったばかりのピカピカの一年生。最近ではちょっぴり生意気な口を利くようになったが、父が残業などで遅くなる日などは「なっちゃん、パパがかえってくるまで、おきてるもん!」などと言ったそばからウトウトしはじめ、そのまま朝までグッスリ寝入ってしまう、まだまだあどけなさの残る女の子である。
父もまた、そんな娘のいじらしいセリフを妻から聞いて、仕事から帰ってくると真っ先に娘の寝顔を見にいき「ごめんなぁ、なっちゃん・・・パパ、明日はがんばって仕事早く終わらせて帰ってくるからなぁ・・・一緒にお風呂入ろうなぁ」と、少し涙ぐみながら囁きかける典型的な親バカである。
そんな二人の、今年の父の日。娘は父のために料理を作ってあげる、と言い出した。
昼過ぎから父は娘に、
「これからじゅんびしますからね、パパはおそとへいっててください!」
と、半ば強引に追い出されたものの、父の相好は崩れっぱなしで、近所を散歩しながら道行く人々に気持ち悪がられる始末であった。
そんなこんなで、とくに行くあてもなくぶらぶらしていると、なつみと同年代の娘を連れた家族などをちらほら見かけ、その都度「ふっ、やっぱりウチのなつみが一番可愛いな、そして、世界一、良い子だ」などと親バカ全開で胸張っていたら、気付けば結構な時間が過ぎていた。もうそろそろ、帰ってもいいかな?と考えた瞬間、メールの着信音が鳴り、見るとなつみが母から借りた携帯で<ぱぱおかえり>と打ってあった。
父は思った。どうよ?この親子の絆!以心伝心だよ!
<パパ、すぐかえるぞ!>
速攻で返信し、速攻で娘からのメールを保存フォルダに移した。そしておもむろに待ち受け画面のなつみの笑顔を見つめ、また相好をグダグダに崩して早足で我が家を目指した。
帰るとすでに風呂が沸いており、妻に「お風呂、入っちゃってよ」と言われ、すかさず「おーい!なっちゃんも一緒に入ろう!」と声をかけたが、「なっちゃん、いまいそがしーから!ひとりではいって!」と返され、いささかしょんぼりしてしまったが「なつみ、アナタのために一所懸命やってるんだから」と妻に励まされ、何とか気を取り直して、まだ陽が暮れぬうちのちょっぴり贅沢な入浴を満喫することにした。
風呂から上がるとテーブルに瓶ビールが用意されていた。近頃ではビールはおろか、発泡酒でさえ我が家ではお目にかかれないようになってきたのに・・・ビバ!父の日。
父が席につくと、なつみが隣の椅子によじ登って、小さな両手で懸命にビール瓶を掴み「はい、ぱぱ、どうぞ」と真剣な眼差しでコップを凝視する。
「おっ、なっちゃん、大丈夫か?」
一瞬、貴重なビールがなつみのその幼い手から滑り落ちて台無しになりやしないかとハラハラしたが、娘のその「零すまい!」とする必死の形相を見ていると、ビールなんかよりも大切なものがあるんだよ、と自責し、自然と顔をほころばせていた。
しかし、案の定、なつみはビールを手許から滑らせた。
「おおーっとぉ!セーフ、セーーーフ・・・」
そんな予感がしていたおかげで、滑り落ちた瞬間、すぐさま父が瓶を立て直したので大事には至らなかったが、娘の瞳は少し潤みはじめてきた。
父は大げさなくらいに「大丈夫だよ」を連発して、コップにビールを注ぎ、ほぼ泡のみとなったビールを口許に持っていき「ぷはーっ!」と美味さを強調しながら鼻の頭と口の周りを泡だらけにした笑顔をなつみに向けた。
それを見たなつみは「ぷっ!」と噴出した。どうやら気を持ち直してくれたようで、父は「ほっ」と胸を撫で下ろした。
なつみはトコトコと冷蔵庫まで歩いてゆき中から小皿を取り出してきて「おつまみです」と、父の前に差し出した。
その皿には緑色した豆がコロコロと乗っかっていた。
「これ、は・・・枝豆、かい?」
「うん!なっちゃんがむいたの」
たぶん、枝豆の美味しさ、というか、醍醐味というのは、ビールを呑みつつその房をいちいち「ムニ」と取り出し、同時に房についた塩分を口に含むことにあるのだろうな、などと父は中途半端な通人ぶった想いを心に過ぎらせたが、ナニクソ!なっちゃんが一所懸命、オレのために剥いてくれた枝豆に勝る枝豆がこの世にあろうものか!と、ひと粒ひと粒つまみながら、「おいしいよー、なっちゃんが剥いてくれた枝豆、すごくおいしーよー」と、傍から見ると貧相な画ヅラにもかかわらずその手を進めつづけた。
それから娘は次々と小皿を出してきた。
もろきゅう、セロリとニンジンの野菜スティック、トマトスライスというか雑切りトマト・・・・。
「な、なんだか、野菜ばっかりだね・・・」思わず父はそうこぼしてしまう。
すると娘は「パパはいつもおやさいぶそくですからね。パパのためをおもってです」と腰に手をあて胸張り、言い放った。
「それ、ママが言ったんだろ・・・・」
そう言って妻のほうに目をやると、妻はそそくさと視線を逸らし笑顔でハミングなどしながら鍋の様子を見るフリをする。
やれやれ、でも、ここに並んでいる野菜は、全部なつみが、オレのために用意してくれたものだ、そして母に吹き込まれたとはいえ、オレの身体を気遣ってくれているんだ、パパ、もちろん、残さず食べるよ!
青臭さを娘の愛情というスパイスで中和させながらビールで流し込んでいたら、横から「はい、気をつけてね。こぼさないようにね」と妻の声が聞こえ、ふと目をやるとなつみがソロリソロリと大皿を震わせながらこちらにやってくる最中だった。なつみは息を止めているのか、真剣な面持ちで顔を紅潮させながらテーブルまで慎重な足取りでやってきた。親バカな父も一緒に息を止めていたらしく、無事その大皿を父に手渡すと、二人同時に「ぷはー」と息を吐き出し、二人顔を見合わせにっこり笑い合った。
「おおっ!肉じゃがかー!」
肉じゃがは、父の大好物であった。
「これも、なっちゃんが作ったのか?」
「うん、なっちゃんね、このじゃがいもさんとにんじんさんとたまねぎさん、きったんだよー。たまねぎさんきってたらおめめがいたくなったんだよー」
「そうかー、そうかー、えらいなー、なっちゃん、パパ、肉じゃが、大大、大好きなんだよー」
「えへへ、どうぞ、めしあがれ!」
父は「うんうん」と満面の笑みでうなずき、早速乱雑に切られた不揃い極まりないじゃがいもを口の中に放り込んだ。
味は、確かにいつもの妻の味なのだが、しかし、それだけではない。娘の父を想う愛情という名のスパイスが確実に効いている、と父は感じた。
「おいしーよ、なっちゃん。うん、ホント、おいしー。なっちゃんは料理の才能があるなー」
もはやこのバカ・・・いや、父に何も言うことはないだろう。
なつみは照れ臭そうに身をよじり、母のほうへ目を向ける。妻も笑顔でそれに応える。
父はモリモリと肉じゃがを口に運ぶ、すると突然、父がポロポロと涙をこぼしはじめた。
「ちょ、ちょっと、アナタ、どうしたの!?」妻がその異変に気付き、ついで娘が、「パパ、どうしたの?おなか、いたいの?」と心配顔で父に近寄る。
父は涙と鼻水でグジュグジュになった顔を横に振り、肉じゃがでいっぱいになった口をモゴモゴとさせ、一呼吸置いて「ごくん」と呑み込み、ビールで喉を潤すと、語りだした。
「いや、なんだかな、こんな美味い料理を作れるんなら、きっとなつみは良いお嫁さんになるだろうなぁ、って思って・・・こんなに可愛くって、優しくって、料理も上手だったら、ホント、すぐにお嫁にいっちゃうんだろうなぁ、って、そんなこと、ふと思ったら、パパ、なんだか・・・・な・・・」
妻は「呆れた」といった様子で薄い笑みを浮かべ「さっ、なっちゃん。私たちもご飯食べよう!」と、場を取り繕いだした。
だが、ビールと自分の想いと娘の優しさにいささか酔いだしてきた父は、続けざまに娘に言う。
「なっちゃん!大きくなってもパパと一緒にいてくれよな!そうだ、なっちゃん、前にパパのお嫁さんになってくれるって、言ったよな!」
流石にこの言葉には妻もうんざりした様子であったが、父はかまわず娘に問いかける。
しかし当のなつみは「えーっ!ダメだよー!だってなっちゃん、ヒデミチくんのお嫁さんになるんだもーん!」と少々ふてくされ気味で言い放った。
流石にこの言葉は母も「まずい」と思って夫のほうを見ると、案の定、彼の時間はフリーズしていた。
「そ、そうだ、ほら、なっちゃん、パパにまだ渡す物あったでしょ」
今日の妻は場を取り繕う名人である。
なつみは小さくうなずいた後、小走りで向こうへその『物』を取りに行った。その合間に妻は父に「ほら、なにやってんの!」と喝をいれる。
父は「すまん・・・」と言いながらティッシュで鼻をかむ。
「はい、パパ、これ、どーぞ」すぐに戻ってきた娘が父の前にピンクのリボンをかけて丸めた画用紙を差し出す。
「おっ、何かなー?」父はリボンをほどき、クルクルと画用紙を開くと、そこにはクレヨンで描かれた父の絵が、あった。『パパいつもおしごとごくろーさま』とも書かれてあった。
父、号泣しながら娘を抱きしめる。
その夜・・・・。
寝室に貼られた愛おしい絵を見つめながら、父が険のある声音で妻に訊ねる。
「おい、ヒデミチってのは、どこの馬の骨ヤローだ!?」
妻は鬱陶しそうに、
「もう!早く寝なさいよー!父の日は終わったんだから!」
「・・・・・・すまん」
父が憂いの残った想いで絵を見返そうとしたが、無情にも妻に電気を消された。
(了)
あら、なんだか、けっきょく哀れになっちまった。。。。だが、がんばれ!世の父親たちよ!
そこで、見つけたのが『無添加天然素材100%生薬』な入浴剤。10包で4000円近くの品だが、『無添加云々~』なら、いいのではないか?と思い、妻にお伺いをたてた。
妻 「高っ!どうせあの人(父)『無添加』とか関係ないだろうし、もう少し安くて数あるヤツのほうがいいって」
私 「そ、そうか?でもこれ、なんだかとても効きそうなんだけど・・・」
妻 「いいって、いいって、ホント、無駄だから」
世の娘たちが皆、こうではないとは思うが、得てして父というものは娘から蔑ろにされがちな生き物なのだろうな、と思った。
で、これではあまりにも哀れなので、ひとつ私が妄想する『父の日』を記しておく。
では、妄想の、はじまり、はじまりー。↓
娘のなつみは今年小学校にあがったばかりのピカピカの一年生。最近ではちょっぴり生意気な口を利くようになったが、父が残業などで遅くなる日などは「なっちゃん、パパがかえってくるまで、おきてるもん!」などと言ったそばからウトウトしはじめ、そのまま朝までグッスリ寝入ってしまう、まだまだあどけなさの残る女の子である。
父もまた、そんな娘のいじらしいセリフを妻から聞いて、仕事から帰ってくると真っ先に娘の寝顔を見にいき「ごめんなぁ、なっちゃん・・・パパ、明日はがんばって仕事早く終わらせて帰ってくるからなぁ・・・一緒にお風呂入ろうなぁ」と、少し涙ぐみながら囁きかける典型的な親バカである。
そんな二人の、今年の父の日。娘は父のために料理を作ってあげる、と言い出した。
昼過ぎから父は娘に、
「これからじゅんびしますからね、パパはおそとへいっててください!」
と、半ば強引に追い出されたものの、父の相好は崩れっぱなしで、近所を散歩しながら道行く人々に気持ち悪がられる始末であった。
そんなこんなで、とくに行くあてもなくぶらぶらしていると、なつみと同年代の娘を連れた家族などをちらほら見かけ、その都度「ふっ、やっぱりウチのなつみが一番可愛いな、そして、世界一、良い子だ」などと親バカ全開で胸張っていたら、気付けば結構な時間が過ぎていた。もうそろそろ、帰ってもいいかな?と考えた瞬間、メールの着信音が鳴り、見るとなつみが母から借りた携帯で<ぱぱおかえり>と打ってあった。
父は思った。どうよ?この親子の絆!以心伝心だよ!
<パパ、すぐかえるぞ!>
速攻で返信し、速攻で娘からのメールを保存フォルダに移した。そしておもむろに待ち受け画面のなつみの笑顔を見つめ、また相好をグダグダに崩して早足で我が家を目指した。
帰るとすでに風呂が沸いており、妻に「お風呂、入っちゃってよ」と言われ、すかさず「おーい!なっちゃんも一緒に入ろう!」と声をかけたが、「なっちゃん、いまいそがしーから!ひとりではいって!」と返され、いささかしょんぼりしてしまったが「なつみ、アナタのために一所懸命やってるんだから」と妻に励まされ、何とか気を取り直して、まだ陽が暮れぬうちのちょっぴり贅沢な入浴を満喫することにした。
風呂から上がるとテーブルに瓶ビールが用意されていた。近頃ではビールはおろか、発泡酒でさえ我が家ではお目にかかれないようになってきたのに・・・ビバ!父の日。
父が席につくと、なつみが隣の椅子によじ登って、小さな両手で懸命にビール瓶を掴み「はい、ぱぱ、どうぞ」と真剣な眼差しでコップを凝視する。
「おっ、なっちゃん、大丈夫か?」
一瞬、貴重なビールがなつみのその幼い手から滑り落ちて台無しになりやしないかとハラハラしたが、娘のその「零すまい!」とする必死の形相を見ていると、ビールなんかよりも大切なものがあるんだよ、と自責し、自然と顔をほころばせていた。
しかし、案の定、なつみはビールを手許から滑らせた。
「おおーっとぉ!セーフ、セーーーフ・・・」
そんな予感がしていたおかげで、滑り落ちた瞬間、すぐさま父が瓶を立て直したので大事には至らなかったが、娘の瞳は少し潤みはじめてきた。
父は大げさなくらいに「大丈夫だよ」を連発して、コップにビールを注ぎ、ほぼ泡のみとなったビールを口許に持っていき「ぷはーっ!」と美味さを強調しながら鼻の頭と口の周りを泡だらけにした笑顔をなつみに向けた。
それを見たなつみは「ぷっ!」と噴出した。どうやら気を持ち直してくれたようで、父は「ほっ」と胸を撫で下ろした。
なつみはトコトコと冷蔵庫まで歩いてゆき中から小皿を取り出してきて「おつまみです」と、父の前に差し出した。
その皿には緑色した豆がコロコロと乗っかっていた。
「これ、は・・・枝豆、かい?」
「うん!なっちゃんがむいたの」
たぶん、枝豆の美味しさ、というか、醍醐味というのは、ビールを呑みつつその房をいちいち「ムニ」と取り出し、同時に房についた塩分を口に含むことにあるのだろうな、などと父は中途半端な通人ぶった想いを心に過ぎらせたが、ナニクソ!なっちゃんが一所懸命、オレのために剥いてくれた枝豆に勝る枝豆がこの世にあろうものか!と、ひと粒ひと粒つまみながら、「おいしいよー、なっちゃんが剥いてくれた枝豆、すごくおいしーよー」と、傍から見ると貧相な画ヅラにもかかわらずその手を進めつづけた。
それから娘は次々と小皿を出してきた。
もろきゅう、セロリとニンジンの野菜スティック、トマトスライスというか雑切りトマト・・・・。
「な、なんだか、野菜ばっかりだね・・・」思わず父はそうこぼしてしまう。
すると娘は「パパはいつもおやさいぶそくですからね。パパのためをおもってです」と腰に手をあて胸張り、言い放った。
「それ、ママが言ったんだろ・・・・」
そう言って妻のほうに目をやると、妻はそそくさと視線を逸らし笑顔でハミングなどしながら鍋の様子を見るフリをする。
やれやれ、でも、ここに並んでいる野菜は、全部なつみが、オレのために用意してくれたものだ、そして母に吹き込まれたとはいえ、オレの身体を気遣ってくれているんだ、パパ、もちろん、残さず食べるよ!
青臭さを娘の愛情というスパイスで中和させながらビールで流し込んでいたら、横から「はい、気をつけてね。こぼさないようにね」と妻の声が聞こえ、ふと目をやるとなつみがソロリソロリと大皿を震わせながらこちらにやってくる最中だった。なつみは息を止めているのか、真剣な面持ちで顔を紅潮させながらテーブルまで慎重な足取りでやってきた。親バカな父も一緒に息を止めていたらしく、無事その大皿を父に手渡すと、二人同時に「ぷはー」と息を吐き出し、二人顔を見合わせにっこり笑い合った。
「おおっ!肉じゃがかー!」
肉じゃがは、父の大好物であった。
「これも、なっちゃんが作ったのか?」
「うん、なっちゃんね、このじゃがいもさんとにんじんさんとたまねぎさん、きったんだよー。たまねぎさんきってたらおめめがいたくなったんだよー」
「そうかー、そうかー、えらいなー、なっちゃん、パパ、肉じゃが、大大、大好きなんだよー」
「えへへ、どうぞ、めしあがれ!」
父は「うんうん」と満面の笑みでうなずき、早速乱雑に切られた不揃い極まりないじゃがいもを口の中に放り込んだ。
味は、確かにいつもの妻の味なのだが、しかし、それだけではない。娘の父を想う愛情という名のスパイスが確実に効いている、と父は感じた。
「おいしーよ、なっちゃん。うん、ホント、おいしー。なっちゃんは料理の才能があるなー」
もはやこのバカ・・・いや、父に何も言うことはないだろう。
なつみは照れ臭そうに身をよじり、母のほうへ目を向ける。妻も笑顔でそれに応える。
父はモリモリと肉じゃがを口に運ぶ、すると突然、父がポロポロと涙をこぼしはじめた。
「ちょ、ちょっと、アナタ、どうしたの!?」妻がその異変に気付き、ついで娘が、「パパ、どうしたの?おなか、いたいの?」と心配顔で父に近寄る。
父は涙と鼻水でグジュグジュになった顔を横に振り、肉じゃがでいっぱいになった口をモゴモゴとさせ、一呼吸置いて「ごくん」と呑み込み、ビールで喉を潤すと、語りだした。
「いや、なんだかな、こんな美味い料理を作れるんなら、きっとなつみは良いお嫁さんになるだろうなぁ、って思って・・・こんなに可愛くって、優しくって、料理も上手だったら、ホント、すぐにお嫁にいっちゃうんだろうなぁ、って、そんなこと、ふと思ったら、パパ、なんだか・・・・な・・・」
妻は「呆れた」といった様子で薄い笑みを浮かべ「さっ、なっちゃん。私たちもご飯食べよう!」と、場を取り繕いだした。
だが、ビールと自分の想いと娘の優しさにいささか酔いだしてきた父は、続けざまに娘に言う。
「なっちゃん!大きくなってもパパと一緒にいてくれよな!そうだ、なっちゃん、前にパパのお嫁さんになってくれるって、言ったよな!」
流石にこの言葉には妻もうんざりした様子であったが、父はかまわず娘に問いかける。
しかし当のなつみは「えーっ!ダメだよー!だってなっちゃん、ヒデミチくんのお嫁さんになるんだもーん!」と少々ふてくされ気味で言い放った。
流石にこの言葉は母も「まずい」と思って夫のほうを見ると、案の定、彼の時間はフリーズしていた。
「そ、そうだ、ほら、なっちゃん、パパにまだ渡す物あったでしょ」
今日の妻は場を取り繕う名人である。
なつみは小さくうなずいた後、小走りで向こうへその『物』を取りに行った。その合間に妻は父に「ほら、なにやってんの!」と喝をいれる。
父は「すまん・・・」と言いながらティッシュで鼻をかむ。
「はい、パパ、これ、どーぞ」すぐに戻ってきた娘が父の前にピンクのリボンをかけて丸めた画用紙を差し出す。
「おっ、何かなー?」父はリボンをほどき、クルクルと画用紙を開くと、そこにはクレヨンで描かれた父の絵が、あった。『パパいつもおしごとごくろーさま』とも書かれてあった。
父、号泣しながら娘を抱きしめる。
その夜・・・・。
寝室に貼られた愛おしい絵を見つめながら、父が険のある声音で妻に訊ねる。
「おい、ヒデミチってのは、どこの馬の骨ヤローだ!?」
妻は鬱陶しそうに、
「もう!早く寝なさいよー!父の日は終わったんだから!」
「・・・・・・すまん」
父が憂いの残った想いで絵を見返そうとしたが、無情にも妻に電気を消された。
(了)
あら、なんだか、けっきょく哀れになっちまった。。。。だが、がんばれ!世の父親たちよ!