雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

酔いがさめたら、うちに帰ろう。/鴨志田 穣

2010-02-21 | 小説
 出逢いは偶然であった。前述の「川上弘美コーナー」の上「か行の作家」のところに、ひょいと目がいった。

『鴨志田 穣』

 へー、カモちゃんの小説か。

 彼のことは、ほぼ西原理恵子関連で知っているくらいで、そういえば彼の書いたものなど読んだことはなかったなぁ……そう思い至り、借りた次第だ。
 これがまあ、なんというか、本当にアタリだった。
 この本を「おもしろい」と簡単に言ってしまうと些か語弊が生じるが、いや、でも、おもしろい。そして、深い。とっても、深い。
 事の顛末を知っているからかも知れないが、とにかく響いてきた。そこにはまったく余計なものなどなしに、直截的な事実があるからだろう。

「アルコール依存症」 この響きが持つ、どうしようもなさや、残酷さが、ありありと描き出されているのに、事の顛末も知っているのに、時折「クスッ」と笑えてしまうのは、やはりカモちゃんの人柄、というか人間性そのものなのだな、と思える。
 
 この本以降、しばらくカモちゃんの本を読み漁った。『ばらっちからのカモメール』シリーズ、『アジアパー伝』シリーズ等々、そのどれもが、本当に好かった。かなりシャレにならないことも幾らか書かれてあるが、どうにも好感を覚えてしまってならない。

 ちょっと自分は、人よりお酒の量が過ぎるかな? と思っている人は、読んだほうがいい。教訓めいたことは一切書かれていないが、いくらかは自重できるようになる、と思う。いや、無理か? 呑んだら無理だな、やっぱ。

 ともあれ、鴨志田穣。男が惚れる男であることは間違いない。



 余談ではあるが、先日書店に行ったら平台にこの本が積み重ねてあった。もう何年も前に出た本がなんで? と思っていたら、どうやら映画化されたらしい。なんでもかんでも映画化するのはどうかな、と思う常日頃ではあるが、まあ、それは置いといて。
 主演は浅野忠信。「ほう」と思った。浅野忠信といえば昔、『地雷を踏んだらサヨウナラ』という映画で戦場カメラマン一ノ瀬泰造役を見事なまでに演じていた。
 
 カモちゃんも戦場カメラマンであった。
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センセイの鞄/川上 弘美

2010-02-21 | 小説
 川上弘美。この作家さんの本には、実のところ十四年前に出逢っている。芥川賞受賞作『蛇を踏む』だ。
 十四年前というと、自分は21才の時か……。このころといえば、なんだか闇雲に本を読んでいた時期で、たまたま新聞の広告欄で目に留まった『蛇を踏む』というタイトルに惹かれて(本当に、ジャケ買いならぬタイトル買い)内容もヘッタクレも判らずに購入した。まではよかったのだが、如何せん文学の「ブ」の字も解っちゃいない奴だったので、正直ナニがナニやらサッパリだった。
 そんな体験があったもので、未だに図書館で「川上弘美」の名を目にするものの、読んでみようという気は起こらなかった。しかし先日読んだ長嶋有著『電化製品列伝』に、この『センセイの鞄』がとりあげられていたもので、ちょっと読んでみようか、という気になった。
 するとこれが、殊の外いい。何がいいかって、文章がとても心地好い。やあ、もちろん、内容的にもすこぶるそそられたのだが、そのストーリーを内包するふわふわした、それでいて確かな存在感、というか、そこに在る安心感、みたいなものがひしひしと自分の中に入ってきた。
「これは大変な作家さんを読み落としていた」と即座に思った。

 十四年の時を経て、ようやく文学の「ブン」くらいは解ってきたのだろうか? それともただ単に、齢を喰って物の見方、考え方に柔軟性が出てきただけであろうか? ともあれ、因縁の(と言うほどのものでもないが)『蛇を踏む』を読んで、いったいどんな感慨を覚えるのか、愉しみである。



 ああ、しまった。毎度のことながら本題(『センセイの鞄』)について書いてないや。
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